外食資料集 「2007年の日本の飲食業の状況修正」(綜合ユニコム 月刊レジャー産業資料2008年9月号)

日本外食産業の現在の状況

1)外食産業の動向
平成9年に外食産業の売上はピークを迎え、それ以後バブル崩壊後の景気低迷を受け長らく低下していた外食産業の売上は平成16年には下げ止まり、それ以来微増傾向にある。
日本経済新聞社の日経MJが独自に算出した平成19年度の飲食業市場は、前年度比0.3増の27兆6488億円となっている。
しかし、2001年より厳しくなった飲酒運転規制は更に、平成19年6月より厳しくなった。同時に昨年暮れよりの資源価格高騰の一環でガソリン代が大幅に上昇し、郊外型の飲食店の売上が大幅に減少を始め、地方の郊外型のファミリーレストラン、居酒屋などが売上を大幅に低下させるようになった。また、大型小売業規制に備えたショッピングセンターの新設ラッシュにより、郊外型飲食店の売上に影響が出来、郊外型のチェーン外食産業はショッピングセンター内への出店を急ぐようになった。
また、売上不振の郊外型を嫌い、都心の駅前や繁華街、ショッピングセンターへの出店を競うようになり、新規出店の際の賃借料が大幅に上昇し、出店したくても出来ないという問題も抱えるようになった。
業態別ではファミリーレストランが世帯人口の減少と業態の陳腐化、そしてガソリン高、により大苦戦に陥っている。業界トップのすかいらーくは業態を思い切って代えるために経営陣によるMBOを2006年に実施したが、経営不振から投資ファンドにより経営者の交代という荒療治が実施され、リストラによる店舗数の大幅減少の恐れがある。また、小売業の大手、セブン・アンド・アイ・ホールディングスの子会社であるデニーズも売上不振から130店舗の閉鎖を発表し実施中である。その他のファミリーレストランも経営不振から色々な業態への転換を図っている。
郊外型のチェーン系居酒屋もガソリン高と飲酒運転取り締まり強化により不振を極め、都心回帰型の戦略をとったり、食事の強化を迫られている。
収益面では昨年末から世界的な資源難による原材料価格の高騰や人件費上昇といった経費負担増が重なり、外食産業の経営環境は大幅に悪化しつつある。資源が高騰する反面、中国産の食材への農薬汚染などの問題や、国内の産地偽装や廃棄処分しなければいけない汚染米の流通など、食の安全をゆるがせる問題を抱え、中華料理店などは大幅な風評被害をうけている。

2)M&A
過去米国産牛肉をBSEの問題から輸入ストップされ、主力商品の牛丼の販売を長期間止めざるを得なかった吉野家は、その経験から、複数業態の必要性を感じ、焼き肉チェーンの牛繁ドリームシステム、ラーメン一番本部の「びっくりラーメン」、ステーキチェーンのどん、饂飩のはなまるうどん、寿司の京樽などに出資、や子会社化という積極的なM&Aを実施した。また、同じく牛丼すき家を経営するゼンショーは、ファミリーレストランのココス、ビッグボーイ、サンデーサン、牛丼と饂飩のなか卯、ドーナツと饂飩の大和フーズ、ハンバーガーのウエンディーズ、シカゴピザのトロナ、などM&Aで収めた。また、2007年には回転寿司業態のカッパ寿司との資本提携や、同じく回転寿司のスシローの株式を取得するなど、業態多角化に熱心だ。 すかいらーくの共同創業者である横川紀夫氏はすかいらーくを退任後、外食経営のヴィア�ホールディングスを創業し、居酒屋業態の、備長炭扇屋、うおや一丁、紅とん、一源、セラビーリゾートのレストラン部門、などを買収している。
2007年には業績が好調なドトールと日本レストランシステムが会社を統合し、持ち株会社ドトール・日レスホールディングスを設立して驚かせたし、同じく、ファストフードのモスバーガーとミスタードーナツを抱えるダスキンが資本提携した。
しかし、吉野家傘下の京樽やはなまるうどん、一番ラーメンの企業再生が遅れるという問題を抱えだした。また、ゼンショーはカッパ寿司との資本提携を解消し株式を売却したし、買収したスシローとの提携戦略も具体化しないままであった。そして、2008年11月にはスシローに対する投資ファンドのユニゾン・キャピタルのTOBに同意し、2009年春までに売却することになってしまった。
2008年4月にはドトール�日レスホールディングスは、突然、鳥羽豊社長、大林豁史会長の退任を発表した。
このようにM&Aによる業態の多角化は成功する事例が少ないという問題が明らかとなった。また、2008年に入り米国で発生したサブプライム問題による投資ファンドや金融機関の融資絞込みにより、これらのM&Aのピークは終了し、今後、買収した企業の再生状況によれば売却も考えられるようになったといえるだろう。
ただし、外食企業のM&Aは従来と違った理由で盛んになる可能性がある。それは後継者問題に伴うM&Aだ。2008年に入り、ロッテはケーキの銀座コージーコーナー、サントリーはとんかつの井筒まい泉、UCC上島珈琲が珈琲館を買収した、ように、優良企業であっても後継者難から企業存続のために大手企業へ売却を行いようになると思われる。

3)人手不足 と残業代の支払い、過労死問題
外食産業はアルバイト比率が90%以上と産業別で最も高いが、1年ほど前から人口減少と、他産業とのアルバイトの奪い合いが発生し、アルバイトが不足しだしている。また、バブル崩壊後、利益を出すために低価格戦争に突入し、コスト削減のために、従来は1店舗に3人ほどの社員がいたが、現在では社員が一人や場合によっては一人で数店舗を兼任するようになっている。その結果、サービス残業の増加が目立つようになり、日本マクドナルドは、店長の訴訟を起こされ、従来管理職で残業代を支払っていなかった店長が管理職ではないと裁判で認定され、店長に残業代を支払わざるをえなくなった。このような正社員への残業代の支払い増加とアルバイトの時給の高騰により、利益を圧迫するだけでなく、新規出店の制約ともなっている。
また、人件費だけでなく、すかいらーくやマクドナルドの大手企業はサービス残業の増大による過労死の訴訟を起こされるなど企業の社会的な責任も問われる厳しい環境になってきた。
アルバイト・パートタイマーの待遇に関して、平成20年4月から改正パートタイム労働法が施行され、基本的にパートと正社員の差別をなくさなくてはならなくなった。そのため、アルバイト�パートタイマーからの正社員登用制度や、待遇の改善を迫られ、全体の人件費の上昇を招いている。

4)食材の安全性への懸念
2007年は中国製冷凍餃子による中毒事件が発生するなど、消費者は食の安全に疑いを抱くようになった。老舗では赤福(三重県伊勢市)や「白い恋人」の石屋製菓(札幌市)、船場吉兆(大阪市)、チェーンではマクドナルドのサラダの消費期限改竄など、賞味期限や産地の偽装が相次いだ。2008年には農水省が払い下げた農薬やカビの汚染米を改竄し、学校、病院、老人施設、などの大量給食に使われる事件が発生し、消費者の食に対する視線は厳しさを増し、各社は安全管理の強化を迫られ、新たな経費増という問題を抱えだしている。
また、すかいらーくのバーミヤンや中華料理チェーンは中国製冷凍餃子による、消費者の中国料理への不信感という風評被害を受け、売上低迷という問題も抱えてしまった。

5)環境対策
2008年12月に改正食品リサイクル法が施行され、外食産業でも環境問題への対応強化が迫られている。この法律は2006年度に約22%だったリサイクル率を、2012年度までに40%に高めなければならない。また、二酸化炭素(CO2)排出削減では容器の使い捨て見直しや省エネ照明の導入、配送の効率化などが必要であり、従来このような環境問題に取り組む余裕がなく、また、多店舗展開している管理面の問題から、外食産業は最も取り組みが遅れており、これから負担が増加すると思われる。

6)メタボリック対策
平成20年4月の改正労働安全衛生法や健康保険法の改正に伴い、企業はメタボ対策に具体的に取り組まなくてはならなくなった。そのため、給食業ではカロリー表示や塩分などの表示に取り組まざるをえなくなっているし、外食産業もカロリー表示は原産地表示の取り組みを開始した。今後、外食産業全体で、メタボリック予防のダイエット方法の告知や、原産地表示やアレルギー問題、栄養成分などの表示や情報提供を行わざるをえなくなるかも知れない。

7)価格戦略と値上げ
2007年は資源高騰による原材料価格高騰とエネルギーコストの増大という問題を抱えだした。新興国の経済状態の向上により、従来食料輸出国であった中国などが食料を輸入するようになった。また、環境問題への対応から石油から天然資源による燃料への転換が進み、従来は食用の糖キビやトウモロコシから車の燃料用のエタノールを作るようになり、その結果、穀物畑からの転換が進み、それらの価格が高騰し、食用肉や乳製品価格が高騰しだした。また、世界的な異常気象により、小麦粉の生産量が減少し安定した食料であったパンや麺類の価格が高騰するようになった。また、石油価格の高騰により食材の生産コストが上がったり、外食産業で試用するプロパンガスの高騰という問題を抱えている。今年は更なる原材料価格の高騰が予測され、消費低迷の中、外食企業は売上を落とさない値上げの実施方法を迫られている。

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