新人向け早わかり講座「動線改善のための店舗視察」(商業界 飲食店経営2004年4月号)
飲食店店舗の作業導線というのは大変重要である。作業導線の良い場合と悪い場合を比較すると店舗の生産性は20%以上異なるからだ。また、作業導線が悪い場合は働く従業員への負担が多く、退職率が悪くなり、人件費(採用経費とトレーニング費用)が高くなるし、顧客へのサービスや料理の品質が低下するという問題を抱える。
作業導線というと人間工学とかインダストリアル・エンジニアリング等、難しい専門家の知識が必要と勘違いされやすいが、実は仕事を熟知し、問題点を分析し、作業導線に無駄のない他店舗を見学することにより簡単に改善が可能になるのだ。では、店舗の導線を改善するために行う店舗クリニックの手法を順を追ってみてみよう。
1) 自店の問題点を明確にする。
自店舗の導線の問題を明確にする。導線と言っても調理場の導線と、ホールの導線、下拵えや搬入の導線というのは異なるからだ。
調理場の場合、勘違いしやすいのは忙しいときにはうるさく、人がせわしなく動くと言う考え方だ。暇な時間には調理場には人が少ないから、刺場、野菜場、焼き場、洗い場、等を一人で動かなくてはいけないが、ピーク時にはそれぞれの場所に調理人が立ち、殆ど動かないで流れ作業で調理できるはずだ。
ホールから注文が入り、それを復唱し、指示する声だけが流れるはずだ。それが、ピーク時に大声を上げたり、物を落としてガチャンという騒音が聞こえる場合は作業導線に問題があるのだ。
また、そのような感覚だけでなく、料理の注文を取ってから、客の元へ料理を運ぶのみどのくらい時間がかかるか、調理の時間は、サービスの時間はどうなのかを明確にする。通常ファミリーレストランであれば注文後15分以内、ファーストフードでは1分以内というのが料理提供時間だ。それより長い場合には何が原因なのか、どの料理が基準以内に提供できて、どの料理の時間が長すぎるのかを明確にしよう。
2) 視察店舗を決める
他店舗の視察の場合にはどの店舗を視察するか決める。チェーン店の場合には競合の店舗だけでなく、自社チェーンの他の店舗を視察することも勉強になる。その場合には勿論、作業導線の良い店を選ぶことだ。
競合店舗の場合には、自社と同じ客単価、席数、立地、客層であることが必要だ。条件が異なる場合には参考にならないからだ。
3) 視察に行く前に基礎資料を揃える
競合店舗を漫然と訪問しても勉強にならない。事前に、その企業のHPや会社案内などを見て、経営数値を学んでおくことだ。飲食店経営のバックナンバーを見て、どのようなやり方をしているのか学んでおくことも重要だろう。店舗のレイアウトを知るには建設関係の出版物のバックナンバーを見ると、設計者、基本コンセプト、投資コスト、レイアウト、等を知ることができる。
4) 視察チェックリストを作成する。
事前に観察するポイントを書いたチェックリストを用意し、それに基づいて視察する。そして視察後には店舗のレイアウト、従業員の配置、料理提供時間、作業人数、メニューアイテム、等を図解入りで書いておくこと。
5) 視察時の注意事項
視察時の心構えは、視察先店舗のよいところだけを見るようにする。慣れないうちは視察先の欠点しか見えないことが多いからだ。「何だ、大したことがありませんよ」と報告することは、未だ、自分の見る目が無いと思わなければいけない。また、感覚だけで視察してもしょうがない。作業導線の研究にはストップウオッチは必需品だ。注文受けの時間からサービス時間、まで秒単位で計測しよう。専用のストップウオッチを持って計測するのは視察に来たと見え見えで店舗が警戒するので、ストップウオッチ内蔵の時計を持参しよう。また、作業導線を考えるときには場合によっては通路の巾やテーブル客席の寸法も正確に計測する必要があるので、巻き尺などを持参しよう。店舗の面積を計測するには自分の歩幅を計測しておき、歩いた距離の概算で寸法を計測する。
6) 視察後の報告書と討論
視察後には記憶が新鮮なうちに報告書をしっかり書いておこう。数日経過してから書こうとすると忘れてしまうからだ。視察時には簡単なメモを用意して、コメントを箇条書きで書いておくと漏れが無くなる。視察後、そのメモを元にさらに詳細に印象を記入指定おく。報告書に記載しなくてはいけない内容は以下を参考にしていただきたい。
視察にはなるべく複数の人間で赴く、そして、視察後ディスカッションをする。場合によっては上司と店舗を訪問し観察すると、自分の見方がまだまだ甘いことに気が付く。同僚の場合であっても、それぞれ見方が異なるので勉強になる。
7) 視察は何回も実施する
自店舗よりも優れた店舗があった場合、一回だけの視察ではなく、何回も訪問する。それも朝昼晩、平日土日など異なる条件を設定して訪問し徹底的に分析をしよう。作業導線の知識を高めるにはよい店舗を徹底的に分析解析することが基本だからだ。
視察報告書
企業名
チェーン店名
住所
面積
客席数
テーブル数
予想月間売上
訪問時間
訪問時の客数
訪問時の推定客単価
売れ筋メニュー
メニュー名と価格
店舗レイアウト(敷地大きさとレイアウト)
駐車場台数
ホール従業員人数
客席レイアウトと配置(図)
厨房従業員人数
厨房レイアウトと配置(図)
注文メニュー名
提供時間
サービスのレベル
その他、コメント