0910「海外情報 外食事情Overseas」イタリアプーリア地方の食文化 第4回目(日本厨房工業会 月刊厨房2009年10月号)

「美味しいプーリアツアー 2009」報告 4
5月6日(水) 5日目  ワイナリー、パスタ工房、とんがり屋根の町、市長会見、肉料理

毎週水曜日、宿泊しているマルティナ・フランカでは大規模な朝市(メルカート)が開かれる。ホテル近くにある広場では、毎朝小規模な野菜の朝市が開かれているが、水曜日になるとその規模は、ホテル前から何街区にも広がる大規模なものになる。
http://www.comune.martina-franca.ta.it/
http://www.martinafrancatour.it/
その朝市を眺めながら9時45分に出発、隣町のロコロトンドに向かう。最初の見学先は、白ワイン、特にスプマンテはお勧めというワイナリーで、ロコロトンドの鉄道駅近くにある。ワイナリーには10時20分に到着。
http://www.comune.locorotondo.ba.it/flex/cm/pages/ServeBLOB.php/L/IT/IDPagina/1

周辺の生産者の協同組合で「カンティナ・デル・ロコロトンド(ロコロトンド醸造所)」Cantina del Locorotondo
http://www.locorotondodoc.com/eng/eng.htm
というワイナリー。

もちろんここも生産の時期ではないので、醸造所内部は貯蔵庫を除き、稼働していない。子供のころから「私のセカンドハウス」と親しんでいるジョバンニさんの案内と解説で、醸造施設を見て回る。地下にある貯蔵タンクをめぐり、階段を上って上から貯蔵タンク全体を眺めた。工場の入口には人の背ほどある大きなステンレス製の容器が4つほど並んでいる。地元の人たちがガロン瓶を(4Lほどのサイズ)下げて、その容器から注いでいる。値段も1Lが1ユーロほどとミネラルウオーターと同じだ。うらやましくなる。

そして試飲。白ワイン、微発泡の白ワイン、ロゼ、そしてスプマンテ(発泡性ワイン)。やはり気前よく次から次へと開けられるボトルを前に、朝っぱらからテンションが上がる。5月4日のワイナリーに続き今回も大橋さんからは「1種類をグラス一杯飲むと、試飲しきれませんよ。日本酒の利き酒のように吐き出すくらいの気持ちでしてください」といわれるが、ここのワインは白ワインで早く飲むタイプで、軽くていくらでも飲める。同行の方で普段ワインを飲まない方が(飲みすぎると頭が痛くなる)いくらでも飲めるとがぶがぶ飲んでいた。スプマンテも美味しかったので、グラッパを含めて思わず5本ほど買ってしまった。
気前よくふるまわれるワインの効果は絶大で、試飲した人は皆両手にワインを下げてバスに乗り込んだ。

11時10分にワイナリーを出発し、バスで10分ほどの今日のメインであるアルベロベッロを目指す。アルベロベッロは、トゥルーリが旧市街地に1400戸ほど密集した地域で、世界遺産に指定されている地域だ。
http://en.wikipedia.org/wiki/Alberobello
http://www.dagashi.org/citta/alberobello.html
http://images.google.co.jp/images?sourceid=navclient&hl=ja&rlz=1T4GGLL_jaJP315JP315&q=Alberobello&um=1&ie=UTF-8&ei=qNguSrnXFpbe7AOQqM29CQ&sa=X&oi=image_result_group&resnum=4&ct=title

その地域に入る前に、アルベルベッロの新市街にある手作りパスタ工房の見学です。11時20分にパスタ工房「ラ・トゥルレッセ」に到着。
La Trullesa
http://www.leviedellartigiano.it/pagina.asp?p=LaTrullesa
http://www.pastificiodeitrulli.com/
この工房を切り盛りするのは若き女性経営者で、父親の後を継いで伝統的な手作り製法を保持しつつ、近代的な機械設備も一部導入して業容の拡大に挑んでいる。衛生管理上、不織布の白衣と靴カバーを付けて工場内に入る。機械生産の工程と、手作りの工程を見学。この地域特有の耳たぶ型のオレキエッテリは熟練の女性がスピーディーに作っている。その技に思わず見とれてしまう。
機械製造では、さまざまな形のパスタがつくられている。形の違いに何か意味があるのかという質問が出たが、答えは「特にない。イタリア人の創造性の表れでしょう。ただ、その地方特有のソースが絡まりやすいようにということはあるかもしれませんが」ということだった。形を見て楽しむということだろう。どのパスタも最終的に乾燥される。水分量が2%以下と定められているそうだ。工場横には直営の売店もあり、ここにしかないというパスタもあり、お土産に買い求めた。

12時20分に工房を出て旧市街地に向かう。バスは旧市街の手前までで、そこから歩く。すぐにトゥルーリが並ぶ坂道に出る。

トゥルーリは地元でとれる石灰岩を切り出して薄くして積み重ねて作ったトンガリ屋根の形状の家だ。石灰岩と漆喰を使って重ねるので、真っ白な幻想的な、童話に出てくるような雰囲気だ。一つの家にはいくつものトンガリ屋根があり、トンガリ屋根の下には一つの部屋しかない。
住居だけではなく、作業小屋や道具置き場としても使われている。このトゥルーリはプーリア州の田園地帯に点在するような形で見られるが、市街地にこのように密集しているのは珍しく、このアルベルベッロにしかない光景だ。これがユネスコの世界遺産に認定された理由だ。
緩やかな丘の傾斜地のモンティ地区(約1000戸)と平野部のアイア・ピッコラ地区(400戸)の二つの地域に分かれていて、われわれが入ったのはモンティ地区の丘の上だ。モンティ地区は多くが土産物屋やレストランなどになっていて、そこに住む人は少なくなっている。

ジョバンニさん、大橋さんご夫妻の知人、マリアさんの店を居住部分も含めて見せてもらった。屋根一つが一つの部屋という造りで、開口部が少ないために高い屋根部分も含めて内部は白く塗られている。屋上は洗濯物を干せるようになっており、屋上から町全体を見渡すと素晴らしい光景が広がっていた。

坂道をおり、昼食の店に向う。「トゥルーロ・ドーロ(黄金のトゥルーロ)」というミシュランガイドに紹介されている店だ。伝統的なトゥルーロの建築物を生かしたレストランだ。外観は小さいが天井高があるので狭さを感じさせない。
Ristorante Trullo D’Oro
http://www.trullodoro.it
http://www.italia.gr.jp/ristorante/puglia/alberobello.html
http://eri-isshiki.at.webry.info/200807/article_3.html
http://eri-isshiki.at.webry.info/200807/article_4.html
http://eri-isshiki.at.webry.info/200807/article_5.html
http://eri-isshiki.at.webry.info/200807/article_6.html

14時近くになったが、この店はシェスタに入らず営業していた。肉料理がおいしかった。プーリア地方の料理はシンプルで美味しいのだが、お店により塩味が異なるため、食べる方により好き嫌いが分かれる。このお店は塩味が薄く私にはぴったりだった。
前菜の野菜類はパプリカのオリーブオイル炒め、焼スライスズッキーニ、マッシュルームのオイル和え、ビーツ、素揚げ半熟玉子とトマトのバジル入りオイル和え等。
ピアットは、菜の花系野菜入りオレキエッテリ、ロングパスタのトマトソース仕立ての2品。今回のツアーで初めてスパゲティが出てきた。
前菜も美味しかったのだが、一番気に入ったのは肉の串焼きだ。味付けしたひき肉を薄切りの肉で巻いて串刺しにして焼いたものだ。味付けにはチーズを使って少しこってりした味だが、まるで焼き鳥のように美味しいのだ。ワインとぴったり合う。その後の軟らかく煮込んだ蛸の煮物はまるで日本の煮物のようだ。次は牛胃袋(トリップ)のトマトソース煮。案外あっさりしている。
そして、たっぷりのパスタ、お腹がいっぱいになったところで、氷できりっと冷やしたお野菜がでる。瓜とトマトだが、この瓜が脂ぎった口をさっぱりさせてくれる。デザートはフルーツと甘いケーキ。

食後に腹ごなしで坂のある街に点在しているトゥルーリを見学。表通りを一歩入ると行き止まりの道が多い迷路のようだった。ちなみに、アルベロベッロは「美しい木」という意味だそうだ。坂道で疲れたら、ちょうどカフェがある。そのカフェには広い裏庭がある。そのテーブルに座ってカフェをしばし楽しむ。

17時にアルベロベッロを出発し、チステルニーノに17時40分に到着。
http://it.wikipedia.org/wiki/Valle_d’Itria
http://www.comune.cisternino.brindisi.it/comune/
http://en.comuni-italiani.it/074/005/

バスを降りてから、イトリアの谷の眺望が素晴らしい市街地のはずれの公園でひと休み。ここで思いも掛けないことを聞かされる。チステルニーノの市長とわれわれ一行の会見があるというのだ。18時に市庁舎に入ると議場に案内される。チステルニーノは1万2~3000人の町だが、市街地には3000人くらいしかいない。議場といっても、そんなに大仰なものではない。待つほどもなく市長ルイジ・M・コンヴェルティーニさんが現れた。私は単なる儀礼的な会見で、握手をして終わりと思ったら、真面目な市長さんは私たちに色々な質問を投げかけてくる。町の現状や課題、スローフードへの取り組み、そして日本との関係等、真剣なディスカッションとなった。一行からも活発な質問、意見が出たためか、お話好きと思われる市長の弁が熱を帯び、なかなか止まらない。
http://www.comune.cisternino.brindisi.it/comune/personale.aspx?tipo=sindaco
http://www.da-puglia.com/archives/000019.html

私たちも真剣に答えているうちにあっという間に1時間半ほどが経過してしまった。予定の時間をかなりオーバーしたため、旧市街地散策を残しているわれわれの時間が少なくなってきた。ジョバンニさんの促しでようやく市長さんが話しを止め、19時30分頃、旧市街地探訪に行くことができた。マルティナ・フランカよりも小さな街で15分くらいで回りきれる、迷路のような町並だ。計画的に作ったのではなく、人々が何百年もかけて生活しながらできた街だ。日本の法政大学の陣内教授がこの街の出来上がった過程を研究をしたことがあるそうだ。

http://www.asahi-net.or.jp/‾RB5H-IKD/puglia/cisternino.htm
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%99%A3%E5%86%85%E7%A7%80%E4%BF%A1

夕ご飯は相変わらず20時過ぎ。近くの肉屋さんがやっているレストラン
Braceria Macelleria di Antonio Soleti だ。
道路から長細いエントランスをバスが入っていく。今回のツアーは大型のバスを利用したのだが、イタリアの道は日本と同じく狭く、くねくねと曲がっているが、その難しい道を苦もなく運転する技術には感心させられる。
店舗は小高い丘に建っている一軒家だ。夏時間のため日の入りが19時40分前後で、日が没してからは急速に暗くなっては来るが、20時前後でも十分明るいのだ。
店の前にはパティオがあり、温かい気候になったら表で食べるそうだ。お肉屋さんの経営するレストランということで、入口右側に肉屋のショーケースがあり、その奥に肉を焼きあげるブロイラーがある。
ブロイラーは薪を使うが、2つのセクションに分かれている。そのうちの一つはステンレス製で中が2つに分かれている。その1つは薪の炎で直接あぶり焼きをするタイプ。もう1つは高さが調節できるタイプで、横の直接あぶり焼きをする場所で表面に焦げ目をつけてから、火から離してじっくり火を入れる。
そして、横のレンガ造りの窯は、赤々と燃える薪の周りに串刺しにした肉を立てかけてじっくりと焼き上げるタイプ。それぞれの肉によって焼き加減を調整しているのだろう。調理を見ていると時間がたつのを忘れるほど面白い。

肉料理は昼に食べた焼き鳥のような串刺し料理が多い。地元の伝統料理ということで、イスラム社会の影響を受けている土地柄、串焼き肉やソーセージの串焼き、軽くパン粉を付けて焼いたもの、肉で何かを巻いて焼いたものなどが中心だ。畜種も豚、羊(子羊も)、仔牛とバラエティに富んでいる。
まず前菜に、塩漬け豚の薄切り、トマトのオリーブ和え、オリーブオイルとビネガーであっさりと味付けをしたレタスさらだ、次に自家製ソーセージ、フレンチフライ、自家製ピックルス、串焼き肉各種、骨付きバラ肉、そして、とどめは巨大なステーキ。肉攻めでお腹がいっぱいになるが、美味しい赤ワインのお陰で重くはならない。
時間があれば、この肉屋で串刺し肉を調達し、公園などでバーベキューをしたら楽しいだろう。今晩もホテルにたどり着いたのは11時に近くなってしまった。

続く

<参考資料>
今回の視察旅行には、長年商業界飲食店経営、ファッション販売、などで編集長を務め、2009年4月より名古屋文理大学健康生活学部フードビジネス学科教授を務めていられる石川秀憲先生にご同行をいただき、そのレポートを筆者の主宰するメーリングリストとメールマガジンに執筆いただいた。今回の原稿においてはそのレポートを参考にさせていただいている。http://www.nagoya-bunri.ac.jp/cgi-bin/teacher/index.cgi?gakka

著書 経営参考図書 一覧
TOP