業種・業態別動向 「ピザ、パスタ専門店の動向 」(日本食糧新聞社 外食レストラン新聞1998年6月15日)

ピザ、パスタはイタリアから誕生したように思うが、実はピザ、パスタの専門店を業態として成立させたのは米国だ。イタリアにもピザの専門店のピッツエリアがあるが、パスタの専門店はない。パスタやピザはあくまでもレストランの料理の一つにすぎない。米国においてピザの専門店や、ピザとパスタの専門店が誕生した言っても良いだろう。

米国のピザとパスタの専門店
[シカゴスタイル]
元々イタリアからの移民が多く、イタリア人のお母さんというのは料理の上手なイメージであり、米国人のお袋の味というのはイタリア料理となる。米国のピザは厚手の生地のシカゴスタイルと、薄手の生地のカリフォルニア風に分かれる。シカゴは寒い土地柄と食肉の集散地であり,厚手のパン生地の上にたっぷりとした肉を乗せた、ディープディッシュピザやスタッフドピザが有名だ。

米国ではピザのマーケットはハンバーガーと同じくらい大きい市場であり、大手のチェーンがひしめき合っている。ドミノピザやピザハットなどの大チェーンは比較的厚手の生地を売り物にしている。日本ではピザは子供のおやつやビールのつまみ的なイメージだが、米国ではボリュームたっぷりでディナーとなっている。

[カリフォルニアスタイル]
ロサンゼルスの名物料理人のウオルフギャングパックがスパーゴというレストランを開いた。元々はカリフォルニアフレンチであったが、時代の流れでトレンディーなカリフルニアイタリアンの名声店となった。さらにイタリアンのカジュアル化が進みピザとパスタのカジュアルな店を開き、店名をウオルフギャングパックと言う自分の名前をつけた店を開き、ロスの名物店舗となっている。ロサンゼルス国際空港のUAのターミナルやユニバーサルスタジオに店を出して大繁盛だ。ラスベガスの最も部屋数の多いMGMホテル(今のところ。2年後には5000室のホテルができる)のカジノ内にも店舗を出しており、5時過ぎになると行列だ。その他にカリフォルニア風のカジュアルなオープンキッチンのカリフォルニアピザキッチンがチェーン展開をしている。アメリカ料理(カリフォルニアフレンチとも言う)を生み出したサンフランシスコのシェパニーズの影響で、西海岸では名物の野菜をたっぷりつかった料理に人気がある。そのアイディアをピザに活かしたのがカリフォルニアピザキッチンだ。イタリア系のピザ屋は威勢がよいのだが比較的クラッシックな薄暗い店が多い。シカゴ系のピザ屋では煉瓦と木をつかった古いイタリアの民家をイメージした店が多い。ダスキンが米国のレストラン王のリチャード・メルマン氏と提携してオープンしたツチ・バ・ヌーチがその典型的な雰囲気だ。シカゴのように冬の寒い土地では温かい暖炉の雰囲気があって良いのだが、年中太陽の照りつける西海岸にはふさわしくない。そこで、オープンキッチンの明るい店舗を作り上げた。店内の丸いカウンターに座ると薪釜が真ん中にでんと座っており、そこで赤々と薪をくべて手作りのピザを美味しそうに焼いていく。ピザも、野菜をたっぷりつかったヘルシーなピザで、女性に大人気だ。

米国ではパスタよりもピザの方が人気があり、売れ筋はピザだ。その他にパスタとたっぷりとした野菜サラダとスープを置いている。この売れ筋を取りそろえてチェーン化を計っているのがダーデングループのオリーブガーデンだ。(ちなみにレッドロブスターもこのグループで、テーブルサービスレストランとしてはグループの売上が米国でトップとなる)

日本の成功しているカジュアルなピザショップはこの西海岸の明るいオープンキッチンの影響を強く出ている。

日本のピザとパスタの専門店
[1][日本の和風パスタ]
米国のピザは結構美味しく食べられるのだが、パスタはどうも米国人と日本人との好みが異なるようだ。20年以上前の日本のスパゲッティはアメリカと同じであった。腰のない柔らかい麺であった。しかし、30年以上前に渋谷にあった壁の穴(現在でもあるが、前オーナーがチェーンに売却した)が誕生し、本格的な腰のあるアルデンテのパスタを売り出してから、急速に変わりだした。日本のスパゲッティが一番「こし」があると言っても差し支えがないだろう。日本は手打ちの蕎麦とか、讃岐うどんなどの「こし」にこだわりがあるからだ。米国ではパスタというと。リンギーネとかフェトチーネなどの「こし」がないようなパスタが好きで、パスタを食べると言うよりソースをたっぷりからませて食べるのだと言う感覚だ。日本では麺そのものをしっかりと食べるという違いがある。壁の穴はそんな麺好きの日本人の心をとらえて、大人気となり、和風パスタのジャンルを築き上げた。アサリ、納豆、椎茸、キムチ、ガーリック味など壁の穴のオリジナルメニューは大人気となり、一時はチェーン展開を積極的に行ったほどだ。その流れを汲んだのはハシヤ、ピエトロのパスタ、アルデン亭等であり、根強い人気を持っている。

スパゲッティは茹で上げの腰の強い本格的な麺を使用する。当然の事ながらオープンキッチンスタイルのカウンターがあり、料理を楽しませるという工夫が必要だ。和風のアサリや、納豆、キムチ、明太子などの他に魚介類をつかったり、フライパンで炒める場合も醤油味など徹底的な和風の味付けが重要だ。

しかし、最近は本格的な味付けのスパゲティが好まれるようになり、和風のスパゲティの店の元気がないようだ。それは食の洋風化という時代の流れもあるだろうが、新規メニュー開発がないからだろう。現存する和風メニューも壁の穴が開発したメニューからあまり進展がないようでは、時代に取り残されるだろう。日本は米国やイタリアとやはり異なるのだから、もっと日本人に適したメニューを開発すればまだこのジャンルは伸びるのではないだろうか。

[2][ピザ専門店]
日本のピザ専門店は六本木のニコラスから始まったと言って良いだろう。六本木の町にあったしゃれたレストランで、トレンディーな料理として人気を呼んだ。比較的薄手のクリスピータイプのピザだった。やがてピザハットが一号店を茗荷谷に開店し、シェーキーズも新宿、渋谷などの繁華街に進出した。当時人気があったのがシェーキーズで、ディキシーランドジャズとピザ、生ビールの組み合わせで、ビールをピッチャーで提供するというサービスを初めて日本でおこない大人気だった。若い人の洋風居酒屋の走りであった。

ピザハットはアサヒビールが提携し、シェーキーズはキリンが提携した。当初は米国のように強大なチェーンを作るかと思ったが、ピザハットは低迷し、とうとうアサヒビールとの提携を解消し、日本ケンタッキーフライドチキンの元で宅配専門店として再出発をした。シェーキーズも最近はコンセプトの色あせがあり、やや伸び悩んでいる。店舗がディキシーランドジャズ風の暗いものから、明るいサラダバーを持つ、しゃれた店に展開を計っているが、暗かった店内と食べ放題ランチのイメージから脱却しきれないようだ。

ピザを中心としてスクラッチからやろうとするにはミキサー、本格的なデッキオーブンまたは薪釜など、かなりの設備とスペースが必要だ。最近のイタリアンの傾向はピザ屋であってもパスタや料理も要求されるので、調理人のいないピザ屋はなかなか苦労するようだ。

このジャンルの店は店舗のイメージが時代遅れになり若者に指示されていないのが現状で、まず、店内の雰囲気、サービスを見直しをすることが重要だ。次にパスタと料理の品質の向上が不可欠だろう。

[3][居酒屋風のピザとパスタ]
アマート・アマート、タント・タント、などが代表だ。価格はやや低めで2000円前後と、ファッショナブルでなくなったファミリーレストランに飽き足りない若者を集めて人気だ。このジャンルはピザとパスタ、サラダ、小皿料理が中心だ。店の雰囲気はオープンキッチンでカジュアルで気楽に入れる。しかし、居酒屋をねらっているので、商品の品質は今一歩であり、[5]と[6]のジャンルに気合い負けをしているようだ。また、居酒屋の和民等の低価格若者居酒屋でもイタリアンメニューを充実しだしており、イタリアン居酒屋も安閑としていられない。本格的な味を提供しなければ行けなくなっているようだ。

[4]低価格イタリアンレストラン
低価格のメニューで若者に大人気で急成長し、店頭公開を果たしたサイゼリアを筆頭に、ジョリーパスタ、フラカッセ、スカイラークガーデンズ等は低価格レストランの波に乗り急成長した。しかし、このジャンルはあくまでも低価格ファミリーレストランであり、イタリアンブームに乗り客単価を上げようとしたチェーンは若者の支持を失い低調だ。多店舗展開を計り、アルバイトを多用する中で明るいイタリアンの雰囲気を出せないのだから、専門店との差別化は難しいだろう。若者は[5]や[6]の店舗を良く知っており比較をできる。価値観をしっかり出すと言うのがこのジャンルの基本戦略で、もう一度価格と価値を見直す時期にきている。

[5][ボリュームたっぷりのピザとパスタ]
カプリチョーザやパッパガッロなどは大人気で開店前に行列ができるほど人気だがその最大の理由がボリュームだ。サラダやスパゲティなど思わずため息が出るほどの(2人前くらいの)分量が出てくるのが人気が続く理由だろう。勿論、店舗のロケーションも隠れ家的な場所にあり、知っているのが自慢できると言うところが若者に人気があるようだ。ファミリーレストランに飽き足らない若者を引きつけている。イタリアンのブーム前から先行して人気が出ていたが昨今のイタリアンブームで競合店が随分でき、カプリチョーザも店が増えて隠れ家の良さが薄れつつある。今後どのようなイメージを築き上げていくかが課題となってくるだろう。

[6][トレンディーなピザとパスタ専門店]
今、ピザとパスタの専門店として元気がよいのはこのとレーンディーなジャンルだろう。三笠会館のAGIO、ヒューマックスグループのベリーニカフェ、宅配ピザのピザーラの経営するツー・ザ・ハーブスだ。昨今の異常なイタリアンブームに乗り、大人気だ。このジャンルはピザとパスタのメニューだけでなく、店内の内装、雰囲気、サービスに十分気を遣い、トレンディーな若者に大人気だ。どちらかというと味より雰囲気に注目した店舗だ。

AGIOとツー・ザ・ハーブスは当然の事ながら売り物のピザをオープンキッチンの煉瓦で築いた薪釜で焼いている。いま一番注目されているのがツー・ザ・ハーブスだろう。今はやりのオープンカフェの雰囲気も取り入れいる、広尾や青山の店舗は、トレンディドラマのWhithLoveで取り上げられているように、若者でいっぱいだ。雰囲気だけでなくさすがピザの専門店と思わせるピザの種類の豊富さと、しっかりとした生地の均一な焼成がその人気をしっかり支えている。繁盛の秘密はトレンディーな雰囲気の中で本格的なピザを食べさせるところにあるようだ。

最後に
[技術]
イタリアンがこんなに溢れている現状を見ると、今後、専門店として生き残るためにはより、品質面で他店と差別化できるような努力が必要になるだろう。薪釜をつかっている、有名なレストランでもローテーションや、掃除と言う基本を守っていないから焼き加減はひどく、焼けていなかったり、ムラがあったり、焦げ付いていたりする。単に良い原材料、良い調理機器を使用するだけでなく、調理技術もよりいっそう研鑽する必要があるだろう。

[商品]
日本のパスタというとスパゲティ一本槍だが、ラザニアとか、ペンネ、ラビオリ、フェトチーネ、等のメニューを日本人に合うように開発するなど常に新製品の開発を行わないとイタリアンブームが去った後、商品力で苦しくなるだろう。

[サービスと雰囲気]
女性が中心の顧客層だから、店舗の雰囲気は味と同じように重要であり、常に時代の最先端を行く内装、雰囲気、サービスを維持しなくてはならない。是非、の店舗群を見学していただきたい。

[ワイン]
最近のワインブームの中でワインの勉強と低価格の仕入れが不可欠だ。ワインブームは結構なことだが、その反面ワインの値段の高騰と入手困難が始まっており、イタリアのワインにこだわらず幅広く美味しいワインを開拓するべきだろう。ワインレストランには料理が必要だが、フレンチでは高すぎるし、和食では赤は強すぎると言う欠点があるが、イタリアンの食べやすい料理を組み合わせることによりワインの売上も伸ばせるという大きな可能性がある。しかし、昨今のワインブームに乗り単価を上げてはならない。イタリアンが大人気なのは雰囲気の良い店で食べやすい料理を手頃で食べられるからだ。ワインブームの後を考えたしっかりとした取り組みを忘れないようにしたい。

繁盛店だからと言って安心しては行けない。一度イメージが低下したり流行遅れになると、急斜面を転げ落ちるように売上が下がるからだ。常に、情報の入手と、技術の研鑽を惜しまないように心がけていただきたい。

その他
変わったピザ[シカゴスタイル・ピザのレシピー]
他店と同じピザを売るのではなく誰も販売していないような難しいピザにも挑戦してみよう。まだ日本にないシカゴスタイルの、スタッフドピザの作り方を紹介しよう。

ピザ生地にバターを入れややリッチな生地にする。(粉は5カップ)コーンフラワーを混ぜるか、皿に敷いて焼く。
ソースは缶詰のホールトマトか生のトマトをゆでて作る。そのトマトをつぶし、オレガノとバジル、オリーブオイル、塩、つぶしたガーリックを入れる。・詰め物は、生のホウレンソウを刻み、細かいモツエラリアチーズ を混ぜる。
発酵した生地を2つに分け、良く延ばし、深めのパイ皿かケーキを焼く皿に入れ整形する。そこにホウレンソウとチーズを入れる。その上に延ばした生地を乗せ、パイのようにする。生地に切れ目を薄く入れ、ソースを流し込む。230℃に加熱したオー ブンで35分から45分間かけて焼く。中の詰め物に好みによりソーセージや茄子などを入れても良い。後は好みの味を作るだけである。充分ディナーになる満足感のあるピザである。

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