0904「海外情報 外食事情Overseas」フランスの学校給食(日本厨房工業会 月刊厨房2009年4月号)

ドイツの病院用セントラルキッチンと老人施設の見学の後、フランスの学校給食の厨房を見学した。中学高校Lyc?e Jean de la Fontaine ジャン・ド・ラ・フォンテーヌ国立高等学校だ。
中学高校Lyc?e Jean de la Fontaine
住所: 1 place Prote Molitor in Paris 16?me
Tel:+33-(0)1-4651-1600
Fax:+33-(0)1-4651-1840
HP日本語:http://www.lycee-la-fontaine.org/

調理食数:1000食/日
調理システム:クックサーブシステム

同校のHPによればジャン・ド・ラ・フォンテーヌ国立高等学校は、1935年から1938年にかけて建設された歴史的な建物だ。建設地は、むかし、パリの城壁の一か所だった。入り口の大きい扉は錬鉄でできており、校舎はバスケットボールなどの運動場として使われる広い中庭を囲んで四辺形となっている。そのため、中庭と建物外部から光が差し込む明るい校舎となっている。外部から見ると大きな四角形の建物で、そのバランスは大変優れているシンプルで装飾的なスタイルで、建設年代を代表している。建築家のエロー(HERAUD)氏がデザインしたものだ。
第2次世界大戦中の1944年8月、アメリカ軍営病院となり、戦後の1945年に再び高等学校に戻った。教育面では、語学教育に力を入れているのが特徴で1990年からは日本語教育を開始した。その縁で日本からは天皇陛下が訪問され、その記念として日本のお雛様の人形が飾られている。選任の日本語講師のほかに、パリ駐在日本人の奥様方たちが生け花などを教えている。その親日的な同校の調理場を見学させてもらうことになったのだ。

キッチンプランナーであるジレ・カステル(Gilles Caste)氏が随行し、解説していただいた。
1日の調理食数は1000食。キッチンの改修は既存の調理場を使いながら、2003年から開始し2007年に完成と、4年間を費やしている。改修前はガスレンジが中央にある30年以上前のシステムだった。また、この建物自体は市から歴史的建造物に指定されており、改修する場合には市からの許可が必要で、その手続きが難しかしく、時間が必要であった。
厨房で働く従業員はパリ市の管轄下にあり、調理人はパリ市の公務員の身分で日本の学校給食と同様だ。この点は日本の学校給食と同様でコスト管理の点でどのような工夫を凝らしているか学ぶ必要があるかもしれない。
厨房は地下にあり、調理後の冷たい料理は4℃~10℃、温かい料理は63℃以上で保冷、保温しなければなならない。(ちなみに温蔵庫の温度はフランスの以前の基準では65℃以上であったが、ユーロ規格になり変更になった。)
厨房の熱源は市の熱源供給会社が供給する蒸気は使用せず、電気とガスを熱源としている。完全電化にしない理由は湯を大量に使うため熱効率の良いガスを併用するようにしているためだ。フランスというと原子力発電の比率が高く、電化厨房が多いような印象があったが、コンサルタントのジレ・カステルはその場所で可能なエネルギーと効率を考えて最適なエネルギー源を使うと説明してくれたのは意外であった。
地下の厨房で苦労したのは太陽光を地下まで届かせることだった。現在の新築の調理施設では目の高さに太陽光が当たるようにしなければならないが、旧型の建物なので苦労した。そこで、元々ある窓から差し込む太陽光が地下の厨房に届くように、写真のように吹き抜けを用意したのだ。歴史的建造物なので外部の壁などの変更はできないので、元々建物にある窓を活用し吹き抜けを通して地下に太陽光が入り込むようにした。吹き抜けは厨房熱調理室の中央に設け、調理エリアの排気フードを半透明なガラス張りにして平均的に太陽光が差し込むという工夫を凝らしている。厨房と同じ地下にある食堂も太陽光が差し込むように既存の窓を活用したり、天窓を設けて太陽光が燦々と入るようにして、まるで一階にいるような印象を演出して開放的な雰囲気となるような工夫を凝らしている。
厨房エリアの照度は倉庫200ルックス、メインの調理室300ルックス、客席500ルックスとしている。厨房で発生する音量は62デシベルに抑えて、作業環境をよくする努力もしている。
日本ではこの基準が明確でないので大変参考になる。特に照度だけでなく、音量もきちんと管理するのは素晴らしいことだと感心した。
調理機器はセンターの片側にオートリフト式フライヤーが2台、ブレージング・パンが3台、反対側にスチームケトル2台、フレンチのイーブンヒートトップレンジとガスコンロのコンビ1台、ロールインタイプのスチームコンベクションオーブン2台(コンボサーモ、とFrimaの2種類を使用)している、シンプルなレイアウトだ。
厨房は通常は無味乾燥な設備が多いが、休憩室やトイレなどの表示の絵がお洒落でさすがフランスだと感心させられた。

見学後同校にて昼食をとることにした。ちょうど学生も楽しそうに語らいながら食事をしていた。価格は中学生と同じ内容の食事は一人5ユーロ。料金支払いはプリペイドカードだが、入り口にトレーのディスペンサーがあり、そこにカードを挿入すると料金が引かれ、代わりにトレーが出てくる。その後、カフェテリアラインで料理を選んでいく。まず、パンとフォーク、ナイフを取り、次に、デザート(ヨーグルト、ブドウ、みかん、グレープフルーツ)、サラダ(ツナとトマトのサラダ)、チーズ等を選ぶ。本日のメイン料理は温かいベーコン、ソーセージ、ハム、煮豆の付け合せだった。学生と同じフロアーに先生用のテーブルが衝立を隔てて設置されている。私たちは先生用のテーブルで食事をしたのだが、さすがフランス、ワインの大きなボトルが置かれていた。塩味がややきついのだが、ボリュームがあり、なかなかおいしい料理だった。

食後、パワーポイントによる説明を同学校内314室にて受けた。教室は天井高が4m以上もあり開放感がある。
キッチンプランナーであるジレ・シェバリエ(Gilles Chevalier)氏とキッチンプランナーDominique VAN MOERKERCKE氏にパリ市Paris 20区に施工予定のセントラルキッチン(学校給食センター)を解説していただいた。
シェバリエ氏の過去のプロジェクトは1000箇所ほどあり、そのうちの800箇所がレストラン関連だ。フランスの学校は16歳までが義務教育であり、学校の授業時間は9時から16時45分までで、昼食は学校が提供しなければならない。従来は調理方法は各学校に調理場を設置するクックサーブが一般的だった。
今回、氏が担当しているのはこのパリ20区の給食センターの設計だ。入札開始は2005年9月で、審査の結果2005年12月に決定した。着工は2007年7月であったが、遅れており、2009年7月になりそうだという。給食センター全体の設備投資額は税別で1000万ユーロであり、建物施設が870万ユーロであり、200万ユーロが厨房の調理機器となっている。
建物は3階建てで地下にはトラックが停まれる駐車場を備えている。1階は調理などの作業スペースで、2階は従業員用のロッカールームや食堂。年間の稼働日数は140日で年間に1950000食をクックチルの手法で製造する。稼働当初の1日の食数は14000食で20区の学校の66箇所に配送する。
このセントラルキッチンを設計する際に注意したことは、住民に対する配慮で環境問題を中心に慎重に設計した。その内容は、建物外観、色彩、エネルギー消費量、ごみ問題、清掃、水質環境、働く人の労働環境、音や匂い、見た目、等だ。
労働環境の面で感心したのは太陽光の取り入れだ。このような大型の建物になると窓側しか太陽光が入らないのだが、建物中心に吹き抜けを設けて太陽光が窓ガラス以外からも射すようになっている。ドイツでも、フランスでも労働環境面では温度環境だけではなく、太陽光にまで配慮しているのが大変印象的だった。日本の厨房は米国を参考に設計しているので、基本的に太陽光が差し込む窓は設置しないのが通常だが、ドイツでもフランスでも太陽光のあたる開放的な厨房を見学してみて、初めて太陽光の重要性に気がつかされた。今後の日本の厨房設計もこのような人間的な配慮が求められるのではないだろうか。
日本でも学校給食で働く従業員は公務員であり、その高い人件費が問題となり、学校ごとの調理施設から、地区の学校をまとめたセントラルキッチンに移行して人件費を削減したり、セントラルキッチンの運営そのものを外部委託する例が増えている。しかし、公務員の人件費を削減するのは容易でなく各地域で大変苦労しているのが現状だ。フランスも日本と同様に調理人は公務員であり、セントラルキッチン化による人件費の削減に対する問題点をどのように解決しているのか興味を持った。今回は残念ながらその質問をする機会がなかったが、次回にはその点を勉強する必要があるだろうと実感させられた。

フランスの学校給食を堪能した後は一転、フランス料理のトレンドを勉強することにした。本来は日本でも有名になったミシュランの3星レストランを訪問するべきだろうが、現地の方が料理のトレンドを勉強するにはミシュランの1星を取ったばかりの新店を訪問した方が勉強になるとアドバイスをいただいた。そこで、新進気鋭のレストランを訪問することにした。
「Ze Kitchen Gallaie」

Accueil


有名なシェフ、ギ・サヴォワ氏の2番目の店舗だ。2008年3月のミシュランで一つ星を獲得したばかりの人気店だ。ガラス越しに厨房がのぞけ、シェフたちがヌーベルフレンチの料理を作る姿が見える。
店舗もガラス張りのお洒落なお店で、ニューヨークのソホーにあるようなお店で、フランス3星レストランのような重厚さはない。店内はこじんまりとしており、アクセントとして壁に幾つかの絵が掲げられている。客席数は8人の円卓が3テーブル、2人用が9テーブルの、50席弱だ。厨房内には6名のシェフが働いている。シェフ全員が男性でその多くの人が丸坊主できびきびとした印象を与えるようにしていた。
通常のフレンチの重装備厨房と異なりあっさりとした装備だ。通常フレンチの厨房にはソースを作るイーブンヒートトップレンジがでんと構えているのだが、その備えはなく、小型の電磁調理器を使っている。調理場の大きな特徴は客席から窓越しに見えるコールドテーブルだ。前菜などを丁寧に盛り付けているのが印象的だ。
料理とワインはシェフにお任せすることにした。

ワインはChateau Mourgues Du Gres 2007年の Les Galets Rouges。

料理
前菜その1 蟹肉と白身のお刺身に、赤カブの薄切りとソースをかけ
前菜その2 アボガドと香菜ベースのソースの上に豆の煮物、その上に生ハム
を乗せて、泡立てたソースを注いだ。この演出が面白い。
前菜その3 同じく細切りにした野菜にソースをかけたもの。
魚料理   白身の魚のソテーキノコ添え(上に昆布のような海藻をかけている)
肉料理   鴨のロースト、カシスソース、野菜添え
デザート  アイスクリーム

料理のポーションは少なく、あっさりとした味付けだ。脂っこくなく、味付けは中華料理やベトナム料理で使う香菜を多用しており、中華料理、ベトナム料理、タイ料理、日本料理のフュージョン料理といった趣だ。日本の熊谷喜八さんのキハチ・フュージョン料理と似ている。特に色とりどりの野菜を使っているのが印象的だった。厨房見学の際に日本人のシェフがいたので聞いたら、日本人経営の八百屋から珍しい野菜を仕入れていると言っていた。
フランスでも日本料理屋が多く日本料理が大人気だが、フレンチで使う野菜まで、日本人が供給しているとは驚かされた。
保守的な家庭料理の学校給食、新進気鋭のミシュラン1星のお店と対照的な料理を食べてみて感じたのは、普段食べている家庭食の素晴らしさだった。ドイツもフランスも農業国だということを実感させられる食体験だった。

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