日米における商業施設の惣菜とレストランの動向(株式会社インターライフ Zero hour vol.48)
外食産業が不振にも関わらず、持ち帰り惣菜、中食の分野は元気で、デパート地下ブームを呼んでいるし、ホテルもホテルの食材を活用したお惣菜に乗り出している。
中食産業がここまでの隆盛を見せるようになったのは米国の影響だ。米国の主婦は共稼ぎが多く、一食に使える時間は15分間と短い。そのために10年ほど前にボストンマーケットというチェーンHMR ホームミールリプレイスメント つまり、家庭の食事代行と言う業態を作り上げた(日本で言うお惣菜だ)。
http://www.bostonmarket.com/
本来は食品スーパーの片隅で調理したローティサリーチキンなどを細々と売っていた。主婦から見るとそんなみすぼらしい食事を買うのはちょっと恥ずかしい、貧乏人に見られるという引け目を持っていた。そこに登場したボストンマーケットはイタリアン風の外装とシンプルだが洒落た店内で、目の前で4-5台のガス大型ローティサリーオーブンが
赤々とした火でもってじっくりと焼き上げ、注文後、それらを切り分けるという、手作り感のあふれる高級な店造りで大成功したのだ。
最初の内は、ボストンマーケットの斬新さに人々は群がったが、よく考えてみるとボストンマーケットには調理人がいない。まるでファーストフードのようにアルバイトが調理している。よく考えると従来の食品スーパーと同じではないか。
その問題点を発見した、天才イタリア人シェフのフィルロマーノ氏がイーチーズと言う超繁盛のお総菜屋を作り上げた。フィルロマーノ氏は外食の天才と言われ、グルメハンバーガーチェーンであるファドラカーズやマカロニグリルなどの数多くの繁盛チェーンを創業している。そして、ダラスを中心にカジュアルテーマレストランのマルチコンセプトを展開している、ブリンカーインターナショナル社と共同でこのイーチーズを作り上げた。
http://www.eatzis.com/
ロマーノ氏の成功の方程式は
1)客に興奮させる店造り
店の入り口を入ると左右に大型のベーカリーオーブンと、ホテルの調理場にあるような本格的なキッチンが広がっている。つまり、客は大型のホテルの厨房に迷い込んだような印象を受ける。キッチンは左右だけでなく店内の壁面はほとんど調理場となっている。
入り口の大型キッチンにはホテルで使っているのと同様の大型のスチームケトルでソースやスープをすべて手作りで作ったり、人気のローティサリ-チキンも生の鳥の段階から処理をしている。
2)調理人が調理する
従業員のほとんどが調理学校を出たプロのコックが料理をしている。そしてそれぞれのコックは客の質問に的確に答えられるようになっている。客は安心して買えるわけだ。
3)注文により本格的な料理を作り上げる
ホットデリコーナーでは大型の薪釜と薪のローティサリーオーブンが赤々と燃えている。中央のショーケースにはステーキやローストなどの生の肉を置いてある。それを買ってこのコーナーでお好みのステーキに焼き上げてもらう。チキンの好きな客は一羽毎でも、1/2でも好きなだけカットしてくれ、マッシュポテトや温野菜を付け合わせてくれる。流行の料理テックスメックス系の熱々ベイビーバックリブも楽しめるし、ピザが好きな人は目の前でドウにトッピングをして焼き上げてくれる。高級イタリア料理店であるような本格的な薪釜で焼き上げるのだ。
ベーカリーも冷凍生地から作るのではなく、粉から練って発酵させ手で整形している。店舗に入った客はベーカリーコーナーから立ちこめる焼きたてのパンの香りと、美味しそうな手作りのケーキやペイストリーに思わず見とれ帰りには買って帰らざるを得なくなるのだ。
以上の仕掛けを施したイーチーズは、ダラス開店後、アトランタ、ヒューストン、そして、ニューヨークタイムズスクエアーのメイシーズ本店地下に店舗を構え、日本のデパ地下がニューヨークに実現と大評判となった。
イーチーズの成功を見た日本の食品スーパーや外食チェーンが続々とお惣菜ビジネスに参入を開始、日本でもイーチーズをそっくりに真似をしたブランチハウス(東京コールドチェーン)などが誕生し http://www.t-cc.co.jp/ 、惣菜の勢いを集客に活用するべく、ターミナル立地の百貨店の地下食品売り場は続々と改装をして、ロックフィールド、柿安、まつおか等の有力惣菜チェーンを入れている。
http://www.rockfield.co.jp/
http://www.kakiyasuhonten.co.jp/index.html
http://www.toshu.co.jp/
横浜そごうは地下2階の食品売り場を2001年末に大改造。大食品館エブリデーと名乗っており、日本最大規模をうたい文句だ。大きな特徴は個性的なお店の誘致と大きなイートインスペースが売り物としている。
http://www.sogo-gogo.com/yokohama_fashion/every_index.html
その後、吉祥寺のロンロン、銀座三越、池袋東武百貨店、西武百貨店、阪急梅田店、阪神梅田店、高島屋名古屋店、等、地下食品売り場をリニューアル。JR東日本系の駅上デパートもデパ地下に対抗するべく、リニューアルに乗り出している。
食品スーパーも2001年12月開業した「やまとオークシティ」はhttp://www.yamato-oakcity.com/ イオンとイトーヨーカ堂が同居する巨大なショッピングモールで、一階のお惣菜ではイーチーズのような店内調理をオープンキッチンで行っている。
さて、米国のお惣菜の動向は現在どうなっているだろうか? ニューヨークメイシー百貨店内のイーチーズは開店1年で撤退し、今はメーシー本体がお惣菜を営んでいるが賑わいはない。HMRのブームを巻き起こしたボストンマーケットは会社更生法を申請し、現在はマクドナルドの参加に入っている。その理由はお惣菜は日常食であり、食品スーパーなどで他の生食材と一緒に購入できた方が便利だという理由だ。また、専門店の値段は高すぎるという問題もあり、イーチーズに対抗して高級化した食品スーパーに負けてしまったのだ。
日本でもデパ地下ブームといわれて繁盛しているのは、都心のターミナルデパートの有名百貨店だけであり、地方や郊外のデパ地下は苦戦をしている。立川アトレではデパ地下の有名店、ロックフィールドのRF1、柿安、まつおか、フロ、等を入れているが、都心のデパ地下のようなにぎわいを見ることが出来ない。さらに、郊外立地という問題だけでなく、惣菜の有名店は限定されており都心との差別化を打ち出せないと言う問題を抱えている。また、現在の単価は100g300円以上と効果で日常食の価格ゾーンを大幅に越えており、デパ地下のブームが一段落すると、価格の問題がでてくるだろう。
今後のさらなる発展のためには難しい和惣菜企業が必要になる。外食企業がお惣菜など簡単だと思いがちだが、惣菜は時間がたっても美味しく食べられないといけないし、大皿に盛りつけをして時間が経過しても美しくなくてはいけない。レストランの調理とは異なる技術が必要なのだ。和惣菜が難しいのは煮物が中心の料理は色が地味で目立たないと言うことだ。百貨店の惣菜は盛りつけの美しさで売り上げが異なる。それも小さな皿でなく、大皿への盛りつけの技術と料理を美味しく見せる照明の色と照度、ショーケースのデザインが必要だ。さらに、ロックフィールドの新業態の融合ではファッショナブルレストランの著名なデザイナーを採用しているほど、最近は店舗のデザインが目立つことが求められている。
今後のデパ地下の惣菜はより個性のある惣菜店の誘致、特に和惣菜のお店、とイートインスペースの設置、オープンキッチンとプロの調理人によるデモンストレーション、などの差別化ではないだろうか。