新店長の行なった行革

(商業界 飲食店経営1996年10月号掲載)

体験的店長実務ステップアップ講座第2回目

新店長の行った改革=社員マネージャーの仕事の見直しと雰囲気の改善

アルバイトとの論争の結果、妥協して従来のアルバイトメンバーで再出発を開始する事になった。いくら解雇を撤回したと言ってもトラブルの後であるから、店内の雰囲気にはぎこちない物があり、ぎくしゃくとした毎日で先が思いやられる状態だった。しかし、新店長はすぐに気持ちを切り替え、抜本的な改革を行いだした。
店長への昇進を控えた筆者にとって優秀なマクドナルドの店長の仕事ぶりを間近に見ることが出来るのはラッキーなことだった。どんなに会社や本部のトレーニングシステムが優れていても、オンザ・ジョブ・トレーニングで現実の問題点をどう解決して行くかの具体的なトレーニングを実施しないと、現場のオペレーションに強いマネージャーは育たない。入社したての経験の浅いマネージャー時代にどれだけ優秀な上司に仕えて間近にトレーニングを受けるかという事は、その後の能力を大きく左右する。筆者がマクドナルド時代に4人の店長に仕えたが、そのうちの2人はもの凄く優秀でありラッキーであった。更に、問題点を抱えた店を優秀な店長が改善していくというプロセスを見れると言うことは大変勉強になる超実務的なオンザ・ジョブ・トレーニングだった。

新店長は自らオープニング、デイ、クロージングと全ての作業に入り、各マネージャーとアルバイトの作業の分析を開始した。そして、週に一回のマネージャーミーティングを開き問題点を明確にし、具体的な対策をみんなで考えるという集団合議制の手法を持ち込み改善を行い始めた。

1.マネージャーのチームワークの向上
8名ほどの社員マネージャーがいたが、それぞれの意志疎通が十分でなく、業務分担も明確ではなかったと言うことが判明した。一番の問題点は過去の店長が実際の業務に入ることが少なく、現場の仕事を把握していないので各シフトのマネージャー業務の正しい評価と指導を行っていなかったという事だ。そこで、新店長はシフトに入り、各マネージャーと同じ仕事をしながら、全マネージャーの能力の確認と、指導、正しい仕事の基準の確立を行うことにした。そして、毎週全員のマネージャーを集め、店舗の問題点のリストアップ、改善の方法、改善の結果報告などを行い、全員が同じ情報、問題意識を持つようにした。

また、週に一回のマネージャーミーティングだけでは意志疎通が十分図れないので、マネージャー連絡ノートを使用し、毎日の出来事をきちんと報告するようにした。店長は毎日気がついたことをノートにきめ細かく書いていくので、一緒にスケジュールに入っていなくても、問題点とそれに対する解決策、その途中結果が全員にタイムラグがなく伝わるようになった。勿論人間だから、ノートを読むのを忘れたりするので、重要な連絡事項に関しては、確認サイン欄をもうけて、読んだら必ず日付と名前を記入させるようして、連絡漏れがないように気を配った。

アルバイトとの信頼関係がまだ確立していないから、店長がマネージャーシフトに入り実際の閉店作業をやっていると、アルバイトによってはわざと嫌がらせで無断欠勤したりする。そこで弱みを見せることは出来ないから、店長は自らアルバイトの閉店作業を行うなどの複数の作業を平気でこなしていった。そして、連絡ノートに「昨日はアルバイトがこなかったが自分たちで閉店作業をきちんとやった。頑張れば出来るんだぞ」との檄がマネージャーノートに書いてある。

幾ら人がいなくても作業をいい加減いやってはアルバイトに対する基準の放棄になる。そのために時間を無視してマニュアル通りの閉店作業基準に達するように真剣に清掃作業を行っていた。

場合によっては深夜の12時を過ぎて、店舗のシャッターを閉められる事が多かった。家に帰れず、グリドルの上に段ボールを轢いて朝まで寝ていたりする。火を落としたグリドルに段ボールを轢くと丁度良い温度で冬でも温かくよく眠れた物だった。オープニングで筆者が店に入った時に、店長が急にグリドルからむっくりと起きあがり「おはよう」と元気良く声をかけられ驚かされた事が何回もあったのだった。

店長がそんな具合に先頭に立って頑張る物だから、マネージャーのチームワークは一気に高まり、アルバイトも今度のマネージャーたちは、何か雰囲気が違うなという印象を持ちだしてきた。今までのマネージャーとアルバイトのなれ合いがなくなりつつあったのだ。

2.マネージャーの業務、作業分担を明確にし、管理業務を向上させる。
従来は各マネージャーのシフト中の業務分担が明確でなかった。そのために、マネージャーにより仕事や基準が異なるし、アルバイトに要求することが異なるようになっていた。それがアルバイトを混乱させ、結果的にマネージャーに対する信頼感を失わせる原因となっていたわけだ。マネージャーによってはアルバイトより仕事が正確でなかったり、いい加減であったりするわけだから、信頼を失うだけでなく馬鹿にされるまでになってしまっていたわけだ。

そこで各シフトのマネージャー業務を明確にすることにした。オープニング(開店業務)とデイ(ピーク時)とクローズマネージャー(閉店業務)のシフトを明確にしたわけだ。

以下がその当時の作業分担とタイムスケジュールだ

1日のスケジュール

以上のようにタイムテーブルを作った。更にオープン、デイ、クローズマネージャーの作業内容を明確にして、何時から何時までがフロアーコントロールをして、何時から何時まで書類作成作業を行うか明確にした。

マクドナルドは数値管理を厳しく追求する。それが利益を最大限に上げる秘訣であり、売り上げだけでなく利益もナンバーワンを維持できる最大の理由だ。そのために店舗の客席や厨房を管理するフロアーコントロールの時間以外に、売り上げの誤差、商品ロスの追求や、原材料の発注在庫管理、アルバイトの募集、面接、スケジュール作成、トレーニング、評価、給与計算、損益計算書の作成、日報、週報、月報、の作成など膨大な量の書類管理業務がある。マネージャーの1日の労働時間は9時間であるが、そのうち3時間ほどは書類作成業務につく必要がある。と言うことは各人が計画を立てて書類管理の時間をきちんととらないと、残業と仕事のし忘れが発生する。

先月号で詳しく問題点を述べたが、当店の問題は、現金差、商品ロス、盗難など店舗の管理上の問題が大きかった。現金差が大きかったのだが、問題は誰がどのレジに入っているときに現金誤差を出すのか明確でなかったという事だ。売り上げが上がるとレジスターの小銭などの釣り銭が不足するので、他のレジとの交換を行う。また、忙しいとアルバイトを他のレジから移動したりする。それらの管理記録を明確に行っていないと、誰が金銭誤差を出したか分からない。全マネージャーが金銭をいじっているようだとマネージャーの責任も分からない。

商品ロスもそうだ。マクドナルドでは当時は毎週日曜日に食材の棚卸しを行い、全商品の理論売り上げと実際の商品売り上げを計算して、商品ロスを算出した。これにより従業員による盗難や外部からの盗難を発見することが出来る。

現在だとPOSがあるので、商品売り上げを算出するのは簡単だが、当時はメカニカルレジスターであり、売り上げはでるが商品別の出数は分からなかった。そこで、飲み物であれば飲み物別に容器のデザインを変え、その出数に金額をかけた物を集計して理論売り上げを出す。カップを落として廃棄する場合には記録するか、専用のゴミ箱に入れておき後で勘定する。

ハンバーガーなどは10分間保管した後はきちんと廃棄処分するが、その廃棄処分の数量を記録しておく。カップやハンバーガーの廃棄処分の記録を間違えると当然の事ながらロスの数字が大きくなるし、棚卸しを間違えると数値が全く狂ってくる。数値が狂えば原因追究が出来なくなるわけで、きちんとした数値管理が必要なわけだ。きちんとした数値管理をするためには担当マネージャーをきちんと決め、その管理に必要な時間を割り振りしなければならない。

そこで、マネージャーシフト中の時間の使い方と8月号に書いたように現金日報の書き方の様に、全てのペーパーワークの作成方法を明確にして、どのマネージャーでも一定の品質の作業を行えるようにした。飲食店チェーンでも店舗の調理作業やサービス等の作業をマニュアル化したり、標準化をしているが、管理業務などの裏方作業の標準化やマニュアル化はまだ遅れているようだ。作業のマニュアル化や標準化は店舗の直接の作業だけではなく現金日報や棚卸し、報告書に至るまできめ細かくマニュアル化、標準化することにより作業時間が短縮でき、残業が減少し、生産性が高まるだけでなく正確さが向上し、利益率も向上するのだ。

現在でもこの問題点は変わっていないようだ。現に日本の製造業でも現場作業では米国より生産性が高いが、管理業務のホワイトカラーの分野での生産性が低く、そのため企業としての生産性全体が低く、利益率も低いという状況に陥っている。それは、生産現場での生産性向上のために標準化、マニュアル化、トレーニングが明確であるのに引き替え、管理業務でのマニュアル化、標準化が進んでいないからだ。

同じ事は外食産業にも言え、調理やサービスの標準化、マニュアル化はあるが、管理業務の標準化はなされて居らず、このリストラの際にPOSの開発を遅らせている。その結果管理業務の遅れが目立ち、利益を落とす場合を見受けるようになった。現場だけでなく、管理業務も標準化が必要になっているのだ。

日本企業と米国企業を比較するとオフィスの生産性は米国の半分以下ではないかと思われる。筆者の米国での経験からその違いを見てみよう。日本ではFAXをだすときに下書きを書きそれを部下の女子社員にワープロを打たせ、それをチェックしFAXさせる。1枚のFAXでも大変な手数がかかる。米国では各人がパソコンをもちFAXの文書を自分で打ち、印刷しないでそのままパソコンで送付したり、社内ネットワーク、インターネットメールで送付する。作成した文書はハードディスクに保管するから後で探すのも簡単だ。

各人のデスク上の電話は居ない時には留守番電話のボイスメールになり、メッセージを入れてもらえる。担当者は海外に出張中でも自分の電話に時々かけて、メッセージを聞け、すぐに連絡が出来る。ある大手のファーストフードチェーンではいっさい電話の受付がなく、本人がデスクにいてもボイスメールになる。そうすることにより商品の売り込みなどの不要電話か、自分に必要な電話か確認し自分のペースで連絡できるという大変ドライな電話管理方法を行っている。約束のない面会であれば断ることが出来るが、直接かかってくる電話を断ることは難しくて、大事な仕事を中断されるからだ。社内の連絡は社内メールで送り、自分のコンピューターにメッセージが入れば、ワープロなどの作業中であっても画面上にピンポンとメッセージランプが点灯し、即座に応答できる。このようにオフィスワークの合理化が急速に進んでいる。

もう一つ大きく異なるのが秘書の業務内容だろう。日本の会社の経営陣の秘書を見ると可愛いのが取り柄としかいえないのが多い。米国の秘書はハンズフリーの電話機をつけ、パソコンを操作しながら電話の応対をする。一人の秘書の担当人数は5ー6人だ。それだけの人数のスケジュールは全部頭に入っているか、パソコンの画面から引き出す。伝言メッセージがあればそのまま各人のボイスメールに録音し、本人に連絡する。

中小の企業でも同じで、米国の友人に連絡を取りたいときに外出していると、そのまま携帯電話を呼び出し即座につないでくれたりする。秘書の能力は素晴らく高く、場合によっては会議に代わりに出席し判断業務まで出来る。米国の秘書業は専門職であり、専門学校でのトレーニングをきちんと受けている。当然の事ながら現場でのオンザジョブトレーニングが必要で、秘書のSVが常に仕事の監督とトレーニングを実施している。日本でもホワイトカラーの生産性向上のためには専門職としての秘書教育が必要になるだろう。管理職のホワイトカラーであっても今や、パソコンの操作は当たり前、常時ラップトップパソコンを抱えて出先から連絡を常時取り合う時代だ。実際に日本大手ファーストフードでもスーパーバイザーはラップトップパソコンを持ち、自分の担当店舗と全国の売り上げ状況を比較し、問題があればすぐに迅速な販売促進や、利益対策を打てるように着々と設備投資と教育を開始している。

中小や個人商店であっても上記のような設備を安価で簡単に揃えることが可能になってきている。筆者のような少人数の事務所であっても、パソコンと社内LANの導入、インターネット、パソコン通信、FAX、携帯電話、ポケットベルの組み合わせで上記の大手のような管理業務の簡素化が達成している。留守電話やパソコン通信にメッセージやファクスが入ったときにはポケットベルが呼び出すのですぐに対応できる。

社内では殆ど会話をしないでメールでコミュニケーションする。仕事に熱中しているときに邪魔をしないためで、生産性が大幅に高まる。また、受信したFAXはテープに記録しているので、外出先や直接帰宅してからFAXをリモートで取り出せる。海外旅行していても市内電話料金でインターネットに接続し、連絡事項をメールでやりとりできる。従来は海外で難しかったパソコン通信もインターネット上では簡単にやりとりできるなど、複数の連絡方法があり万全だ。現場での作業の合理化と同時に管理業務の合理化に早い時点から取り組むべきだろう。

3.リフレッシュによりマネージャーの士気を高める
アルバイトが十分にいないし、いてもサボタージュがあるので、場合によっては家に帰れなかったり、残業が発生していた。そのためだんだんマネージャーの疲れがたまっていった。しかも、アルバイトが不足しているから会社基準の隔週2日の(当時)休みを消化することはとうてい出来なかった。週に1日の休日がやっとだった。そこで店長は毎日の残業はしても週1日の休みをきちんと取り疲れを癒して頑張ろうと言う方針を掲げた。

週1日の休みでも工夫して疲れをとることを可能にしようと考えたわけだ。従来隔週2日でも疲れをとれるほど有効な休み方は出来なかったが、週1日でも疲れをとろうという大胆な試みだった。

オープニングマネージャーのシフト(以下Oと省略)は朝7時から夕方4時まで、デイマネージャー(以下Dと省略)は10時半から7時半まで、クロージングマネージャー(以下Cと省略)は3時から12時までが基本シフトだった。

従来はO,D,C,休日、O,D,C,休日,O,D、C、休日,O,O、等のような組み方をした。クロージングの次の日は朝がつらいから休みにして、休み明けはじっくり休んでいるからオープニングとしたわけだ。つまり休みをシフトの変更の為に使おうという考え方だ。

一見合理的なようだが、休日前日のクロージングの後に家に帰ると深夜1時頃、それから風呂に入って一杯飲んで寝ると3時頃、疲れているから昼過ぎまで寝ている。それから起きて家の片づけや友人と会いに行ったりしているともう夜になる。しかし、昼過ぎまで寝ているからなかなか寝付けず、翌朝のオープニングには寝不足のボーとした状態で出かけることになる。

休みと言っても実際にはシフトの変更に消化するわけで本当に体と頭の疲れをとることはできなかった。そこで体はちょっときついが、もっと長く休みをとろうという試みを行った。シフトをC,C,D,D,O,O,休日,C,C,D,D,O,O,休日,C,と言う組み合わせだ。

勿論だんだん出勤時間が早くなるわけだが、残業が発生するともっと間の時間がなくなり疲れがたまる。そこで、週1日ではあるが、毎日の残業を完全にやめ、時間が来たら店長の許可などとらずに勝手に帰ることにした。勿論、作業がしっかり終わってからでないと帰れないが、よけいな仕事を要求しないようにしてきちんと予定通り帰れるようにしたのだ。勿論マネージャーの業務を明確にして、必要な管理業務の時間をきちんと割り振り、時間内に仕事が終わるようにしていたのは言うまでもない。

残業が多い店を見てみると、実際に残業をしなければいけないほど作業が多いというより、店長がいるので帰りにくいと言う、上司への遠慮があるようだ。そこで、その遠慮をなくすように店長は明言し、自分も時間が来るとよほどの事がない限り率先して帰るようにした。そのために週1日でもかえってじっくり休むことが出来、疲れを完全に取り去り、リフレッシュすることが可能になった。勿論、アルバイトがだんだん集まるようになると隔週2日の休日を取れるようになった。それも小刻みな休みではなく、2日を連続でとると言うようにして、店を離れ心身のリフレッシュを可能にするようにした。

改革を行おうと言うときに寝食を忘れ仕事に連日取り組むのは、短時間であったら可能であるが、店舗の経営のように改善に長時間必要な場合には休日をきちんと消化して、疲れをためないようにするという工夫が必要なのだ。疲れがとれて頭がすっきりしていないと良い革新的なアイディアは生まれないし、仕事上のミスも発生しやすい。

筆者がマクドナルドに入って一番驚いたことは、従来の日本の会社のような滅私奉公の、会社優先主義ではないと言うことだった。会社と従業員の両者は同等の立場であるという考え方だ。顧客と会社、従業員の3者を満足させなければいけないと言うポリシーだ。マクドナルドではこれをハッピィービジネスと言っていた。お客様に高いQSCを提供し(単に美味しい食事を提供するだけでなく、QSC全体を提供するのだという考え方)、満足していただき、来店頻度が増加させ、会社の売り上げと利益に貢献する。そしてその高い利益を社員に還元しようという考えかただ。

ハッピービジネスと言っても従業員に甘いという意味ではない。売り上げの増加のためであれば、上司の命令がなくても残業しても頑張なければならないし、利益の追求のためには毎週日曜日に徹夜で棚卸しをして、週単位の利益計算を出すと言う厳しさだ。勿論、適正のない社員はやめざるを得ない状況になる。その仕事の厳しさの反面、自分の仕事が終わったら上司に遠慮はしないでさっさと帰るし、上司と酒を飲みに行ったり、麻雀につき合う必要はないと言う、米国的なドライな雰囲気であった。勿論このような雰囲気を出すのは店長次第であり、店長によっては日本的なウエットな仕事の後の一杯を重視する人もいたが、新店長は米国マクドナルド式のドライな明るい人だった。このように仕事には懸命に取り組むが、仕事を離れたら休みをじっくり取り、リフレッシュし仕事に戻るときには元気いっぱい頑張るんだという姿勢は、沈み込んだ店舗の雰囲気を一気に明るくしたのだった。

お断り
このシリーズで書いてある内容はあくまでも筆者の個人的な経験から書いたものであり、実際の各チェーン店の内容や、マニュアル、システムを正確に述べた物ではありません。また、筆者の個人的な記憶を元に書いておりますので事実とは異なる場合があることをご了承下さい。

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