価格競争時代に打ち勝つ連載 第1回(商業界 飲食店経営1994年4月号)

利益改善の手法

<利益改善のポイントはこれだけある > または、

<フードビジネスのリエンジニアリングとは何か>

日本にファーストフードや、ファミリーレストランチェーンが進出してからもう25年ほど経過する。各チェーンも規模の差はあれど、店舗の運営方法、食材の調達方法、建物のデザイン、厨房機器システム、など殆ど同じである。もう数年もチェーンの順位は変わっていなかった。お互い従来と同じことをやっていれば、営業成績に大きな差はでない状態が続いていたのである。しかし、バブルがはじけ、ガストが封を切った価格戦争に突如突入することにより、その太平の夢は覚まされたのである。

ガストの出現により、従来、フードビジネスの理念であったQSCの意味が、図1の様に変化してしまったのである。今までは美味しい料理を豪華なダイニングルームで提供していれば、値段はどうであれ一定のお客様を確保することは可能であったが、図1の様に、品質より、量。丁寧なサービスより、速さ。清潔で豪華な店舗より、安さ。と、一晩でお客様の要望は変化をとげたのである。

従来商品の価格を上げることはあっても、下げることなどなかったのである。誰も経験していなかったデフレーション経済に突入したのである。従来と同じことをやっていてはこの経済状態を乗り切ることが出来ないのである。単に商品の値下げをするだけではなく、企業の全ての仕組みを商品価格を下げて、売上が一時的に減少しても耐えて行ける体質に組変えなければならないのである。

読者の皆さんはリエンジニアリングという言葉を聞いたことがあると思う。製造工場を持つ大企業の経営手法であると思われていたであろう。しかし、フードビジネスに於いてもリエンジニアリングは有効な手法なのである。

「リエンジニアリングとは新しい競争に備えて自らの企業を徹底的に立て直すために必要な、新しいコンセプトによるビジネス・モデルと、手法である。」(日本経済新聞社刊、リエンジニアリング革命、M.ハマー、J.チャンピー共著)簡単に言うと「大会社の官僚的で非生産的な組織を排除し、無駄を省き、本当にお客様が何を望んでいるかを、0から見直し、解決する手法である。」

文中でのケーススタディーとして、米国のタコベルが取り上げられている。従来、中規模のメキシカンファーストフードのチェーンであったタコベルを、1983年以来リエンジニアリングの手法を使い、米国有数のファーストフードチェーンに仕立て上げたのである。

タコベルでは、まず、お客様が何を欲しがっているかを調べた。その結果お客様は、大きな店舗や、装飾などではなく、おいしい食事を早く、温かいうちに、きれいな店内で、安く食べたいということであった。そこで、お客様の食べる食材以外の全ての経費を見直し削減した。店舗での食材加工を極力無くし、店舗での必要な最終調理も自動化し、店舗面積に占める厨房の面積を縮小し、同じ建物で客席数を2倍にしたのである。それらの結果、商品の販売価格を大幅に下げることに成功し、ファーストフードチェーンで最初にバリューミール(低価格で価値のある食事)戦略を打ち出し、大成功したのである。

商品戦略だけではなく、売上を上げるため、従来の出店戦略にとらわれず、スーパーマーケット、学校、小売り店などに出店場所を拡張したのである。また、経費削減ということでは、本社経費の見直し、特にスーパーバイザー制度の見直しなど、従来の原則にとらわれず、積極的に実施したのである。ペプシコグループのタコベルのこのリエンジニアリングは大成功をおさめた。ペプシコグループのフードビジネス部門全体で米国のフードビジネスでNO.1になろうという計画の原動力となっているのである。

ガストやバーミヤンの戦略を見て、単に安売りをすれば良いのだと飛びつくのは大変危険である。会社の構造を変革し、経費のコントロール手法を確立しないで、ガストやバーミヤンの真似をして、値段を下げ、メニューの絞り込みをしたら、大火傷をするのは目に見えているのである。全国チェーンの場合には、ガストやバーミヤンの真似をする前に、リエンジニアリングにより会社の組織構造を見直し、損益分岐点を下げる事のできるしっかりした体質を作り上げる事が重要である。

5~15店くらいのチェーンの場合でも会社組織がまだできあがっていないといって、リエンジニアリングは必要ないというのではならない。リエンジニアと言うのは経営者の先入観念、前提、従来の習慣、を捨て去り、ビジネスを0から見直すことなのである。勿論、リスクを最小限に抑える必要がある中小のチェーンは、まず第一に損益分岐点を下げ、低成長に耐えられる体質に改善するべきである。それがうまくいってから、メニューの絞り込みとプライスダウンを慎重、かつ大胆に実施する必要があるのである。

現在までのところ、値段を下げて成功しているのはすかいらーくグループのみであるが、当然各社はその戦略を取り入れるであろう。現在のガストや、バーミヤンの客数の大幅増加は競合の激化により低下していくかもしれない。場合によっては競合のために、客数が増加しないまま、客単価の減少により売上が下がったままの状態が続く可能性もあるのである。この価格競争で生き残るには、どれだけ体力があるか、つまり、損益分岐点がどれだけ低い体質になっているかが重要なのである。

<リエンジニアリングによる具体的な革新>

1)<円高差益の活用による食材購入手法の 革新>従来、飲食業の規模によるメリットはそんなに有り得なかった、大手の企業と中小の企業の、損益分岐点は大きな差はなかったのである。大手の方が、食材の購入量が多い分コストは安くなるはずであるが、流通経路が複雑なため、場合によっては高くなる場合があるのであった。総合的には仕入れ量が多いので幾分はコストが低いのであるが、組織を運営して行くための本社経費が増大し、実際の損益分岐点に大きな差は生じないのである。しかし、バブル後の円高不況はそれを一変させたのである。大手のチェーンの中でも、現状を打破しようとするチェーンとそうでないチェーンとでは損益分岐点に大きな差がみられるようになってきている。

その最大の理由は、政府の規制緩和と円高差益をどのように取り入れられるかである。例をあげると、業種による食品原価率の変動である。ファーストフードの分野において、ドーナツとハンバーガーとはほぼ同じ時期に日本に進出してきたが、商品が異なるため、原価率は大きく異なっていた。ドーナツは、小麦粉を主体とした原材料であったため、比較的食品原価率が低く、25~28%といわれていた。ハンバーガーは牛肉を主体としているため、原価率が高く、35~40%であった。

ところが、ハンバーガーチェーンの主な原材料の牛肉やオレンジジュースは輸入自由化されコストが大幅に下がり、ポテト、豚肉等の輸入品の使用の増加も加わり、食材原価は30%を切るようになってきたのである。それに反して、ドーナツチェーンは、食管制度により、小麦粉の値段が徐々にしか下がらないため、原価率は相変わらず27%くらいで推移している。しかも、昨今の人件費の高騰により、作業の大変な発酵ドーナツを製造する事がむずかしくなり、冷凍のドーナツを導入せざるを得なくなってきている。また、ドーナツから主食の分野に乗り出そうとして、サンドイッチや、飲茶という、原価の高い商品を扱うようになったため、食品原価率は30%を越えようとしているのである。

また、同じハンバーガーチェーンにおいても、購入規模、輸入商品のルートにより、コストの差がでてきている。現在では、25%~35%と、場合によっては、10%もの差がでているのである。チェーンの規模による差だけではなくどのくらい自社で購入ルートを開発しているかという違いである。これは、飲食業より、一歩先に小売業で起こっている現象である。ダイエーと味の素による加工食品の共同開発では、タイの食品加工工場を活用し、そこで原材料を加工し日本に持ち込み価格を大幅に下げようというものである。当然これは、飲食店チェーンでも考えられ、実際、ロッテリアではタイでフライドチキンを現地加工し日本に持ち込み、品質を向上させながら、コストダウンも可能にしているのである。今のファーストフードの食材原価は異常に低下しているのである。つまり、ファーストフードはいつでも価格戦争に突入できる用意ができているのである。

従来の食品問屋などとの取引は、原材料コストをどの様に具体的に下げる能力があるかで、見直す必要がでてくるのではないだろうか。

2)<技術革新>人件費も同様である。従来と同じ調理方法や調理器具を使っていては、高給取りの正社員シェフを使わざるを得ず、人件費は30%を越えようとしているのである。ガストでは、コンベアーオーブンや、コンピュータ付きオートリフトフライヤーを使用する事などにより、一店舗あたりの社員数を1.5~2人にしているのである。また、フロアーでも従来当たり前であるテーブルへの案内や、テーブルセッティングを、変更しアルバイト人件費を低下させているのである。従来の経験や習慣で組み立てたオペレーションを、もう一度何が必要不可欠な作業なのか、0から見直す必要があるのである。

設備投資も同様である。従来ファミリーレストランでは、調理器具のチェーンによる差は殆ど無いといって良かった。調理器具を購入する動機も、調理能力が高いとか、値段が安いという事のみであった。特に洋食のファミリーレストランや、ファーストフードでは輸入機器は高価であり、機械を購入する最大のポイントは値段であった。しかし、この円高により、機械の値段は30年前の1/3に下がっているのである。そのため、従来高価なイメージのあった輸入機械の値段の方が、国産の機械より安く性能が良いという現象がおきているのである。チェーンの一部では厨房の設備全体を輸入し、場合によっては設置業者も海外に依頼しコストダウンを図ろうとしている動きもあるのである。

単にコストを削減するだけでなく、設備投資を積極的行う必要がある。値段は高くても熱効率が良く、取扱いが楽なために、水道光熱費や人件費などのランニングコストが大幅に下がる事が可能な厨房機器が出現し出しているのである。新型の高効率の機械を積極的に導入する事により損益分岐点を下げながら、品質を高める事が可能なのである。

店舗の建物や内装も同様である。バブルの時代に御殿のように豪華にしてしまったが、本当にお客様が必要としていたのは、そんな御殿ではなく、快適に食事ができる清潔な環境と、笑顔のサービス、スピードなのである。もう一度必要なサイズ、設備内装の見直しが必要なのであり、チェーンによっては既に30%ものコストダウンに成功しているのである。すかいらーくグループは、3年ほど前よりコストの低い建物の研究をしていたのである。今後でてくる、ガストやバーミヤン、夢庵などでは、現在より更に損益分岐点を下げる事が可能になっているのである。しかし、それには2~3年の月日をかけていることを忘れてはならない。これからガストを見習おうとする皆さんは、すかいらーくグループの2~3年遅れているのであり、彼らの3倍のスピードで追いつく必要があるのである。

3)<オペレーションの革新>ハンバーガーを大量にオーダーしたお客様に対して、レジのアルバイトが「こちらでお召し上がりですか、お持ち帰りですか?」という漫画的なマニュアル通りの応対を、マニュアル化に問題があるのだという風潮がある。本当にマニュアル化に問題があるのだろうか?もし、同じ応対をしてもそのレジの女の子が”にっこり”とほほえんだらどうだろうか、「ああまだ慣れていないんだなー」と好意的に解釈する事であろう。

問題は、マニュアル化の過程でスマイル等の、本質的な感じの良いサービスのトレーニングを徹底できなかった事にあるのではないだろうか。また、以前と異なる、複雑高度なPOSの操作や、オーダーエントリーシステムの操作に集中せざるを得ず、お客様の顔を見る余裕がないというシステムに問題があるのではないだろうか。

日本にファーストフードや、ファミリーレストランが出現する以前の20年以上前のラーメン屋やレストランの、投げやりなウエイトレスに戻れというのだろうか?やはり、原点に帰り本当にお客様の望んでいるサービスは何かを考え、無駄なものは省き本当に必要な真心からのサービスなどをトレーニングする必要があるのではないだろうか。従業員が十分に集まる今がそのチャンスなのである。単に経費を削るばかりでなく、必要なら投資もするべきである。

<ガストとバーミヤンに見るオペレーションの違い>

何度も言われるようだが、両者の特徴はメニューの絞り込みによる、損益分岐点の低減を実現し、それを、売価を下げる事につなげ、来店客数を大幅に増加させ利益を出す事である。両者とも同じやり方に見えるが、実はそのアプローチの方法は大きく異なるのである。

メニューの絞り込みにより、オペレーションを単純化し、人件費を下げるというのが両者の方法であるが。筆者が感銘を受けたのは、ファーストフードの手法を見事に消化している事である。

ファーストフードという言葉で、ハンバーガー、フライドチキン、ピザ、ドーナツ等のチェーンを同一視する傾向があるが、その厨房レイアウト、調理機器、オペレーション、チェーン展開等の経営方法等には大きな差がある。あえて分類すると2つに分かれる。

  1. レストランの売れ筋商品を絞り込み単品のファーストフードとして発展したチェーン。ミスタードーナツ、ダンキンドーナツ等のドーナツチェーン、フライドチキンやピザ等のチェーンである。ドーナツチェーンでは、何年もの熟練のいる発酵作業を、ドーナツ大学で集中トレーニングすることにより、たった1カ月で熟練したドーナツマンを養成できるのである。フライドチキンでは、従来難しかった調理方法を、圧力釜による調理で安定させた。ピザチェーンでは、ピザを焼く際に頻繁に焼けを目でみて調整する必要があったが、コンベアータイプのジェットオーブンの採用により、品質を安定させ、さらに、調理時間を短縮することができた。それらの技術革新により、チェーン化を達成しているのである。ケンタッキー州カービンという町にKFCの1号店が博物館になっている。ここで創始者のカーネル・サンダースはモーテルを営業しており、それに伴い食堂を営業していたのである。そこからフライドチキンが人気が出てフライドチキンのチェーンを開始したのだ。博物館を見るとその厨房は普通のレストランの厨房である事がわかる。当初はレンジの上で一般的な圧力釜で調理していたが、そのうち特殊な専門の圧力釜を開発しフライドチキンに特化していったのである。しかし、これらのチェーンは一般のレストランと同様に食材を店舗で生から加工する必要があるのである。
  2. 工場の流れ作業の発想から生まれたチェーンハンバーガーはレストランチェーンとしては歴史が最も浅いのである。最後発のチェーンとして、最初からチェーン展開を考え、厨房などのレイアウトを行っている。マクドナルドの創業者である、レイ・クロック氏の伝記によると最初の店を作る前に、テニスコートに実際のレイアウトをして、作業分析をしたとの事である。シカゴにある第一号店も博物館になっており、見る事が出来るが、その35年以上前のレイアウトと現在のレイアウトが余り変わっていない事に驚くのである。出発の時点から人間工学的に分析し、車の製造ラインの流れ作業の考え方を取り入れているのである。 また、メニューや、原材料のスペック、機械のスペック、オペレーション、トレーニングなど、当初よりチェーン展開を考え組み立てられているのである。そして、原材料は指定の業者で、一時加工され店舗では加熱調理すれば良いようになっている。市場から生の材料を購入して製造することはできないのである。

同じファーストフードと言っても上記のように大きく異なるのであり、厨房設備も当然全く考え方が違うのである。日本ではハンバーガーチェーンの成功をみて、ファーストフードのシステムを導入する時、その真似をしがちであるが、そのシステムは大がかりであり、導入するためにはかなりの投資と準備が必要である。そのため、新規のハンバーガーチェーンでの成功は少ないのである。米国でも同様であり、ハンバーガーチェーンのシステムより、ドーナツやフライドチキンなどの手作業のオペレーションの合理化の方が相変わらず主力であり、新規のチェーンシステムを組立易いのである。ただ、どちらの手法も、人件費の削減であるという点を見逃してはならないのである。

ガストはハンバーガーチェーンのシステムを取り入れたのであり今後新メニューの導入時には、機械設備と合った食材の加工をセントラルキッチンで行う必要があり、慎重な開発が要求されるのである。

バーミヤンはドーナツやフライドチキンのように作業の合理化をめざしたものであり、そう意味では新メニューの導入は容易である。すかいらーくグループがその2種類の異なるシステム的なアプローチを同時に実現できるというのは、オペレーションの底力であり、驚異である。

各種のファーストフードとガスト、バーミヤンの特性を表にしたのが図1である。縦軸にオペレーションの機械化の度合い、横軸にサービスのスピードの度合いをおいてみた。ハンバーガーチェーンは徹底した標準化と機械化したオペレーションにより、サービススピードがもっとも早くなる。

ガストとバーミヤンの特徴は機械化の度合いで大きく分かれるのである。これを見ると、バーミヤンの手法の方が導入し易いようであるが、反面、真似をし易いというデメリットもある。まず入りやすいバーミヤン方式を導入し、次に厨房の機械化を考えるべきであろう。システム開発は大変であるが、ガスト方式をとるとタコベルと同様に厨房の面積を削減でき、その分同じ建物でありながら、客席の面積が大きくとれ売上に貢献するというメリットがあるのである。

次回から、具体的にどのような、リエンジニアリングの手法がフードビジネスで可能であり、どうやって経費を削減し、損益分岐点を下げ、売上を向上できるかを具体的に述べていくつもりである。リエンジニアリングによる損益分岐点の低減といっても単に金を使わない下げ方ではなく、場合によっては積極的な投資による損益分岐点の低減や、基本オペレーションの見直によるコストダウン、評価システムの見直しによる人材の能力アップとサービスの向上など幅広く述べていく予定である。

また、企業規模により取り組み方も当然変わるべきであり、提言の内容を、5~15店、それ以上の全国チェーンとに分けて分かりやすく説明して行きたい。

2)今後の予定

  1. 経費コントロールの方法
  2. コストダウン入門編 。水道光熱費のコントロール
  3. 消耗品雑費のコントロール
  4. 人件費のコントロール
  5. 人材教育の見直しと評価システムの考えかた
  6. 食品原価の削減と、品質の向上を同時に達成する手法
  7. オペレーションの見直しと調理方法の革 命
  8. 店舗の現状分析手段 と店舗の売上を上げる積極的な再投資計画
  9. 店舗のリストラとフランチャイズシステムの導入による効率化
  10. 広告宣伝の見直し
  11. 店舗の設備投資の下げかた
  12. リストラ、リエンジニアーによる店舗管理のSV業務の見直しと、コンピュータによる合理的な管理
  13. 出店調査方法
著書 経営参考図書 一覧
TOP