今、ユーザーが求めるファーストフードの厨房設計 シリーズ第10回 「キッチンレイアウト」(日本厨房工業会 月刊厨房)

キッチンレイアウト

前回は、売上から商品の販売個数を算出し、時間帯別必要生産能力による厨房機器の能力と台数の設定方法、作業手順の見直しによる機器能力の設定方法を述べた。次にキッチンの調理機器レイアウトを見てみよう。

キッチンの調理機器のレイアウトには前回述べた売上予測に基づく必要調理機器の台数が必要である。それが算出されたら、その作業に必要な人数を算出し、その作業者の必要な作業面積から必要な厨房レイアウトを算出する。

倉庫レイアウト
ファーストフードのキッチンはレストランと違い、時間当たりの売上高が高いために、厨房機器のレイアウトだけではなく、調理する原材料をストックするスペースも考えておかないとならない。つまり、調理に必要なキッチンのスペースと、原材料をストックする倉庫スペースのレイアウトを別々に考えておく必要がある。幾ら厨房の生産能力が高くても、食材をストックする倉庫スペースが足りなくては、鉄砲があっても弾薬がないのと同様で、ビジネス戦争に勝てないのだ。
レイアウトするときに忘れてはいけないのは、必要売上高からくる必要ストック食材である。それと1ケース当たりの入り数、箱の大きさ、冷蔵庫のキャパシティとの関連性が重要になってくる。食材の保存可能期間(賞味期限)も重要であり、週に何回配送するのかとともに必要ストック量に大きく影響するのである。また、冷凍冷蔵庫の内容積一杯に食材をいれると、冷気が内部を循環できなくなり、食材が冷却されないので注意が必要である。一般に内容積の50%が妥当であるといわれているが、食材が搬入される温度が大きく影響するのである。搬入温度が基準内であれば内容積の80%位まで詰め込んでも大丈夫であるが、基準以上の温度であると、50%でもきついくらいである。

基本的に店舗の冷蔵冷凍庫というのは、搬入時の温度を維持できるだけの冷却能力しかないと思わなければならない。冷蔵冷凍庫内部の冷気の循環がスムーズになるように、床にはスノコや棚を使用し、壁に食材が直接接触しないようにする。使用する食材が冷凍と冷蔵では倉庫の設計は大きく異なる。冷凍の食材の場合には保管期間が長いので、配送頻度は少なくてもすむが、そのかわり冷凍スペースを十分にとらないとならない。また、冷凍品を直接加熱調理しないで、解凍し調理する場合には、解凍に24~36時間かかるので、十分な解凍用のウオークイン冷蔵庫のスペースが必要になってくる。

週3回の配送であれば最大3日の在庫を持てば良いように思うがそうではない。配送が月、水、金の場合には、金曜日の配送の後には土日という売上の高い日がある。土曜は平日の2倍、日曜日は平日の4倍も売れる場合がある。カレンダーを見ると、5月の連休とか、正月の売上の高いときがある。そのとき食材の配送が定期的に実施できるのかどうかということは倉庫の設計に大きく影響する。売る商品がなくては売上が上がらない、販売ロスを防がなくてはならないのだ。そのため、週3回の配送の場合で原材料のストックは、最大1週間は必要である。週2回の配送であると10日分のストックが必要になってくる。

また、単に使用量のみで考えるのでなく、配送単位も考えておく必要がある。ファーストフードでは持ち帰り用の紙容器を使用するが、例えばコーヒーマドラーや、砂糖のように容積が小さいものは1ケース当たりの入り数が多い場合があり、1ケースで1カ月以上も、もってしまう場合があるのだ。そのため主要食材以外は、ケースのサイズを考えておき、特に紙製品の場合にはやや余分な、十分なストックスペースを見ておく必要がある。紙製品やドライの食品を保管するには、床に直接置くのは不衛生であるので、床にスノコを置くか、しっかりとした棚を使用しなければならない。

トラックから搬入するときに用意に倉庫まで搬入できるか、搬入経路を確認しておかなくてはならない。重い冷凍品を持って搬入しなくてもすむように、コンベアーを使用できるようにするとか、台車で直接搬入できるように設計する必要がある。また、スペースの問題で2階や地下に倉庫がある場合、階段ではなく、エレベーターやダムウエーターを使用できるようにする必要がある。これは従業員の定着性につながるだけでなく、冷凍食品等の品質管理にとって大変重要である。

従業員休憩室、マネージャールーム
ファーストフードは小数の社員で多くのアルバイトを活用している。そして売上のピークは日曜日であり、平日の4倍のアルバイトを稼働する必要がある。そのため十分な従業員の着替え、ロッカー、休憩室のスペースが必要になるのである。アルバイトの休憩室の設備は、男女別の着替え室、十分な数のロッカー、6人くらいがくつろいで休憩できるテーブルと椅子、お茶をいれられる道具、音楽が必要である。
この設備をきちんとしアルバイトが働きにくるのが楽しくなるようにすれば、人手不足に悩まされることがなく、お客様ヘのQSCの向上により売上があがるのである。従来の飲食業はお客様は大切に扱うが、その接客に当たる従業員を粗末に扱うことが多く、従業員の気持ちの良い、笑顔あふれるサービスを見ることが少ない。また、質の良い正社員を確保するためには、アルバイトの時から大事に扱い、卒業後に社員の希望者が多くて困るくらいにならなくてはならない。休憩室は客席と同等の内装材や雰囲気をもち、アルバイトがお客様と同様に大切に扱われているという感じを持たせなければならない。

休憩室は新人アルバイトのトレーニングにも使用するので、トレーニング教材やVTR等の準備が必要である。また、店舗の行事や、作業の変更などを告知する掲示板をきちんと用意し、そこら中の壁に張り紙をべたべた張らないようにすることが、きれいに保つ秘訣である。

また、ファーストフードチェーンの経営の管理基準はきびしく、週に1回の棚卸し、月次の利益計算書、発注業務、新人社員の教育などを実施しなければならない。そのマネージャーの作業スペースであるマネージャールームが必要なのである。単に机だけではなく、金庫、書類棚、パソコンスタンド、ロッカー、ファックス、コピーマシン等が最低限度必要である。

ハンバーガーキッチンレイアウトの変遷
キッチンで大事なのは食材などの資材の流れがスムーズであるか、人がスムーズに動けることが出来るか、ということである。資材が倉庫に搬入される。次にそれを小出しにし、店舗の厨房に運び込む。それを機械のそばの冷凍冷蔵ストッカーに保管する。製造した商品をストックする。その流れが交差するとピーク時に混乱を呼び起こす原因となるので注意する必要がある。
図1は米国ハンバーガーチェーンのM社のオリジナルのキッチンである。メインのグリドルは販売のカウンターに平行になっておりグリドルの作業者はフード越しにお客様の様子を見れるようにした。従来のコーヒーショップのグリドルはグリドルなどの上に天蓋型のダクトフードを使用していたので、お客様に背を向けて壁に向かって調理をしなければならなかった。それでは、お客様とグリドルマンの一体感を得ることができないので、現在の特殊な形状のフードを開発し、お客様から従業員が一生懸命働いている姿を見れるようにしたのである。

また、オーダーが入る前に入店するお客様の数を見て、直ちに調理を開始することができ、サービスのスピードを早めることにも成功したのである。マネージャーはハンバーガーを保温するウオーミングビンの前に立ち、できたハンバーガーをラップし保管する。そして、ウオーミングビンの内部のハンバーガーの数が不足してきたり、お客様が数多く入りだしたら、ハンバーガー製造のオーダーをいれるのである。マネージャーはグリドル越しにすべての作業を見ることができるので、品質に気を配ることができるし、作業のペースが遅くなったらスピードアップを促すことができるのである。マネージャーと調理するアルバイトは目を合わせて作業をすることができるので作業のチームワークが良くなるという副次的な効果もでたのである。

オリジナルの店舗を設計したときは、ハンバーガーが2~3種類であり、全部でメニュー数は10品目位であったためシンプルなキッチンで良かったのである。当時は売上が少なく、販売商品の数も少なかったため、小数の人数で調理をするようになっていた。搬入された食材も、冷蔵冷凍庫や棚に保管され、必要に応じて調理機器のグリドルやフライヤーのそばの冷凍庫に移される。オーダーによりつくられた商品はウオーミングビン(保温庫)に保管される。作業は後ろから前にスムーズに行くようになっているのである。

しかし、チェーンスタート後数年経過し、メニューの拡大をするようになった。ビーフハンバーガーサンドイッチのほかに、魚フライのサンドイッチや、アップルターンオーバー(パイ)、大型ミートサンドイッチがつけ加えられるようになった。そのために、フライヤーをグリドルの背後につけ加え、さらに3台目のグリドルを設置するようになり、スペースが不足するようになってきた。

そこで、スペースを稼ぐためにシェークフリーザーの改良を行った。元々シェイクはハードアイスクリームとシロップをミキサーで混ぜるものであった。それをM社ではシロップタンク、アイスクリームフリーザー、大型多連式ミキサー、アイスクリームストッカーを組み合わせ、大量生産できるようにしたのである。しかしながら、大きなスペースを消費するので、それらの作業を1台の機械でできるシェイクマシンを開発したのである。

また、従来フレンチフライの製造は生のじゃがいもの皮剥き、カット、ブランチング、等の作業をしていたが、冷凍のフレンチフライを採用しそのスペースを追加のフライヤーの設置場所としたのである。

さて、グリドルを1台、フライヤーを2台追加すると、作業導線が交錯する問題がでてきた。特に、追加のフライヤーで製造したフィッシュサンドイッチやターンオーバーをウオーミングビンに持っていく時に、グリドルの作業をしている人に手渡してもらう必要がでてきた。また、ミートなどの食材をグリドルエリアに運び込むときに、作業中のグリドルマンと交錯するという問題がでてきた。当初、少人数で作業をすることを考えていたので、通路幅を600~700mmしかとらないで作業効率をあげていた。しかし、その狭さが、メニューの増加とグリドルエリアで作業する人間の増加により、大きな問題点へとなってきたのである。

さらに大きな変化が起きてきた。ハンバーガーショップが出来た当時は、持ち帰りのみであり、客席はなかった。しかしお客様の要求により客席の増設をするようになり、平均で100席以上の客席を持つようになった。さらに、西海岸のハンバーガーショップが始めた、ドライブスルーの人気が出て、ドライブスルーブースを追加する必要がでてきた。当初はオーダーをとるマイクロフオンを車路に置き、オーダーをとり、品物の受け渡しをする、ドライブスルーブースをフレンチフライステーションの横に1つ設置するだけで良かった。

しかし、ドライブスルーの人気がでてきて売上の50%以上をドライブスルーでさばくようになると、一つの車路にもう一つのブースを作り、現金の授受を先にするようにしなければならなくなった。従来のシングルブースでは1時間に100台くらいの車をさばけるだけであったが、現金授受のブースを追加することにより、200台くらいの車をさばけるようになったのである。しかしながら図面を見てもらえばわかるように、キャッシャーブースの位置が厨房からアクセスし難く、特に現金を扱うところがマネージャーの目が届かないということが大きな問題となってきた。

メニューの拡大による作業導線の交錯、作業スペースの不足、ドライブスルーブースの設置などの問題にM社が悩んでいる間に、後発のハンバーガーチェーンであるB社はドライブスルーに適した画期的な厨房を開発したのである

(次号に続く)

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