外食資料集 「ディズニーランドの飲食施設」(綜合ユニコム 月刊レジャー産業資料2003年4月号)

東京ディズニーランド(ディズニーシーを含む)は年間2200万人が訪問している日本最大のレジャーランドである。その主な収入は入場料、お土産などの物販、周辺施設のホテル小売りなどのテナント料、飲食施設収入、であるが、その中でも収益性の高いのが飲食施設の収入である。
http://www.disney.co.jp/usparks/wdw/

平成14年3月31日の決算報告によると
http://www.olc.co.jp/images/pdf/2002tanshin.pdf

テーマパーク事業の総収入は 2516億円
アトラクション・ショー収入は 1144億円  で40.3%(構成比)
商品販売収入は         839億円   33.4%
飲食販売収入は         448億円   17.8%
ホテル収入は           81億円    3.2%
その他収入は            2億円    0.1%
となっている。

飲食部門の売り上げは2001年度の外食チェーンランキングで比較すると33位の松屋フーズと肩を並べる売り上げである。その他園内従業員給食の売り上げ18億円、ホテルの料飲部門の売り上げ、テナントの飲食店の売り上げを計上すると500億円以上の売り上げと言う巨大な外食産業と言える。
もう一つ注目されるのが、今後の収益である。14年にディズニーシーを開業し、パーク事業への投資は一段落し、不況と相まってやや入場者が伸び悩んでいるが、14年9月の中間決算を見てみると、

アトラクション収入 前年比30.4%
商品販売収入    前年比25.9%
飲食販売収入    前年比38.9%

と飲食部門の伸びが著しいのがわかるだろう。外食市場全体がデフレ経済で縮小する中で注目される伸び率である。テーマパーク内での飲食施設の陰で目立たないが、従業員への給食事業も順調であり、伸び率は23.7%、通年の売り上げ予測は20億円と堅実にのばしている。
ではディズニーランドの飲食施設への取り組みはどのように行われているか見てみよう。

1)園内の施設は自社経営

食品の持ち込みを禁止している園内の施設では顧客に選択の余地がなく、飲食ビジネスは園外で繰り広げられる価格戦争などに巻き込まれず収益性が高い。園内における飲食店の役割は、施設をフルに楽しみたいという顧客のためであり、ハンバーガーやホットドック、プリッツエル、ジューススタンドなどのファーストフードで子供から大人まで一定の空腹感を素早く満たす業態が中心である。
しかし成熟したレジャーランドのマーケットでは園内の飲食施設もそれなりに顧客を満足させられなくてはならず、新規のテーマパークであるディズニーシーではビール、ワインなども提供するようになった。料理もファーストフードだけではなく、フォークとナイフの必要な美味しいフルサービスレストランも増えている。外部との競争にさらされない園内の飲食施設は外部の有名飲食店を誘致せず、自社で経営している。

2)大型セントラルキッチンと機器類
<1>セントラルキッチン
ディズニーランドの飲食部門は閉鎖商圏での独占的ビジネスでデフレ経済の影響を全くと言って良いほど受けていないので、利益高では大変高いと思われる。その利益率を確保する仕組みが園内に巨大なセントラルキッチンを設置したことだ。通常の外食産業ではセントラルキッチンの稼働率が低く、食品メーカーから購入する場合が多い。外食産業とともに成長した優秀な食品メーカーに仕様書発注をして食材を購入するのは品質管理や在庫管理において便利で安易であるが、反面、原材料コストが高いという欠点がある。ディズニーランドは食材の下ごしらえから自社のセントラルキッチンで加工し、独特の味をだすだけでなく、コストダウンも徹底的に行っている。

<2>味とコストダウンを両立させるクックチル
セントラルキッチンの稼働率を高めるクックチチルと言う大型の調理施設を導入している。

クックチルの仕組みは以下5つのステップで構成されている。
1.食品を要求される調理状態に調理する。
2.調理後4℃以下に急速に冷却する。
3.冷却した食品を厳格にコントロールしたー2℃から0℃の氷温の温度帯で保管する。
4.冷却された食品はバルクのまま、または盛りつけされた状態で、多くのサービス現場に配送される。
5.冷却された食品は最低温度74℃まで急速に再加熱し提供する。

クックチル方式は簡易型のブラストチラー方式(空冷)と本格的な水冷(タンブルチラー方式、大量真空調理タイプ方式+水冷方式)とに分かれるが、ディズニーランドでは米国製の本格的な水冷方式を使い、スープやソース、シチュー類等の流動物の調理を中心に行っている。
クックチルのメリットは冷凍や食品添加物を使わないで保存性を保ち、自動で大量生産出来ると言う、セントラルキッチンの仕組みとしては最適のものだろう。さらに、温度管理を自動管理できるクックチルは最新の衛生管理のHACCPと言う基準を満足させる物でもある。添加物を一切使わないでも味が良く保存期間が長いクックチルは素晴らしい調理方法であるが、設備投資が高額であり、日本では外食分野でココス、馬車道などのファミリーレストランの他は、ホテル、病院などでわずかに使われているだけである。その最大の理由は設備投資が多額であることと、効果的に使うには莫大なノウハウが必要だということであり、それを有効活用しているディズニーランドのノウハウは素晴らしいと言える。

<3>ディズニーランドスペックと自前のメインテナンス会社
ディズニーランドのセントラルキッチンは大手ファミリーレストランにひけを取らない巨大な規模であり、調理機器や調理機器のメインテナンスにも工夫を凝らしている。厨房機器メーカーにとってディズニーランドは大手の客であり、ディズニーランド仕様という調理機器が存在する。特別仕様というと高級な調理機器を連想するが実は通常の調理機器のように電子部品を使わない、簡素な機械を要求している。ディズニーランドのようなレジャー施設は曜日や季節により売り上げの変動が激しく、人件費の対策として大勢のアルバイトを採用する。調理機器を洗浄殺菌する際にプロの調理人でないから、うっかり水で丸洗いなどをしてしまう。最近の調理機器はマイコンを多用した電子部品を多用しているので、水をかけられたら一発で故障してしまう。そのため、タイマーなどでも機械式を使用するなどなるべく耐久力の高い調理機器を使う指定をしている。それでも、忙しい施設でこき使われる調理機器は故障するが、年中無休のディズニーランドでは機械が壊れる前に修理をする、プリベンティブメインテナンスシステム(予防営繕)が必要になる。
開業当初は大手厨房機器メーカーが常駐体制でメインテナンスを行っていたが、現在ではオーエルシーキッチンテクノという会社を設立し、自社で要員をかかえて年間365日修理が可能な体制を築き上げるなどの工夫を凝らしている。

<4>レストランの配置と客の流れ、食材の搬送が重要
ディズニーランドのレストランの配置は綿密に計算をしている。園内の人の流れを分析し、何処の店舗の売り上げがどのくらいになるのか予測し、それに最適の店舗を設計している。総入場者数を計算し、園内の回遊状況と何処で食事したくなるかを分析し、必要な食数を算出し業態と必要な食数から調理能力を算出している。スムーズに店舗に食材や包装資材を搬送するだけでなく、夢を見に来た来園者の邪魔をしないように、地下に搬送の専用通路を造るなどの気配りをしている。

<5>園内の主力店舗
園内の主力店舗は売り上げが集中するので、ハンバーガーやフライドチキンなどのファーストフード店舗を良い場所に配置する。日本で一番売上げの高いハンバーガーショップはマクドナルドで月に1億円であるが、東京ディズニーランドのハンバーガーショップはその数倍の売り上げを示しており、店内はまるで工場のようにハンバーガーを流れ作業で製造しており、日本一のハンバーガーショップと言われている。
ディズニーランド内のレストランはハンバーガーやピザなどのようにディズニーランドのテーマにぴったり合った洋風のメニューが中心である。ただ、ファーストフードは忙しい時には大量販売が可能であり良いのだが、リピート客を満足させるにはちょっと物足りない。最近は女性客が70%と圧倒的に多いディズニーランドの特性を生かし、女性向けのメニュー開発を行っているが、今後の課題は来場者の老齢化に伴う和風回帰の動きにどのように対応するかだと思われる。

3)園内の囲い込みから周囲の囲い込み

<1>滞在型への挑戦
ディズニーランドの収益を高めるためには入園者数の増加することが必要であるが、そのためにはディズニーシーのような多額の投資が必要になる。ディズニーシーへの投資が一段落したこれからの収益を考えると、入場者一人当たりの客単価を増加することが必要になる。米国ディズニーランドはカリフォルニアとフロリダオーランドにあるが、後発の施設であるオーランドでは、4つの施設を点在させ、さらにゴルフや他のレジャー施設の集積地を活用し、滞在型のレジャー施設へと転換をしている。つまり、滞在型の施設になるとホテル、ショッピング、食事など客単価が大幅に向上するのである。

<2>園外の施設への外食店舗の誘致
フロリダオーランドにはディズニーランドは4種類のテーマパークを持っており、その他、ユニバーサールスタジオ、シックスフラッグス、シーワールドその他のパークが複数存在している。そのためLAとは異なり顧客は4~5日以上の長期滞在型のリゾートとなっている。また、フロリダの温暖な気候のおかげで、年間を通してゴルフなどのスポーツを楽しめる。

周囲には何もないオーランドではホテルや物販、外食施設が必要になる。ディズニーランドではホテルを10数件経営、また、買い物やおみやげ物、外食店舗をダウンタウンディズニーに開店した。しかし、閉鎖商圏の園内の外食施設と異なり、競争の激しい園外であるから、魅力のあるレストランが必要であり、ダウンタウンディズニーでは滞在客が食事を楽しめるようにブランドのあるチェーンレストラン、レインフォレストカフェ、プラネットハリウッドなどのテーマレストランを誘致した。テーマレストランは知名度が高く、しかもレジャー施設の雰囲気にぴったりであり、繁忙時の売り上げを取れる巨大な客席と調理システムを持っている。

また、周囲に点在するホテルのレストランには人気の高級レストランを入れている。オーランドにはカジュアルな格好で行くが、ゴルフ道具の他に必ずタキシードなどのフォーマルな服装も用意している。奥さんや子供がディズニーランドを楽しんでいる間にご主人はゴルフを楽しみ、夜は夫婦で着飾りミュージカルやディナーを楽しむのだ。
沢山の荷物を持ってテーマパークに行くのは大変なように思われるが、米国人の多くは車で訪問するか、飛行場からレンタカーで乗り付けるので、荷物の心配はないし、点在した施設を回遊できる。
その米国の滞在型テーマパークの戦略を踏襲し、東京ディズニーランドはディズニーシーの開業に伴い直営ホテルの強化と、レストランと物販の店舗を隣接の施設イクスピリアにテナントとして入れた。米国と同じくレインフォレストカフェとプラネットハリウッドを誘致し、さらに、フランスの三つ星レストランを複数経営する有名なアラン・デュカス氏の経営するスプーンを誘致した。
http://www.spoon.ikspiari.co.jp/

2つのテーマパークと数多くのホテル、ショッピングゾーンをつなぐモノレールを設置してあるが、車の来場者が少ない日本では、周囲の施設を回遊することが少なく、滞在日数の少ない日本ではまだ、周囲の施設特に、イクスピリアレストラン街の平日の稼働率が少ないのが課題だ。実際、14年9月の中間決算を見てみるとイクスピリアを中心とした複合型商業施設事業の売り上げは前年対比-7.1%となっている。

今後のディズニーランドの最大の課題は、テーマパークへの来場者の滞在日数を増加させ、パーク以外の施設への収入を増加させることとなるだろう。その点でイクスピリアにおける外食店舗の平日の稼働率を高めることが必要になるだろう。

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