フランチャイズ本部の新業態開発能力の優劣(日本経済新聞社 日経MJ2004年1月)
2003年12月25日の米国牛BSE(所謂狂牛病)事件は大きな課題をフランチャイズチェーン業界に与えた。
使用する食肉の殆どを米国産に頼り切っていた業態などは、数ヶ月の食肉の在庫鹿内という状況に陥り、経営が危機に追い込まれることも起こりうる。加盟者がフランチャイズ本部を選ぶ際には本部の危機管理能力をチェックしなければいけなくなったようだ。今回は、危機管理という面から本部の新業態開発能力を見てみよう。
1) 原材料の安定供給と将来の動向
たこ焼きを考えてみよう。たこ焼きは日本人の大好物の蛸を使わなくてはいけない。では蛸の供給は安定しているのだろうか?今我々が食べているたこ焼きの蛸は輸入品だ。元々は日本近海の日本蛸を使っていたのだが、乱獲が続き取れなくなり、中国沿岸で取れた蛸を輸入していた。ところが、中国の経済が良くなるにつれ中国国内で蛸の消費が増え輸出能力がなくなり、今では西アフリカから輸入している状態だ。早晩、蛸は本マグロのように高級な食材となると言われている。
2) 料理と原材料の種類
鶏、豚、牛、魚、野菜、穀物、等、平均して使用していることが望ましい。食材ごとのリスクを見てみると、牛であればBSE、腸管出血性大腸菌o-157、口蹄疫、等の危険な病気発生の可能性があり、BSEと口蹄疫が発生した国からは数年輸入ができなくなる。鶏もインフルエンザの問題で一時米国からの輸入が止まったことがある。豚は豚コレラや口蹄疫の問題がある。魚の場合も、ダイオキシンや水銀の蓄積、養殖フグのホルマリンが問題となっている。さらに、昨年はウイルスによる鯉ヘルペスが発生し、日本中にあっという間に伝染してしまった。海洋性の養殖魚も絶対に安全であるとは言い切れない事態となっている。
現在のように食中毒菌やその他の問題の発生は予測が不可能な状態では、食材はなるべく多くの種類を使うことが望ましく、同一の食材の場合同じ産地や国から購入しないで複数の産地や国から輸入していくなどの対策が必要になる。
3) 原材料のカントリーリスク
輸入食材の場合はカントリーリスクを慎重に考慮するべきだろう。鶏の場合でも、日本、タイ、中国、ブラジルなどから輸入できるので、単に価格や安定供給ができるからと言うことではなく、長期的な安全性を考え調達ルートの複数化は必要だろう。
カントリーリスクの場合、衛生的な問題だけでなくその国の政情が安定しているか、日本や日本の同盟国と紛争がないか、価格が安定しているか等慎重に考えなくてはいけない。
4) 安全な調理方法か
牛の場合BSE以外に腸管出血性大腸菌o-157という危険な存在がある。例えば肉の表面だけを焼き、中が真っ赤な状態で提供する店では、客が自分の好みに合わせて肉に熱い火を入れる。しかし、客に調理を任せると十分に火を通さない状態で食べる場合があり、食中毒などを引き起こす原因となることがある。
特殊な調理方法を使わざるを得ない業種には万が一のリスクを考えて加盟する覚悟が必要となる。
5) アルバイトでも安全に調理できるか
食中毒の危険を防ぐには調理の知識がないアルバイトやパートタイマーでも安全に調理できるように、自動化の調理機器を使う仕組みを構築するのは本部の大事な仕事だ。フライヤー、グリドル、オーブンなど、正確な温度と時間を管理できる機械を使っているか、自社に機器開発部があり、常に安全な機械を開発しているかに注目するべきだろう。
6) 新業態開発能力はあるのか
今回のBSEの事件で判明したのは大手フランチャイズ本部であっても危機管理意識が薄く、問題が発生したら主力商品はなくなり、代替えの商品開発や別業態の開発に手間取ると言うことだろう。ザーを選択する場合、常にリスクを分散する商品開発を行うか、複数の異なる業態を開発しているかを選択の基準に加えなくてはいけない。
今回の牛丼チェーンは色々な業態開発を行っているが、フランチャイズチェーン展開が可能な利益率の高い業態を持っていなかったのが、致命的な問題となりつつある。焼肉チェーン最大手は業態開発に熱心で、居酒屋、焼き鳥居酒屋、を成功させ、ファミリーレストランの展開も手がけており、ジーにとって心強い。
フランチャイズに加盟する場合、複数の業態を持っている本部と契約を結び、なるべく複数業態を開業しよう。複数の業態を開業するには従業員の教育を新たに行わなければいけないと言うデメリットがあるが、安全性のためにはやむを得ない。
フランチャイズ本部が一つの業態しかない場合、同じ業態を複数開店するよりも、他の業態を展開するフランチャイズ本部にも加盟するというリスク分散を検討しても良いだろう。
危機開発の面から見た新業態開発能力チェックリスト
原材料の安定供給と将来 養殖できるか
食材は国内だけでなく、外国産も使えるか
料理と原材料の種類 鶏、豚、牛、魚、羊、野菜、穀物に分散しているか
原材料のカントリーリスク BSE、口蹄病、等が発生したことがない国か
政情が安定し、日本との友好国か
同一食材を複数の国から購入しているか
安全な調理法 最新の衛生情報に基づいた安全な調理方法か
HACCPの基準に乗っ取った調理方法か
アルバイトでもできるか 温度、時間を設定できる自動調理機器を使用しているか
全てのトレーニングマニュアルができているか
アルバイトもモラルが高く維持できる評価制度があるか
新業態開発能力 利益率の高い別業態を複数持っているか
自社に新業態開発部門をもっているかか
経営トップが開発に熱心か
優秀なプロデューサーに新業態を開発させているか
経営トップに開発センスがあるか