今、ユーザーが求めるファーストフードの厨房設計 シリーズ第1回 「厨房機器への馴れ初め」(日本厨房工業会 月刊厨房)

筆者が厨房機器に親しんでいった経過
大阪万博が開かれた70年代が日本でのファーストフードの夜明けであった。ケンタッキーフライドチキン、ダンキンドーナツ、ミスタードーナツ、マクドナルド等が続々と日本に上陸した。ファーストフードと同時にアメリカ製の機械が日本に導入された。 ダンキンドーナツが1号店を銀座に開いた時、大変売れて、ドーナツのフライヤーの温度の回復が間に合わなくなった。

当時は売上が高すぎるのが原因だと思っていたが、実は日本の当時の都市ガスのカロリー、圧力が低い為、天然ガスを使用しているアメリカの仕様のままでは、売上の高いピーク時に必要な熱量が出なかったのであった。

ハンバガーチェーンは売上が高い為に問題はもっとシビアーであった。ピーク時にはフレンチフライを揚げるフライヤーに指を入れられるくらいに温度が下がってしまい、グリドルからは、湯気がほわーっと昇りミートパティを焼くというより蒸すというような状態であった。日本は冷凍のパティで最初からスタートしたにもかかわらず、グリドルをフレッシュミート用の温度リカバリーの遅いタイプを導入していたのである。

問題が更に表面化するのは通常の2.5倍の大型のミートパティを導入する事になってからであった。フレッシュミート用の機器はサーモスタットが温度が下がるのを感知するとガスバルブを徐々に開けていき負荷が最大になるとバルブの開度を大きくし供給ガス量を増やし、温度が戻っていくとガスバルブを徐々に閉じていき、オーバーシュートしないようにしてあり、温度の安定性は大変良いものであった。しかし冷凍の熱負荷の高いミートを焼くには温度の回復が遅過ぎた。さらに、温度センサーがグリドルの鉄板の下部に接触して取り付けられており、温度の感知も悪かった。

そこで、冷凍用のグリドルを導入することにした。新型のグリドルは、サーモスタットセンサーをグリドルの鉄板内部に埋め込み応答性を早くしさらに、電気式のサーモスタットにし温度の低下を関知すると、ガスバルブを即座に開くタイプであり温度の回復の早い物であった。しかしながらこのグリドルを店舗に導入しても、ピーク時にはまだ焼けないというクレームが店舗から寄せられた。

当時の東京ガスにいっても、業務用厨房に対する理解や研究はまったくなされておらず、ああーこんな資料がありますよと持ってこられたのが溶鉱炉の資料だったりする有り様であった。また、機械の技術陣も店舗建設で忙しく運営担当の筆者が改善せざるを得なくなった。そこで試行錯誤で実際に機械を改良する事からスタートしていった。

グリドルのバーナーに穴を開け直し燃焼の実験を徹夜で何日も実施した。またアメリカの機械のマニュアルを熟読し、各パーツの作動を検証していった。当時機械はほとんど国産化しており、外見はアメリカ製と同じであったが中身は全く違うのであった。当時の厨房機器メーカーはガスプレッシャーレギュレーターの役割を理解せず、グリドル、フライヤーに取り付けていなかったのが大きな原因であった。機械を設置しテストランするのは夜間であったり、ガスの消費量が少ない時であった為、高いガス圧で、ガスのオリフィスのノズルの径を設定する為、いざ店舗がオープンし昼のピークのガスを最大に使用するようになると、多くの機器がガスを使用するのでガスの圧力が落ち、火力が弱くなり調理ができなくなるのであった。そこでやっとプレッシャーレギュレーターを設置させる事が出来、問題は解決されるはずであった。

今度は作業上の生産性の問題が出てきた。当時のグリドルのサイズは幅が1m50cmであった。これは1種類の肉を焼くだけの温度の回復の遅いグリドルでは問題がなかったが、2種類のサイズの肉を焼くには、グリドルの温度を変更する必要があり効率的には2台のグリドルが必要になってきた。

また従来は二人の人間が一台のグリドルで作業をしていたが作業導線がぶつかり効率が悪く、一人で作業するには作業導線が長すぎるという問題がある。人間の作業範囲は直径90cmが歩かないで出来る作業範囲であり、グリドルの幅を90cmにした。

次に問題になってきたのはグリドルの周囲のエアーフロー、バーナーの設計による燃焼効率とCO/CO2、ピーク時のガス圧の低下、グリドル表面の温度のばらつき、機械設置工事の問題、店舗での機械の調整メンテナンスの標準化等であった。 まず問題点を明確にする為の、店舗での温度チェックが必要であった。

当時の温度計はバイメタル式の精度の低い物でグリドルの上に3つぐらい温度計を並べその平均を見るような原始的な物であった。アメリカのマニュアルはF表示であり、日本では計量法の問題で両方を表示する物はなく作成せざるをえなかった。当時サーミスターセンサーを使ったアナログの精度の高い物があったがサーミスターセンサーを使う為応答速度が大変遅く、温度チェックに時間がかかり、センサー自身の感熱部のサイズが大きくそれがグリドルの表面温度を下げてしまい不正確でもあった。

グリドルの温度は大変デリケートであり、ドアーが開き風が吹き込んでしまっただけで温度は10℃下がるほどである。また精度の高い温度計は値段も大変高く店舗に導入する事は出来なかった。 当時、アメリカのエンジニアー部門の副社長が日本でコンベアータイプの自動化グリドルを開発しようとして日本に開発の援助依頼があったが、日本のエンジニアーはその機械を見てこんな複雑な機械の開発を手伝わされたら大変という事でみんな逃げ出してしまい、何もわからない筆者が手伝わされる羽目になってしまった。

コンベアーグリドルということで温度制御が複雑であり、サーミスターセンサーのアナログ温度計では応答が遅く、温度計測に1時間も時間がかかってしまい温度データーを取るだけで一苦労であった。当時ある大手の温度計測メーカーY社から初めてサーモカップルセンサーを使用したディジタル表示の温度計が発売された。値段が高かったので当時の会社でも1台しかなく引くてあまたの人気機種であった。丁度アナログ式サーミスターセンサー温度計のメーカーS社がコンベアーグリドルの温度コントロールを作っており、その社長と一緒に働く機会があった。そこでアナログのサーミスター温度計と、サーモカップルのディジタル温度計を比較して見せたところ、よしわかったそんなに文句いうんだったら作ってやろうじゃないかというような事でS社と開発がスタートしたのであった。

メーカーに日参してはセンサーの構造や、メーターの構造の講義を受けつつ論議を重ねながら共に設計をしていったのである。当時他にも優秀なメーカーはあり検討を重ねたが、最終的にS社に決めたのは、Y社やR社は大変優秀な機器を作るがそれを検品する体制が整っていなかったからである。S社は計測器を作る経験は少ないがセンサーの専業メーカーであり、センサーの精度をチェックする恒温槽を数十台持っており各温度の精度をチェッック出来、温度精度±2℃の温度計を完成する事が出来た。

当初の100台は筆者達で全品各温度帯での検品を実施した。 この温度計の完成により店舗の品質管理基準は大幅に高まり、また機器に対する問題点も明確になったのである。特に温度のばらつき、温度の快復速度、温度の精度などが明確になってきた。特にグリドルの温度分布の問題が明確になり、バーナーの形状、本数、空気の流れ、応答の早いサーモスタットの採用など、試行錯誤で改善を進める事が出来た。 しかし機械だけ改善しても機械の能力はフルに発揮は出来なかった。店舗のマネージャー達に対し、オペレーションマニュアル、機器マニュアル、店舗のメインテナンス制度の導入等のトレーニング方法を開発し、トレーニングコースに取り入れ、トレーニングも実施ししなければならなかった。

1店舗のグリドルの台数の増加により、グリドル清掃作業の改善も必要になってきた。従来グリドルは夜鉄板を熱いうちにクレンザーを撒き、金だわしで汗びっしょりかきながら清掃するのであった。新人のアルバイトに作業をさせると次の日には止めてしまうような重作業なのであった。また、金属性の金だわしの破片がグリドルに付着しそれがハンバーガーに混入するといる事故が発生した。その為に金だわしを使用しなくても良い、高温タイプのグリドルクリーナーの開発が必要になった。実験には実際の店舗でグリドルを清掃するしかなく、毎晩閉店時間の異なる店舗3店を歩き洗剤の成分を試行錯誤で改善しながら作り上げていった。

ミートパティの焼けを良くする為にはグリドルの改良だけでは無理であった。ミート自体が柔らかく火が通り易くなくてはならなかったのである。その為には新型のミートの成形器の導入が必要であった。また新型の成形器をいれるだけでは工場におけるミート品質の向上は出来ないので工場にグリドルを設置しその調整方法と、ミートのオペレーションをトレーニングし、ミートの完成品の品質基準を確立した。

更に機械を店舗に導入する際の業者のチェックポイントを明確にしていった。とくに新規厨房機器メーカーの導入にともない、機器設置のトレーニング を実施した。グリドルの表面の温度分布、温度の上昇時間、グリドルのガス圧とインプットkcal、ダクトの風量等きちんと計測するようになった。その為、店舗の各機器の能力は大幅に上がり、店舗による差もなく、1時間あたり楽に50万円の売上を達成する事が出来るようになってきたのである。さらにメニューを絞って運営すると1時間あたり150万円売ることが可能になったのである。30坪くらいの面積で、なんと1カ月楽に1億円の売上を達成することが可能になったのである。

今後の記事の方向
筆者の履歴を見てもらっても判るように、元々理工系の出身ではないので、機械については全くの素人である。上で述べたように、必要に迫られて、経験で厨房設備を覚えてきたのである。ただ現場の実務経験を積んでおり、成功より失敗例の方が多いというのが最大の強みである。 厨房機械業者としてではなく、ユーザーとしてファーストフードの殆どの業種のオペレーションと機器や商品の開発をした経験を基に、各種ファーストフードやセントラルキッチンの機器設備の考え方を数回に分けてジャンル別に分け、わかりやすく説明していくつもりである。

ファーストフードの分類
ファーストフードという言葉で、ハンバーガー、フライドチキン、ピザ、ドーナツ等のチェーンを同一視する傾向があるが、その厨房レイアウト、調理機器、オペレーション、チェーン展開等の経営方法等には大きな差がある。あえて分類すると3つに分かれる。

ベーカリー部門から発生したチェーン
ミスタードーナツ、ダンキンドーナツ等のドーナツチェーン、ヴィド・フランス等のベーカリーチェーンがある。 ドーナツの種類は大きく分けると、イーストドーナツとケーキドーナツの2種類である。ケーキドーナツはベーキングパウダーで膨らませてい為、アルバイトでも調理が出来るが、イーストドーナツはパンと同様に発酵をしなければならない。その為ドーナツ製造の職人を養成する必要がある。従来発酵技術はかなりの経験が必要であり、ベーカリーはチェーン展開のし難いものであった。そこで、まず、プリミックスの採用で粉の配合を作り、スペックを統一した。次に発酵技術をマニュアル化し、ドーナツ大学という体系化したトレーニグコースを作り、全くの素人を1カ月間で一人前のドーナツ職人に仕立てる事に成功し、チェーン展開が可能になったのである。ただ、深夜にドーナツを作る作業が大変な為直営店では人の確保ができず、フランチャイズ展開が中心になっている。その為、投下資本を極力抑える為、フライヤー、プルーファー、ミキサー、フィリングマシン等シンプルであり、冷凍庫等は必要としない。1日の最高可能売上高は50~80万円位である。

レストランから発生したチェーン
レストランで売っていた人気商品のみを専門に売る、フライドチキンやピザ等のチェーンである。 ケンタッキー州カービンという町にKFCの1号店が博物館になっている。ここで創始者のカーネル・サンダースはモーテルを営業しており、それに伴い食堂を営業していたのである。そこからフライドチキンが人気が出てフライドチキンのチェーンを開始したのだ。博物館を見るとその厨房は普通のレストランの厨房である事がわかる。当初はレンジの上で一般的な圧力釜で調理していたが、そのうち特殊な専門の圧力釜を開発しフライドチキンに特化していったのである。KFCの店を見てみると判るが店長が長靴を履いている場合があり、ドライキッチンとは言い難いことからも判るように、ハンバーガーのチェーンとはジャンルが異なるのである。 フライドチキンの店舗の最高可能売上高は1時間で30万円くらいである。

工場の流れ作業の発想から生まれたチェ ーン
ハンバーガーはレストランチェーンとしては歴史が最も浅いのである。最後発のチェーンとして、最初からチェーン展開を考え、厨房などのレイアウトを行っている。マクドナルドの創業者である、レイ・クロック氏の伝記によると最初の店を作る前に、テニスコートに実際のレイアウトをして、作業分析をしたとの事である。シカゴにある第一号店も博物館になっており、見る事が出来るが、その35年以上前のレイアウトと現在のレイアウトが余り変わっていない事に驚くのである。出発の時点から人間工学的に分析し、車の製造ラインの流れ作業の考え方を取り入れているのである。 また、メニューや、原材料のスペック、機械のスペック、オペレーション、トレーニングなど、当初よりチェーン展開を考え組み立てられているのである。 ピークに売上を取れるように設計している為、時間あたり普通で50~75万円の売上が可能なのである。

同じファーストフードと言っても上記のように大きく異なるのであり、厨房設備も当然全く考え方が違うのである。次回より、ジャンル別の厨房設備の考え方と、その特徴を説明していく。

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