外食産業向け衛生管理特集(日本経済新聞社 日経MJ2003年5月)

衛生対策に必要な厨房と付帯設備、サービス。
飲食店経営者は繁盛する業態を必死に探していますが、攻めの営業ばかりでなく守りの姿勢も大事な時代です。不況の中でも高級なフレンチや回転寿司を大手鉄道会社と提携し、続々と展開している有名オーナーシェフのお店が2003年2月23日に結婚披露宴関係の食事で、生ガキなどに起因するSRSV(小型球形ウイルス)による食中毒を引き起こし、新聞記事や週刊誌にも大々的に取り上げられました。今回の原因は、オーナーシェフがSRSVの事を不勉強で知らなかったと言う事でした。
また、2003年3月26日のNHKのニュースで、低価格で急成長をしているイタリアンレストランチェーンのS社で食中毒を発生したと報じられました。ミートボールを食べた夫婦が嘔吐(おうと)症状を訴え入院していたのです。原因はミートボールを結着させる成分の「ポリリン酸ナトリウム」です。同様の事件は関西の同社のお店でも発生していたのですが、回収の処置を執らなかったために東京で大きな事故として報道されました。
事故を起こし報道されると既存店の売り上げが低迷するだけでなく、今後の出店ペースを落とさざるを得ないでしょう。
このような事故を防ぐには店舗の設備や調理機器の見直しや入れ替えを行ったり、従業員の教育に力を入れなくては行けません。店舗の設備や調理機器の更新、害虫駆除や排水溝等の清掃を怠っているお店は要注意です。
飲食店が成功するための秘訣は品質とサービス、清潔さだと言われておりますが、料理の品質に気を取られ、清潔さをおろそかにする店舗が多いようです。しかし、昨今のように食中毒が多くなると、調理の工程が一目瞭然のオープンキッチンのお店に人気が集まっています。最近大人気の100円うどんのチェーンは、並んでいるお客様から丸見えの厨房でどんどん釜揚げするショー効果で売り上げを上げています。
回転寿司が人気なのも値段だけでなく、寿司の調理工程を見ながら、寿司を自分の目で吟味できると言うメリットもあるからです。コンベアー上で時間が経つと衛生問題もありますが、味も劣化します。そのためにお皿に工夫をして製造後一定時間経過した寿司を自動廃棄したりしています。以前は金属むき出しで無味乾燥でしたが、最近の回転寿司コンベアーは外観も大理石風や木目で高級感を演出し、客単価の高いお店の展開に成功しています。また、工夫することにより高級回転寿司居酒屋にしたり、回転飲茶に活用など、ビジネスチャンスにつなげています。調理機器を清潔にお洒落にして、品質管理も向上させ、用途に工夫を凝らすと、売り上げが上がる良い事例です。
最近渋谷に開店したレストランはオペラハウスをテーマに厨房を舞台に仕立て上げました。客席よりも高い位置にあるオープンキッチンは従業員の足下から天井まで全て見えるようになっています。厨房が丸見えですから調理機器も内装材のように格好良く並んでいます。お客様は舞台で演技をするオペラを見るように調理場の演出を楽しむことができ大繁盛しており、その成功を元に銀座にも大型店を出店しました。
原宿などで大成功をしているカフェの仕掛け人はどのお店もオープンキッチンに仕立て上げ大繁盛させています。それも敷居のないキッチンで、お客様は店内に入る時、キッチンの横を通って客席に案内されます。忙しそうに働いている同年代の男女調理人のキビキビした姿を見て楽しめるのが成功の一つの要因になっています。
しかし、どんなにお洒落で綺麗なお店でも、店内空気が脂臭かったり、排水溝から臭いが漂ったり、客席にゴキブリや昆虫などが徘徊すると食欲減退するだけでなく、女性客は二度とその店に行かなくなります。お店の衛生状態を向上させるための少額の費用を惜しむと長期的に売り上げを大きく下げるのです。
調理機器では焼き物を両面から焼き上げる焼器や、電子レンジとガス燃焼を組み合わせた高速調理機器、精度の高い温度管理のできるスチームコンベクションオーブンなど、調理速度を速めながら、同時に温度管理の精度をあげ、味まで美味しくなると言う新型の調理機器が出ています。時々、メーカーのショールームを見学し最新の調理機器を試してみるのも良いでしょう。
たまには自分のお店のあらゆる場所に座り、じっくりと店内をながめて、料理を食べ、品質、サービス、清潔さ、をお客様の立場で評価しましょう。そして問題を発見したら素早く改善するのが売り上げを上げる秘訣なのです。

以上

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