技術改革: IT革命への取り組みは企業生命を左右する。

21世紀に向けた本部のあり方 第12回(商業界 飲食店経営2000年12月号)

IT革命への取り組みは企業生命を左右すると言って良い。現在は各企業の生存競争をかけた厳しい時代に突入している。大企業は組織が肥大化し意志決定が遅くなり、IT革命への取り組みに遅れている。このような下克上の時代に如何にIT革命に取り組むかは中小の飲食業のこれからの生存を左右するほど重要だ。ITというと苦手な方が多いようだが、何を取り組むべきか筆者の体験から論じてみよう。

1)ITの定義

IT インフォメーションテクノロジー には「IT」、「IT革命」等の表現があり、定義は人により異なる。ITというのはインフォメーションテクノロジーつまり、情報技術の事を言う。情報技術とは情報の伝達、交換を意味する。情報というと難しく考えるが、簡単に言うと、音(音声)、文字、映像、等の情報を伝えることを言う。

一番簡単な情報伝達の手段は2人の人間の会話であり、一対一の情報交換だ。上司への口頭での業務報告がそれにあたり、会議は複数の人間の情報交換だ。会社からの通達や伝達、損益計算書、マニュアルなどが文書で配布される。これを文字による情報伝達という。

会議の席でわかりやすくプレゼンテーションするために、売上げのグラフや、店舗の販売促進の状況をスライドで説明する場合があるが、これは映像による情報伝達だ。映像の場合は文字や音声の情報よりも遙かに情報量が多いのでより正確に情報伝達をすることが可能になる。

上記の情報伝達を遠距離で行おうとすると、音声の場合大声で叫ぶか、太鼓の音などで情報を遠距離まで伝えてきた。遠距離の会議というと簡単な物ではボイスメールと言う一対複数の伝達システムや複数の人間で電話会議を行うなどがあり、最近ではテレビ会議などがでてきた。文字の電送は郵便からFAXと言う即時性のある情報伝達が可能になっている。

上記の情報伝達手段はテレビ電話のように進んだ技術のように思えても、実は音声と同じくアナログで情報を送っている。簡単にいうと情報量が多すぎ、電話線を占有しながら情報を流している無駄の多い情報伝達手段で、それをアナログ情報という。

2)IT革命はアナログからデジタルへの変革だ。

IT革命とはは、アナログによる情報伝達手段をデジタルに置き換え、より迅速に、より正確に、より安価に、国境を越えて、だれでも、容易に、共通用語で、伝達できる事を言う。

その結果、仕事の生産性の向上、スピードときめ細かい対応による顧客満足度向上、正確な販売予測可能、在庫ロスト販売ロスの両方を削減、資本や系列を越えた新しいグループの誕生、直接購買による中間マージンの削除等を可能にする。

IT革命とはITその物を使うだけでなく、明確な目的を持って使いこなすことにより

具体的な成果を出すことにある。実行力を必要とするのだ。

3)外食産業におけるITの体験

外食産業におけるIT革命にはどのようなものがあるか筆者の経験から見てみよう

(1)POSの採用と発注予測システム

外食産業のIT革命の洗礼は機械式のレジスターからPOSへの移行からだった。今では機械式レジスターを製造しているメーカーは皆無なほど激しく変革を遂げた世界だ。米国マクドナルドからPOS化が開始され、日本でもマクドナルドがいち早く大手のT社と開発を開始した。1976年当時スーパーバイザーだった筆者は開発業務にも関与していたのだが、たかが電子レジスターと真剣に勉強をしていなかった。それがあるきっかけで真剣に勉強を開始せざるを得なくなった。

それはマクドナルドのメニュー多角化による食材ロスの問題だった。マクドナルドがチェーン化に成功した最大の理由はお客様を待たせないように注文を受けてから1分以内に商品を提供できる仕組みを作ったことだ。客を待たせないのでテイクアウトが可能になりそれが客席数に限定されない巨大な売上げを可能にしたのだ。従来の調理方法は注文を受けてから調理を開始するので、できあがるまでに客は5-6分間待たされる。(クック・ツー・オーダー)そこで、料理の種類をハンバーガーとチーズバーガーの2種類に絞り込み、ハンバーガーを売上げ予測に基づいて事前に調理後、包装しウオーマーに保管して置く。できあがって10分間経過したハンバーガーは廃棄処分することにより何時でも最高の品質のハンバーガーを提供できるようにした。客の注文を受けたら、ウオーマーから包装されたハンバーガーを取り出し、注文後1分以内に提供できるようにした。これをストック・ツー・オーダー・システムという。このシステムによりテイクアウト中心の効率の高いハンバーガービジネスを成功させることが出来たわけだ。

しかし、チェーンが出来てから年月が経過し、お客様は大型サンドイッチやソースの異なるサンドイッチ、チキンサンドイッチ、朝食メニューや、多国籍料理を望むようになってきた。そのため、数多くの商品を保温する必要があるが、商品の保管時間を過ぎると破棄する必要が出たり、製造に時間がかかり、サービングタイムに問題が出るようになってきた。

その矛盾を解決するために従来経験と勘で調理後保管していたシステムを、正確に計算することを考えついた。例えば時間帯売上げ10万円で100円のハンバーガーが売上比率10%の売上げがあったとする。

そうすると10分間に販売する数は100,000×0.10÷100÷6=17個弱となる。そしてそれぞれの製造時間に応じてどの位の頻度でコンスタントに製造するか計算する。それを手計算でやると時間がかかるので、計算尺を作り計算することにした。あの、レベルの低い労働者を使う米国マクドナルドでそれを開発したのだ。しかし、皆さんもおわかりのように現場の忙しいさなか悠長に計算尺をいじっている暇はない。そこでひらめいたのがPOSだ。POSはデーターをデジタルで蓄積している。計算はお手の物だ。そこで、1981年7月にマクドナルド300号店を統括SVとして開店する特権を活用し、予算を300万円捻出し、POS活用の自動発注システムを構築した。当時ディスプレーが高価だったのでPOS端末その物をディスプレーとして活用した。本当は気温、湿度、通行量までデーターとして入力し、もっと正確な予測をしたかったのだが当時の技術レベルでは実現できなかった。

このシステムは素晴らしかったのだが、ハードウエアーのコストが高いという欠点があった。そこで、部下のSVのアイディアによりレシートプリンターにその数値をプリントして使用することにした。毎日閉店時にPOS生産をすると時間帯別の商品別売上げをプリントする。また、各時間帯毎に販売個数をプリントされるようにした。そして、プラスチックケースに昨日、または参考にしたい日の実績をロール紙で巻き付け、必要な時間帯の部分を表示するようにする。同時に各時間帯の売上げ個数を横に貼り付け、予測と実績の誤差を見ながらハンバーガー類の製造をするようにした。

このシステム開発によりハードウエアーのコストの増加なく、精度の高い発注予測システムを実現することができ、最近まで20年以上も使われてきた。たった300万円(当時は、えらく怒られたが)でこんな生産性の高いシステムができあがったことで筆者はITは金になると言うことを実体験した。

その後、各社は同様の製造予測システムを作り上げたが、大方のチェーンはバックオフィスのパソコンから大型の紙で印刷するようにしたので、肝心の店舗の前線で活用する事はできなかった。POSのレシートプリンターを活用するためにはそれこそドット単位で計算し、略称まで詳細に決め一覧性があるように工夫した現場の勝利だろう。

(2)ドライブスルーの売上げはPOSにより倍も違う

さて、上記のシステムは大変優れたシステムだが、売上げにつながるシステムにまでは到達していない。経費削減、労力削減のシステムだ。しかし、やがてドライブスルーが日本に普及するようになり、POSが売上げを左右する事に気がつかされた。

ドライブスルーは一台のPOSで注文を取り、そのPOSで会計するというカウンターと同様の販売システムでは1時間に最高でも60台しか捌くことはできない。(一組の顧客の注文と会計商品取り揃えに最低でも1分かかるからだ)

そこで流れ作業方式のPOS方式を取り入れた。まずドライブスルーに並んだお客様はオーダーボードでオーダーをいれる。オーダーボードには写真入りのメニューとカメラ、マイクロフォン、スピーカーを設置してあり、ここでメニューを撰び、オーダーを入れる。店内ではオーダーテーカー(注文を受ける人)がオーダーを取りすぐにPOSに入力している。入力されたメニューはディスプレーに表示され、製造担当と取り揃え担当の人がそれを見て作業にはいる。ディスプレーに表示されてからでは遅いので、ワイヤーレスコミュニケーションシステムを使用しオーダーを入れた時点で作業に入るようにする。

次にキャッシングウインドーで代金を支払い、商品を受け取る。会計に使うPOSはオーダーを入力するPOSとは別に設置する。2台で注文と会計をこなすのだ。オーダーテイクに1名、キャッシングに1名、商品の取り揃えに2名の販売員を置くことにより、1組あたりの所用時間を30秒にすることができる。これにより理論的に1時間最大で120台の車を捌くことができるのである。しかし、まだオーダーの仕方を理解していないお客様や、子供連れの場合の注文が遅かったりするため、現実には100台が限界と言う問題を抱えた。

そこで、一つの窓口(ウインドー)で代金の授受と商品の受け渡しをするのでなく、注文を受けた後に、もう一つの窓口で代金の授受をし、二つ目の窓口で品物の受け渡しをする方式が考案された。これをダブルドライブスルーと言う。これにより15秒間に1台の車を捌くことができるようになった。ロスを考えても1時間に200台の車を捌けるようになったのである。

ドライブスルーが普及するに従い、お客様はスピードアップという点で満足したが、問題点も出てきたのである。注文をマイクを通して行うことにより、応対が冷たく感じられたり、オーダーの間違いが数多く発生するようになってきた。

元々ドライブスルーは売上の20~30%位のセールスを予想して追加してきたのであるが、売上比率が50%をこえ55%位にまで上昇してきて、もっとドライブスルーのお客様へのサービスに力をいれる必要に迫られた。

そこで、米国では、2つあるウインドーにもう一つウインドーを追加して、対面でオーダーをとるようにした。オーダーを受けてその際に、塩やケチャップなどの調味量やストロー、ナプキン、コーヒークリーム、砂糖などを渡すのである。これにより、スピードがアップするわけではないが、オーダー受けの正確さが上昇し、人間がオーダーを受けるのだという柔らかいサービスを訴求することに成功した。

米国では平日と土日の売上げがそう変わらないが、日本は土日の売上げは平日の3倍以上もある(ドライブスルーの多い郊外はファミリーで外食するため土日が忙しい)ので、そのような設備は平日には不要だ。日曜日の数時間だけ必要なだけだ。そこで、筆者はアウトサイドPOSと言うシステムを考え出した。これはケーブルをドライブスルーのオーダーボードまで地下配管し、ボードからケーブル接続し、忙しい時間帯だけ外で注文を取ろうという日本独自のシステムを考え出した。これなら地下配管代数万円の追加ですむわけだ。

このシステムの開発により時間帯売上げ(ドライブスルーのみ)で240台捌くという記録が続出するようになった。

他のドライブスルー機能を持つファーストフード企業はその優れたPOSの仕組みを備えていないのでひどいチェーンは50台も裁けないと言う惨状だ。ドライブスルーの売上げはPOSと言うIT革新への取り組みが左右するのだ。

(3)帳票管理

利益管理ではPOSだけでなく、POSのデーターを本部で店舗で処理するシステムの構築が重要になる。マクドナルドでは月単位の利益管理だけでなく、週単位の利益管理を行う。その情報は印刷されてでてくるが、そのフォームの作成には精魂を傾けた。それこそドット単位でレイアウトを計算し、一枚の紙で全ての情報を網羅し、それぞれの数値の関連性が一目瞭然になるように工夫を凝らした。数字というのは単月度だけ表示しても傾向として良くなっているのか、全月、前年同期と比較してどうなっているかという傾向値が重要だ。そこで全てのデーターを前年度と比較できるようにし、関連の数字は側に置き、それらの関連性を簡単にチェックできるようにした。この当たりの知識は店舗で数値管理を実際に行い、その帳票を元に経営指導するという経験がないといけないのだ。このPOSと帳票システムを活用した経費管理システムがマクドナルドの店舗利益を最大限にさせている秘訣だ。

(4)システム開発の最終責任者は営業担当者だ

上記のように情報システムの構築には熟練の営業担当者の関与と最終決済が必要不可欠だ。店舗の営業活動を知らない情報だけの専門家に情報システムの構築をさせることは現場で使えないシステムを作り上げる無駄金使いだ。システム構築を行う際には、文化系でも良いから店舗のオペレーションを熟知し、スーパーバイザー以上の管理業務を経験した辛抱強い人間に関与させるべきだ。もし、情報構築に失敗している企業の方がいたら、専門家集団に営業のベテランを混ぜてみよう。驚くほど使いやすいシステム構築ができるはずだ。

(5)全世界の数値管理を何処でもチェックできる

筆者は香港マクドナルドの経営者と仲が良かった。彼は日本マクドナルドのシステムを勉強しに頻繁日本滞在をしていた。香港の経営者だからそんなに国を離れていたら、数値管理できないじゃないかと言ったら、彼はにやりと笑い、おもむろに携帯端末を引っ張り出し、電話線経由で米国のホストコンピューターに接続し、香港の全店の数値を見せてくれた。からは携帯端末と電話線があれば世界の何処にいても経営管理は可能だと豪語していた。今から15年以上も前にそのようなリモートコントロールを行っていたのだ。

(6)低価格と品質を実現したのはIT革命だ

マクドナルドが平日65円という低価格で急成長したのは海外から一番安い食材を購入できるワールドパーチェシングと言う情報システムを活用しているからだ。この構築には情報システムだけでなく、HACCPと言う世界水準の安全管理の導入、そして、品質規格の世界統一、現場での食べ比べという品質基準の確立、等をベースに世界レベルの情報システムを構築して初めて可能になった。

そこで、店舗数だけでなく味でも良い評判を獲得できるように、1999年からメイド・フォー・ユーと言う熱々ハンバーガー提供システムを全店舗へ導入開始をした。

従来のステージングシステムは焼成後常温保管のバンズ(当初は焼いていたが後に焼かなくなった)、焼成後高精度な加湿保管庫で保管したミート、調味料、野菜、を組み上げ、包装後電子レンジで加熱していたが、電子レンジ調理は味の劣化を招き、客のイメージも良くないと言うことで廃止した。その代わりバンズを15秒以下で焼き上げる超高速トースター(従来は30-60秒かかった)を開発し、注文後即座にバンズを焼き上げ熱々のハンバーガーを電子レンジなしで提供できるようにした。

焼き上げたミートを保管する高精度加湿保温庫と、フライしたチキンやフィッシュポーションを保管する乾燥保温庫の2種類が必要であったが、複雑な作業とスペースを削減するため、ミートとフライ物を同時に保温保管できる高精度のマルチホールディングキャビネットを開発した。(高速トースターとマルチホールディングキャビネットはマクドナルド社がパテントを保有している)

さらに、従来は包装したハンバーガーをウオーマーに10分間保管していたが、それを廃止し、客の注文後、調理組み立てを行うようにした。できあがったハンバーガーは客に提供するまでの数秒の間にも冷めないようにランチングパッドという小型の保温スペースに置き、客に熱々のハンバーガーを提供できるように工夫を凝らした。

このシステムの最大のポイントは客の注文を厨房に伝えることであり、カウンターの販売員が客の注文をPOSに入力すると、その内容が厨房の各セクションに置かれたモニターに表示され、速やかに調理が開始される。このPOSシステムの導入により客の好みにあった熱々のハンバーガーを待たせないで提供できるようになったのだ。競合店舗でその調理方法を真似をすることは可能だが、POSシステムとモニターの連動を実現するのは殆ど不可能だろう。POSシステムの全面的な変更を要求されるからだ。これからの調理システムの改善にはIT革新への不断の取り組みが不可欠な証拠だろう。

4)IT革命は会社内の活動から会社外の活動に変革を迫っている

筆者が8年前にコンサルタントとして独立して感じたのは、情報量の不足だ。マクドナルド時代は座っていても世界中の情報を入手できたが、独立するとその情報量が圧倒的に少なくなる。

ある時にお客様にインターネットに取り組んでいるかと聞かれ、当時パソコン通信を取り組んでいた筆者はどうせ同じ通信だろうと返事をしたら、えらく怒られ、マンツーマンで指導を受けた。そして、インターネットによる世界規模の情報の入手の可能性に気がついた筆者は、5年前より専用線を引き、ホームページによる情報発信と入手を開始した。

情報入手不足による典型的な事件は,腸管出血性大腸菌o-157による食中毒だろう。今年は中堅や、大手のチェーンがこの菌による食中毒をおこしている。それらの事件を分析すると食中毒菌の活躍が企業の情報入手のスピードを上回っているからだ。

例えば、食中毒で言えば腸管出血性大腸菌o-157の食中毒に目を奪われているが、従来最も多かった食中毒事故原因の腸炎ビブリオ菌による事故が増加している。従来の衛生講習会では魚介類に多い腸炎ビブリオ菌は7℃以下であれば増殖を防げると教えていたが、

最近の新型菌は4℃以下で保管しないと危険だと修正している。実は色々な衛生関連の本ではその変化に対応していなく、衛生関連のホームページでようやくその表記を見つけることができるのだ。

http://www.jfha.or.jp/yobou/2.html

http://www.tokyo-eiken.go.jp/shokuhin/yobou/saikin/tyouen.html

腸炎ビブリオだけでなく貝類による食中毒の大きな原因となっているのは小型球形ウイルスで、腸炎ビブリオ以上に事故を引き起こしている。

http://www.tokyo-eiken.go.jp/shokuhin/yobou/sokuhou/sokuhounow.html

それに対応するために,都保健所では事件を引き起こした店名まで公表するようになっている。

http://www.tokyo-eiken.go.jp/shokuhin/jyouhou/back/2000/001019iwashi/001019iwashi.html

*2000年11月28日現在では店名の公表を中止したようです。なぜ注したのでしょうね??

日本以上に食中毒の問題を抱えている米国ではCDCと言う世界でも最も進んだ衛生管理の研究所の事故発生情報をメールで発信している。日本でも厚生省のお役人と同じスピードで同じ情報を民間で入手することが可能なのだ。この様にIT革命はあらゆる場所で進んでおり、それにどのように取り組むかはまさに企業生命を左右すると言っても過言ではないだろう。

5)IT革命は顧客サービスを実現する。

経営者の本当の仕事は何かというと皆さん異口同音に「顧客を満足させること」と答えるだろう。では皆さんは本当にそれを実行しているだろうか。チェーン店などに行くと店頭にアンケート用紙がおいてあり、そこにQSCについての不満や要望を書くようになっており、宛先はお客様サービス室などになっている。これらの内容を社長も読むことがあるだろうが、より深くその不満を聞きたい場合にそれを聞けるようにはなっていないはずだ。

ところが最近の消費者は不満や要望があるとそれらを会社のホームページを検索して、問い合わせ先のアドレスにメールを出すようになっている。あるチェーンで衛生対策のために調理方法を変更し、味が変わってしまった際に1年分のメールが1日で殺到したと言うことだ。現在の若者特に大学生は学校入学の際にメールアドレスを発行しており、2部上場企業以上の会社では殆どの社員はメールを使えるほど情報装備している。彼らは不満を感じたらすぐその場でメールをだす。

多くのホームページ上のメールの宛先は殆ど情報システムで、広報か社長室が受け取るシステムになっていない。顧客のクレームが情報システムに流れても、店舗の現状を知らない担当者にとってはその重要性を理解できず、問題点の分析対応に遅れをとってしまう。肝心の経営者がIT装備をしていない現状では、顧客の抱えている問題点は届かないのだ。

不満を感じてメールを出した消費者は36時間以内に返事が返ってこないとかえってその会社に不満を持つようになる。つまり、ちょっとしたクレームが2次クレームに発生するのだ。しかし、もし、メールでの問い合わせに社長ないしは責任のある人が的確に対応したら、その評価は高まり、ファンも増加する筈だ。

特に広報室のIT対応の遅れは致命的だ。広報とはパブリックリレーションだが、日本の広報はマスコミリレーションとインベスターリレーションしか頭にないようだ。これからのワンツーワンマーケティングにとって、一般消費者一人一人に対するリレーション、つまりメールに対する対応が必要不可欠になっているのだ。

企業に対する一般消費者のITを使ったクレームは多く発生している、1年ほど前の大手電機会社のVTRのクレーム対策が失敗し、怒った消費者がホームページのその対策のまずさを音声入りで掲載したのは大きなイメージダウンであった。外食でも大手牛丼チェーンの丼に蛙の混入のクレームが発生し、それもホームページで取り上げられ後に週刊誌で取り上げられイメージは大幅に低下してしまった。

さらについ最近では大手居酒屋チェーンの不当労働行為による労働基準監督局の査察の後も問題が解決しないと言うことで、従業員がメールを使ってチェーン店の不買運動を起こしている。

不満を抱えたらそれを我慢しないで即座に一般に発信できるIT革命の手段を獲得した消費者への対応を急がないともっと大きな事故を発生するのだ。しかし、早くIT革命に対応した場合、消費者の絶大な支持を受けることは可能になる。

6)IT革命の最大のメリット

IT革命による最大のメリットは意志決定の早さだ。E-meilのスピードの速さと同時性により中間管理層を通らない情報の早さは経営意志決定能力を飛躍的に向上させる。しかし、パソコン、サーバーをいれ、インターネット、イントラネットを導入しても、従来と同じ組織、同じ人数、同じ意志決定方法、では効果が出ない。

会議はディスカッションを積極的におこない、意志決定をできる能力のある6名以内の参加とする。会議の議題は事前にメールで流しておく、決定した内容は直ちにメールで必要な部署に流し、異議があれば24時間以内に申し立てる、等の意志決定のルール化をしなければならない。印刷物は全て廃止する。また、全ての意志決定を経営トップが行うのでなく、金額、内容により決裁権限を部下に委譲し、問題がないように監査システムを導入する。それらの対策を行ってからIT革命に取り組まないと実際の効果は出ないのだ。

「最後に」

IT革命は専門家の仕事で自分たち外食のプロには関係ない、社外の専門家やコンピューターメーカー、ソフト会社、POS会社に任せればよいと思うと大失敗する。本当に自分の使いこなせるシステムを作り上げるのは、実際に業務に携わり、問題点を抱えている人なのだ。もちろん一朝一夕にIT革命を達成することができるわけではない。まず、自らパソコンを使いこなしてみよう。(少なくとも会社、自宅にデスクトップを1台づつ、携帯用に小型のパソコンを2台持ち、実際にモバイルで仕事で使ってみるレベルを言う)

例えばホームページを使いこなしたい場合、ホームページで何処までの事ができるのか

筆者のポータルサイトhttps://www.food104.com/ を訪問してみよう。ここではホームページを使った食材販売、調達、店舗物件探し、人材募集、等を無料でできるようになっている。もちろん販売促進をどのように行うか実験もしており、メンバーの店舗を使って販売促進効果測定を開始している。情報発信とファン倶楽部作りもメールマガジンやメーリングリスト、通信教育などで体験できるようになっている。

筆者の過去の膨大な資料はhttp://www.sayko.co.jp/ で無料で閲覧できる。また、11月に開催されるケータリングショー、3月のホテルレストランショーなどでは外食企業がどのようにIT革命に取り組むべきかという、シンポジウムや展示会を開催する予定だ。是非積極的にIT革命に取り組んでいただきたい。

以上

お断り

このシリーズで書いてある内容はあくまでも筆者の個人的な経験から書いたものであり、実際の各チェーン店の内容や、マニュアル、システムを正確に述べた物ではありません。また、筆者の個人的な記憶を元に書いておりますので事実とは異なる場合があることをご了承下さい。

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