特別ルポ「クックチルシステムの現場」(日本厨房工業会 月刊厨房)

特別REPORT 第2回
NAFEM/95及びアメリカ厨房施設訪問
クックチルシステムの現場
9月12日から20日までラスベガスで開催されたNAFEM展示会の際にクックチルを使用している、セントラルキッチンを2カ所見学した。
サンフランシスコから車で2時間ほどもモデストという地区の学校給食のセントラルキッチンとサンディエゴ地区において刑務所のセントラルキッチンである。

カリフォルニア州モデスト市の学校給食センター
名称 Modest City School
担当者 Director of Nutritin Service Ms.Judy Jenkins (secretary Marggaret) 426 Locust Modest, CA 95351
電話209-576-4170 or 4070 FAX 209-576-4927
1日24000食を市内の公立校とその他の施設42カ所に供給している。クックチルを導入する以前は3つのセントラルキッチンで同じメニューで生産し配送していた。セントラルキッチンを新しく設計スタートしたのは1989年6月からで、1992年の前半にオープンした。建設総費用は6.4ミリオンUSドル(約6億4千万円)かかっており、7~12年で償却する予定である。当初の計画では1日18000食の供給の予定であった。現在の1食あたりの原価は、58セントである。

設備
総面積は、32208スクエアーフィート。設計はMarshall Associates Inc.。 タンブルチラー方式としてGROEN社製のCAPKOLD200(一番大型の設備)を使用、200ガロンの容量のケトルを2台と、200ガロンのパスタ用ケトル1台、タンブルチラーとアイスビルダー1台づつである。クッックタンクは使用していないがそのかわり、ロータリータイプのオーブンと,VULCAN社製のブラストチラーを使用している。メニューの90%がタンブルチラーによって調理されるとのことである。それは配送するにはプラスチックバッグに入っている方が容易であり、かつ味が良いからであるとのことであった。保存期間は45日可能であるが現実にはそこまで必要なく、8日間以内に使いきっている。加熱調理以外では、サラダドレッシングをケトルで混ぜポンピングしてプラスチックバッグに詰め、14日以内に使用している。またパスタサラダもポンピングが可能であり、14日間保管出来る。
配送のためにトラックは4台で朝の6時から夕方の4時の間に計画的に配送できるのでトラックは4台で済む。

効果
人件費で15%、年間で5000万円の削減が出来る。従来3つのセントラルキッチンにそれぞれ給料の高いシェフが必要であったり、各学校である程度の調理が必要な為、熟練した労働者が必要であった。セントラルキッチンが一つになったのと、サテライトキッチンでの調理作業が不要になった為人件費が大幅に削減出来たのである。
またフードコストで20%、7500万円のコストが削減出来た。従来3つのセントラルキッチンで調理し、またサテライトでも一部原料から調理していた為、資材の供給業者は数多くの地点に配送していた。それが一つのセントラルキッチンに一度に大量に配送する事が可能になり、配送コストが大幅に下がった為である。水道光熱費も削減出来たと思われるが従来との比較はやっていない。

2年前に訪問したときよりもメニュー開発が進んでおり、写真にあるようなパイフィリングなどバラエティが増加していた。今回数品目を試食したが、クックチルで調理したスープは缶詰や冷凍食品よりはるかに新鮮で野菜の煮崩れがなくクリスピーであったのが印象的であった。また、パスタソースもフレーバーが抜けておらず美味しかった。

カリフォルニア州サンディエゴ市 サンディエゴエリア刑務所
East Mesa Detention Facility、 San Diego County Sheriff*s Department
責任者 Chief Food Services Ms.Louise Matthews
446 Alta Road San Diego, CA 92173
電話 619-661-2800
今回はMs.Louise Matthews氏にお話を伺った。氏はNAFEMの会場のクックチルのセミナーの講師もつとめており、業界でもクックチルの実務に最も詳しいと言うことで有名な方である。

この施設は1991年の10月にオープンした設備であり、現在1日の製造は34000食である。この刑務所のみでなく他の施設にも配送している。1食当たりのコストは食材喧嘩が59セント円、全ての経費を入れて1ドル16セント」と低い、これは政府から原材料の援助がある為である。しかしながら最近は政府の援助資材の供給が少なくなり、大変である。

刑務所の食事というと、日本の常識では臭い飯という粗末なものであるが、米国の刑務所の食事はオードブルからデザートまで付く豪華なものである。以前は日本と同様に粗末な食事であったが、それが原因で健康を害したりしたといって訴訟を起こされ、州政府が敗訴した事があった。また食事が粗末だとそれが原因で暴動が起きたりしかえってコストが高くなるという事で、最近では刑務所の食事は病院よりも良い。構内には、ベーカリーがあり、焼き立てのパンとデザートを毎日製造して供給している。また栄養のバランスも考え、糖尿病にならないようにとか、繊維質の多い健康的な食事を製造するようにしている。その他宗教上の理由により食事制限を受ける囚人の為に特別食も用意してあり、レストランと同じくらいのメニューバラエティがある。

実際に今回試食の機会を与えてもらったが、メニューはローストビーフ、ポーク、チキン、スープ、豆料理、野菜料理、クッキーなど盛りだくさんであり、味は飛行機会社の機内食のエコノミークラスとビジネスの中間くらいの優れたものであった。ローストビーフはクックタンクで調理されているのだが、低温でじっくり加熱するためか、柔らかく仕上がっていた。また、ビーフシチューも肉が柔らかいのに、野菜がクリスピーであり、品質はかなり高く、缶詰や冷凍、レトルトのシチューとはレベルの異なる品質であるといえる。

まあ、欠点と言えばアルコールがないかなと言ったところだろう。しかし、刑務所では囚人がフルーツとパンのイースト菌を使い暖かい場所にビニール袋に入れて発酵させて、ワインを作って、クリスマスなどに飲んでいるそうだ。もちろん違法ではあるが知恵を絞る物だなと感心させられた。

設備
全体の面積は38000スクエアーフィートである。現在の機器の能力は冷蔵庫を倍増すれば生産能力を倍にすることが可能な調理能力を持っている。
ドライストレージエリアは4000スクエアーフィートあり、容積は16000キュービックフィーある。毎日ローテーションを行って管理をしている。搬入される資材の管理をイングリディエントコントロールといい、3人が担当ししている。この業務は重要であり、クックチルのメリットを十分に出すために必要だ。クックチルでコストを下げる最大のポイントは調理した食材を長期間保存できるので、原材料が安いときに大量に購入できるのでコストを削減できるわけだ。そこの部分のみで20%のコストダウンが出来る。

冷凍庫は3000スクエアーフィートの大きさで9000キュービックフィートの容積である。温度はマイナス8度Fである。その他に乳製品と野菜の冷蔵庫を別々に持っている。

完成したクックチル製品はクックチル製品冷蔵庫に保存する。セットする温度は28ー32度Fであるが、実際の温度は32ー35度Fである。完成した製品はサンプルを取っておき、実際に全部消費されるまで保管しておく。米国ではHACCPの問題から、必ず記録を義務づけられており、製造月日を、製品名、調理温度、時間、の記録を保管しておく。

まず、1000スクエアーフィートの面積のコールドプロダクションは野菜のカットを行う。まず洗浄をし、次にちょっぱーで細かく切り、脱水する。それを真空パックし、2週間保管できる。作業は5名で行い、そばに専用の野菜冷蔵庫をおいて温度管理をしている。

基本的に全ての材料は生から加工するようにしており、パンやケーキ、クッキーなども全てスクラッチで作り上げる。

GROEN社製のCAPKOLD200(最も大型)。200ガロンのケトル3台、200ガロンのパスタ用ケトルを1台、2台のタンブルチラー、1000ポンド調理出来るクックタンクを3台持っている。

ケトルでの調理は食品の温度が180度Fになるまで加熱するが、これはHACCPの基準に基づいている。現在の問題点は冷却能力がバランスを欠いているという事である。ケトルは200ガロンの能力があるが、タンブルチラーの能力が142ガロンしかないためである。現在の新型は最大400ガロンまであるが当時は小型しかなかったためである。ケトルの周囲では4名が働いており、2名がピット内部、2名が外。その他に1名がローストオーブンとブラストチラー、3名がブッチャー内部で働いている。ブッチャーは肉の加工のために室内温度を60度Fで管理している。ここでは、生肉の処理、スライス、を行うが、スライサーにGroteを使用し、サンドイッチ用のハム類の加工の生産性を向上させた。ブッチャーではローストビーフなどに調味料をつけ、真空パックし、それをクックタンクで低温調理する。

クックタンクで1000ポンドの肉を調理するのに7時間、冷却に8時間かかるので夜間に自動的に調理する。肉の歩留は95%と高いので味が良い。肉の中心温度を155度Fにするために温水温度を165度Fにしている。調理中の温度と時間は記録紙に記録され、肉の温度は青い線、水温は赤線で表示記録するようになっている。調理が終了すると、3分後に排水し、冷水を入れ冷却する。冷却が終了したものは45日間保管できる。

また、揚げ物や炒め物はブレージングパン4台で調理している。ロースト用のオーブンはLUCKS社の物を4台使用。主にラザニア、ローストチキン、ミートローフ、ハンバーガー、ポークチョップ等の表面に焦げを付ける物に使用しており、ブラストチラーはUSECO社のロータリー型のものを使用している。ロータリー型のブラストチラーは温度ムラが少なく均一に冷却され食品の表面に冷凍焼けが発生しにくいとの事であった。配送と計画生産する為に、保管期間の長いタンブルチラーで全体のメニューの70%を調理している。45日間保管出来るが、実際には21日間で使いきっている。ブラストチラーの調理は10ー15%のみである。小さい設備で食数が少ないときにはブラストチラーでも良いが、このような大きい設備になるとなるべくタンブルチラーで調理した方が生産性が高いためである。特に食数が多くて配送する場合にクライオバックで真空包装した方が生産性が高く、コストが低い。タンブルチラーを使用したらよいのは刑務所の場合、1000人以上、(1日に3食べるから)、病院だと200ー300ベッド数(食数で1600食)の規模だろう。

ベーカリーは3200スクエアーフィートの面積で10人が作業をしている。ケーキ、クッキー、スイートロール、ピザ、ロール、フレンチブレッド等をスクラッチで作っている。設備は、ウオーターチラー、ウオーターメーター、ドウとバッターをドウフックからビーターに交換しないでもミックスできるDiosna(Benier社製)、ロールのデバイダーと丸目を同時に行う機械と、プルーファー、ケーキデポジター、3台のLucksベーキングオーブン、クッキーマシン、フロスティーマシンをおいている。

ラック洗浄機で配送用のラックを洗浄している。その他ステロの食缶洗浄機を使用している。

配送は24フィートのトラック2台で配送している。各トラックは1回の配送で5日分の給食数を配送し、各サテライトの在庫食数は2日分となっている。

効果
現在34000食を1日で生産している。1日に必要な給食数は22000食であるが、それを45人で勤務態勢は1日8時間労働、週5日で調理するために1日34000食を製造しているのである。調理に当たるのは専従の職員45人である。職員の位により制服の色を変えている。赤い帽子をかぶるのはフードサービス責任者、ブルーの帽子はコック、等と分けている。真っ白なユニフォームを着ているのは囚人で人目でわかるようにしている。の他に囚人55人を使用するが、囚人は調理には当たらせず、パッケージングのみを担当させる。
クックチルの投資コストは7億5千万円かかったがその回収は18カ月である。これは食数で言うと1100万食である。18カ月というのはクックチルのコストを回収したという事ではなく此の設備全部の回収にかかる時間である。

一般的にクックチルに必要な余分な投資額は一般的な調理方法の10ー20%余分にかかるが、そのコストは6カ月あれば回収できるだろう。クックチルの必要な機器の内ケトルなどは耐久力が20年ほどあり、将来にわたって安心して使用できる。

人件費の節約は15%である。まとめて購入することと、必要な分だけ温めて使用すればよいので、食材原価は10%削減できる。

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