新しい衛生管理HACCP 第2回「HACCPとは品質管理なのです。」(日本食糧新聞社 外食レストラン新聞1999年2月1日)

HACCPという言葉が皆さんを戸惑わせているはずです。HACCPと言う言葉尻を捕まえて、各業者がそれぞれの機器を売り込もうとしているからです。HACCP対応の調理機器、殺菌剤システム、細菌検査機器、HACCP対応の建物、など色々売り込みがあるので、HACCPというのは何か特別な物を買ったり、厨房の調理機器を入れ替えたり、改造が必要なのだろうかと思わせてしまいます。

HACCPというのは物ではなくて品質管理活動なのです。品質管理というと「当店は美味しい物を出しているよ」とおっしゃるかもしれませんが、現代のように物の余っている時代では、単なる美味しさだけではだめなのです。無農薬の野菜が脚光を浴びているように、食事は単なる美味しさから、健康的、衛生的、安全であること、が求められ始めているのです。

つまり、品質管理の中心に衛生や安全という概念を据えてあるというのが従来と大きな違いです。調理長は先ず衛生的であることを考えて美味しい物を提供するという基本的な姿勢が必要になってきています。良く、「当店は昔から衛生に気を配っていて、今まで問題がなかったのだから、そんなことを新たにやる必要はないよ」と言われますが、実は食中毒菌の世界も技術革新が進んでおり、新種の食中毒菌が続々と出現しています。また、日本は世界中から全ての食品を輸入しており、食品と同時に新種の食中毒菌も気がつかずに輸入しているのです。

さらに、老齢化社会となり、お客様の病気に対する抵抗力が減少していくという社会現象もあります。従来と同じやり方をしていては食中毒を防げなくなっているのです。調理の世界も食中毒菌に対応するように技術革新をする必要があるのです。それがHACCPなのです。

HACCPとは簡単に言うと、従来の衛生管理である、「つけない、増やさない、殺す」と言う概念をよりわかりやすくした物です。この3つをより具体的に定めて、且つ、誰に責任があるかを明確にするために記録を残すというのが、HACCPの基本的な考え方です。

1)つけない
まず、店舗に配送される食材が食中毒菌に汚染されていないようにするために、信頼の置ける業者を選び、搬入の際に温度などの品質チェックを厳しくします。
しかし、幾ら気をつけても、食材は細菌汚染されている物です。まな板や、包丁などは食材により使い分けるようにします。当然、調理人は頻繁に手を洗浄殺菌しなくてはならないわけです。

2)増やさない。
細菌が繁殖する温度は5℃から60℃の間です。この温度帯に食品を4時間以上おかないと言うのが原則です。
ですから、生ものは冷凍庫、または、冷蔵庫にしまう。材料の下拵えは手早く行い、下拵えの終わった生食材は、また、冷蔵庫などにしまう。

調理後の食材は60℃以上で2時間以内の保管が可能。冷却して翌日使用する場合には2時間以内に5℃以下に下げます。

3)殺す
調理温度をきちんとします。厚生省では食品の中心温度が75℃で1分間加熱すると決めています。お店には精度の高い温度計を備えて、勘ではなく科学的な対応をします。調理機器や手指などの殺菌もきちんとするために、殺菌剤や洗浄機の洗浄温度などの正確な知識も必要になります。
4)記録に残す
数年前から生産者賠償責任という概念が出てきました。何か問題があったときには消費者が問題を立証するのでなく、物を提供した生産者が問題ないという事を立証しなくてはいけないのです。そのために、毎日の仕事の内容のマニュアル化や、記録保管が必要になってくるのです。つまり、調理の手順はどうなっているか、チェックした時の温度は何度であったかを記録して、残さなくてはならないのです。
次回からのその内容を詳しく見てみましょう。

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