マックの裏側 第6回 マクドナルド創業メンバーが語る秘話

マクドナルド時代の体験談

7)ジョン朝原の作り上げた軍事組織
 ジョン朝原氏は米国の組織をもとに、日本人に合う組織を1980年後半に、緻
密な頭脳を持つ合志綱恭運営統括本部長と完成させていた。それを見てみよ
う。組織名は現在米国と同じ英語表記に代わっているが。
 
(1)店舗の運営ライン

<1>店舗組織

<<社員>>
 各店舗は社員とアルバイトで構成される。店舗の責任者は店長である。スト
ア・マネージャーとも呼ばれる。店長の下には社員が数名いる。一般的には2
名から最大でも8名の社員で構成される。(最近では経費的な面から一店舗当
たりの社員数を削減する傾向にある)。書類作成の業務のコンピューター(マ
クドナルド独自のソフト),POS(コンピュータ・レジスターで、データー
の分析が容易で、売り上げや、料理構成、労働時間などのデーターを本社のコ
ンピューターに自動送信できる)の導入が行われている。また、店舗の調理は
アルバイトによる調理を可能にするため、調理機器の温度や調理時間の自動化
を行っている。
 店長の他の職位は、副店長などであるが、アシスタント・マネージャー、第
一店長代理(ファースト・アシスタント・マネージャー)、第二店長代理(セ
カンド・アシスタント・マネージャー)などと呼ばれる。

<<アルバイト>>
 クルーと呼ばれる。現場の作業のみ従事だけでなく店長業務まで任せるスイ
ング・マネージャーもいる。

<2>社員マネージャーの業務
 社員マネージャーの業務は3つのトライアングルになっている。社員の最大
の責任は店舗のQSCを最大限に高めることだ。店舗のQSCを最大限に高め
るには人物金を有効に管理する必要がある。その管理方法はPLAN、DO、
SEE(計画、実行、評価)というマネージメント方法だ。

<<QSCの管理>>

<Q>
 Qとはクオリティの頭文字であり、品質管理という。本部で品質基準をさだ
め、本部指定業者が配送センターを通して配送する。店舗における品質の管理
とは本社で定めた料理の基準にあった調理方法で加工することにある。
 まず店舗搬入の食材の温度、量、状態をチェックする。各食材がポーション
・コントロール(一食分毎に定量の状態になっている)されているので、その
重量、サイズ、冷凍冷蔵温度をチェックする。基本的に店舗で味を変更するこ
とは許されていないが、基準の味で納入されているか等の品質を確かめなくて
はならない。
 納入された食材は衛生管理の観点から、短時間で冷蔵冷凍庫に搬入する。

 食材を調理するのはクルーであるから、調理機器の温度と調理時間の管理が
重要である。社員は、店舗の調理機械が正しい状態であるかということを常時
チェックし、メインテナンスする。

<S>
 Sとはサービスの頭文字であり、文字どおり、サービスをいう。往々にして
料理の品質が最優先されるが、客はサービス面から店舗評価を行う例が多くサ
ービスは大変重要である。
 サービスとは、ファスト・フードの場合、料理提供時間が短いこと、つまり
スピードが重視される。次に、笑顔、スマイルが大事だ。サービスというと挨
拶の仕方、おじぎの角度、テーブルサービスの手順などと儀礼的なサービスを
重視してきたが、マクドナルドの顧客が期待するのは儀礼的なことではなく、
頼んだ料理が早く出てきた、担当のクルーがにこにこしている、等の具体的な
サービスが重要。

 提供スピードは、注文後料理の取りそろえは1分間以内が基準。一次加工し
た食材を店舗で最終調理するだけとか、火力の強い専用調理機器、やクラムシ
ェルグリドルなどの自動化機器を使用するようになっている。メニューを絞り
込み、事前に食材を調理、保温保管し提供時間を短縮するようにしている。

<C>
 Cとはクレンリネスの頭文字であり、清潔さと衛生であることをいう。QS
Cと言うので、品質が最も大事でその次がサービス、最後がクレンリネスであ
ると錯覚しやすい。しかし、初めて外食店を選ぶときに試食をしてから選ぶこ
とはできない。外食店でQ(料理の品質)とは次にもう一度くるかどうかを決
めるにすぎない。サービスも店舗に入って注文するまで基準はわからない。最
初に外食店を選ぶには店舗の外観や雰囲気しかない。レストランを選ぶときに
は女性が決定権を持っている。その基準はまずクレンリネスである。初めての
店舗を選ぶには店舗の外観、店内の清潔さで選定する。店舗を選ぶ基準はCS
Qの順番である。

 店長はクレンリネスの維持のため、毎日クレンリネスのチェックをし、清掃
したかどうかをチェックする。クレンリネスの基準は簡単だ。店舗が新装開店
したときと同じ状態であるということなのだ。そのために毎日具体的な清掃作
業をスケジュール化し汚れをためないようにしている。店舗の構造も汚れにく
い様に工夫を凝らしている。天井は簡単に汚れをふき取れるような材質にし、
床も清掃が簡単で水が溜まったりしないように完全にフラットにする。当然の
ことながらドライキッチンが当たり前だ。清掃しやすいように専用の洗剤を用
意し作業効率が上がるようにしている。 
 クレンリネスの範囲は、従業員の身だしなみ、建物外装、店舗周辺、店舗内
装、調理機器など幅広いので常に客の目で確認していく。

<<人物金の管理>>
 経営の基本は簡単だ。QSCがきちんとしていて、提供する料理の価値があ
れば売れるのだ。そのQSCをきちんとするために店長は人物金の管理をする
のだ。

<人の管理>
 人が不足すると素早いサービス、完璧なクレンリネス、おいしい料理を出す
ことはできない。店長にとって人の管理は最も重要な業務であり、十分な数の
クルーを集められるかどうかで、店舗のQSCは大きく左右される。人がいな
ければロボットを使って調理すれば良いではないかと勘違いしやすいが、ロボ
ットというのは、定型的な単純作業を機械に置き換えることにメリットがあ
る。調理作業というのは料理の種類が多く、一日の売り上げの繁忙の差が大き
いので、人間より作業スピードは遅くなる。また、全ての作業をロボット化す
ることは難しいので、人間の作業と共生しなければならないが、ロボットの作
業と共生するのは大変危険であり、十分な作業スペースが必要で、外食店の調
理場とは相いれない場合が多い。最大の問題は投資コストが高すぎることだ。

 人の管理とはアルバイトの募集、面接、採用、オリエンテーション(初日に
行う店舗業務の説明)、トレーニング、評価(仕事により時給を上げてやる気
を出す)、給料支払い、等、正社員を採用する場合と殆ど変わらない業務だ。
 人を採用したらそのトレーニングをするのは社員やベテランのクルーの仕事
だ。店舗にはVTR、トレーニングチェックリスト等のトレーニング教材が揃
っているから、それを使用し短時間にトレーニングする。トレーニング教材の
開発は大変重要で、毎年新しい手法のトレーニング方法を開発している。15
時間でクルーを育成するようになっている。15時間というと短いようだが、
年商2億円もいく場合があるから、クルー人数だけでも100人にもなる。平
均的なクルーの定着期間は6カ月であるから、年に200人のクルーの採用と
トレーニングが必要だ。200人のトレーニングには3000時間、社員が担
当していたら1.5名の社員が必要になるような負担なのだ。その為に如何に
クルーの作業を簡単にするかということが重要になり、調理機器は全て時間と
温度の自動管理となっていなければならない。

 次に採用しトレーニングしたクルーを売り上げと作業に応じて時間配分をす
る必要がある。現在の様に時給が高くなって来て、原材料費よりも人件費コス
トの法が高くなると、必要な時間帯だけクルーを精緻に配置する必要がある。
その為、クルーの労働可能時間と店舗の必要時間を売り上げと対応させ、週間
、月間の労働スケジュールを作成する。この作業はかなり大変であり、熟練が
必要だ。この作業のうまい下手により、人件比率を低く押さえながらQSCを
最高に保つことができるので、店長の腕の見せ所である。POSと店舗のコン
ピューターを組み合わせて、スケジュール作成作業を自動化するようになって
きている。

<物の管理>
 物とは食材、調理機器、建物等のことを言う。

・食材
 食材は、Qのところでも述べたが、指定食材を指定業者から仕入れるので、
大事なのは、売り上げに応じた数量を入れ、不足せず余らせないと言うこと
だ。店長の大事な業務は高いQSCを維持してお客を満足させることである
が、同時に利益を出さなければいけない。店舗の経費の中でも食材コストは最
も大きい額の一つである。簡単なように思われるが、郊外の店舗の日曜祭日の
売り上げは平日の2倍から、4倍にもなると言う難しさがあるということだ。
特にゴールデンウイークや正月の売り上げ予測は大変難しい。まず、売り上げ
は天候に大きく左右されると言うことだ。当然のことながら雨が降ると売り上
げは晴天の半分くらいになる。また、温度と湿度により売れる料理の種類が異
なる。ゴールデンウイーク時期の難しさは、温度と湿度と晴天の度合いが大き
く変動するからだ。ちょっと温度が高くなると、飲み物やアイスクリームなど
が多く出る。逆にあつい物や、揚げ物などのしつこい物は出なくなる。しかし
温度が低めでからっとした陽気だと揚げ物等の売れ行きがよい。この予測をう
まくできる様になるには、2年間くらいの経験が必要になるのだ。最近ではP
OSの自動発注システムがあるが、大抵は数週間前のデーターを参考にする程
度であり、天候の変化や、季節性の変化、広告宣伝を考慮していないので、相
変わらず、各店舗のマネージャーの勘ピューターが必要で、ここでベテランと
新人の経験の差が出てくる。

 発注後店舗に納入された食材を記録し、定期的に在庫管理をする。週末毎、
月末毎に在庫を棚卸しして、週間、月間の使用量を計算し、原材料費を計算す
る。POSが導入されているので、販売数量はわかるからそれに、理論原価率
(本社で理論使用量と想定される食材ロスを計算に入れた原材料コスト)をか
ければ原材料コストは算出できる。しかし、理論原価率では、賞味期限を過ぎ
て廃棄した食材コストや、理論値以上に使用した原材料、盗難等は算出できな
いので、棚卸しして実際の原材料を計算する必要がある。理論原価率と実原価
率では最低でも0.5%から2%の差異が出る。この差異をどのくらいで納め
るかが店長の腕の見せ所である。年商2億円で1%の原価が異なれば年間で2
00万円もの金額になるのである。棚卸しは閉店後に行う必要があり、その後
の計算と合わせて、2時間ほど必要である。

・調理機器
 クルーが調理するので、自動化の調理機器をマニュアル通りに使用する必要
がある。自動化の調理機器は温度が設定通りか、設定時間が正しいかを定期的
にチェックし、調整する。毎日1時間くらいは調整と整備に費やす必要があ
る。クルーでもトレーニングすれば調整ができるが最初は店長がしっかりとト
レーニングする。プリベンティブメインテナンス(故障を未然に防ぐメインテ
ナンス・整備)として、カレンダー、マニュアル、手引き書を作成してクルー
でも簡単に調整、整備をできるようにしている。

・建物
 建物も清掃と簡単な修理が必要である。特に建物の空調設備の清掃は、店内
の汚れと、環境を大きく左右するので、定期的に行う必要がある。これもプリ
ベンティブメインテナンスカレンダー等を使用して実施する。その他に建物が
壊れたり、配管などの詰まりがあったときには修理が必要だが、近隣の修理業
者を捜したり、見積を取ったりする作業が必要だ。緊急に備え普段から業者を
捜しておくのは店長の重要な作業の一つだ。

<金の管理>
 金の管理とは、売り上げ金の管理、売り上げ向上、経費等の利益管理、予算
作成と投資計画管理、等が必要だ。ビジネスであるから売り上げだけでなく、
利益を一店舗単位でキチンと出すことがチェーン全体の利益管理として必要な
のだ。

・売上管理
 売り上げ金は1日に一回計算し、売り上げ日報を作成し、現金残高、現金過
不足、打ち間違い、クーポン券回収、割引額、小口現金使用明細等を、本社に
報告する。売り上げ金は銀行に納金し、本社に送付する。POSとコンピュー
タが導入されているので、キーボードを使用して現金日報を作成し、本社に回
線を経由して報告される。

・売り上げ向上 利益を出すためには経費管理も重要だが、まず損益分岐点ま
で売り上げを持っていく対策が必要だ。その為には、宣伝活動が必要だ。宣伝
活動とは、店舗の所在や、季節の特別料理などを知らせるためにチラシを宅配
したり、新聞に折り込みをする。また、近隣の商店とタイアップし、商店街の
景品として店舗の無料招待券を配布したりの販売促進活動が必要なのだ。店長
は常に近隣の競合店舗の販売促進を把握し、負けないようにアイディアを使う
必要がある。

・経費などの利益管理
 いくら売り上げを上げても経費を管理しないと利益は出ない。利益管理の大
きなポイントは、人件費、食材ロス、水道光熱費、消耗品管理である。店長の
能力により最終利益は1%から場合によっては5%も異なる。

・予算作成管理と投資計画
 年度末には来年度の売り上げ予想と、経費管理を予測し、それにより、必要
な投資金額を算定していく。予算は各店舗の積み上げであり、本社で利益を最
優先して店舗の実状を無視した予算を作成すると、かえって経費の増大、利益
の減少、店舗QSCの大幅低下、を招くことになる。

(2)社員マネージャーのキャリアプラン(会社での昇進の段階)とトレーニ
ングコース 
<1>店長までの教育システム
 店長の仕事は大変な量がある。これだけの業務を行えるようになるには、し
っかりとした系統だったトレーニングコースと組織作りが必要になる。  
 入社後、まずマネージャートレー(マネージャー見習い)として店舗に配属
される。入社後店舗に配属されると同時に、MDP#1(マネージメント・デ
ベロップメント・プログラム)に基づいて、トレーニングが開始される。MD
Pそのものはマニュアルでなく、研修期間のカリキュラムを日別に書いてあ
り、毎日実習する項目と、勉強するマニュアル、VTR教材などを明確にして
ある。店長やトレーナーはそれに基づいて毎日指導していく。この終了予定期
間は個人差があるが、3ー6カ月で終了するようになっている。内容は開店業
務、営業中の店舗運営、閉店業務、クルーの業務、QSCの管理を一人で具体
的に出来るようになるまでである。

 マネージメントシステムの基本は、米国軍隊のMTP(マネージメント・ト
レーニング・プログラム)を基本にしており、各職種に合わせてトレーニング
項目を明確にしておき、各職種に合わせたMTPプログラムでトレーニングを
進める。一定の能力が付いたら、その職種に合わせた集合トレーニングを実施
する。トレーニング内容はあくまでも現実的な内容で、日本の会社が行うよう
な社会人としての常識とか、社内の報告方法などの幼稚園的な内容は教えな
い。
 
 MDP#1を終了すると、B・O・C(ベーシック・オペレーション・コー
ス、基本トレーニングコース)という地区本部の主催するトレーニングコース
を受講する。このコースを終了後、更にMDP#1の項目を全て満足すると、
セカンド・アシスタント・マネージャー(第二店長代理)に昇進し一人前のマ
ネージャーとして一人で店舗の運営をまかされるようになる。当然の事ながら
昇進により、給料、ボーナスの額が上がる。各タイトルが上がるごとに給料、
ボーナスの額が上がることにより仕事に対する意欲を具体的に高めるようにな
っている。昇進はあくまでも実力主義であり資格試験などというペーパーテス
トではなく店舗運営での実績に基ずく。昇進は年功序列ではなく、場合によっ
ては年齢が上の社員を指導することは当たり前である。

 セカンド・アシスタント・マネージャーに昇進後さらにMDP#2を渡さ
れ、3ー6カ月で終了する。内容は店舗の高いQSCを実現するために、人物
金の具体的な管理方法を学ぶ。これを終了後、I・O・C(インターミーディ
エイト・オペレーション・コース、中堅マネージャートレーニングコース)と
いうコースを受講し、MDP#2の項目を満足すると、ファースト・アシスタ
ント・マネージャー(第一店長代理)の試験への挑戦資格をもらえる。

 試験と言っても書類の試験ではなく、実際に店舗を運営しているところをス
ーパーバイザー(SV、店長の上司で複数の店舗を担当している、QSCと店
舗の売上、利益の管理と、人事評価を行う、店舗のQSCの監査も担当する)
がチェックし、店長と同等の能力があるとみなされたら合格する。あくまでも
実務面の能力をチェックする。

 ファースト・アシスタント・マネージャーに昇格するとMDP#3ー1を受
け取り、店長になるための、具体的なQSCの実現方法、人物金の管理手法に
ついての具体的な勉強をする。このコースを終了後、A・E・C(アドバンス
・エクイップメント・コース、上級機器メインテナンスコース)を受講する。
米国式の考え方は全ての店舗の機器、建物は自分たちでメインテナンスすると
いう物だ。建物や機器が壊れてから直すのではなく、定期的な清掃、調整、部
品交換をして壊れるのを未然に防ぐ、プリベンティブメインテナンスの考え方
である。しかしながら多くのマネージャーは文化系の学部を出ており、機械の
知識はほとんどない。その為機械を恐がり、さわろうとしないという問題があ
る。そこで授業を通じて、機械の作動原理、冷却原理、等の基本を教え、さら
に店舗の各機械の構造を理解させる。そして、簡単な修理を実習させ、店舗で
実際に行えるようにする実用的な授業である。

 完全にマスターすれば調理機器メーカーの設計担当者とディスカッションを
出来るくらいレベルの高い、具体的なトレーニングコースである。

 これを終了すると、MDP#3ー2を渡され次の勉強をする。内容は更に店
長の業務を出来るようにする物だ。この過程で、シニアー・ファースト・アシ
スタント・マネージャー(上級第一店長代理)の資格を満たせば昇進する。こ
の後、A・O・C(アドバンス・オペレーション・コース、上級マネージャー
トレーニングコース)を受講する。この授業から本社のハンバーガー大学が担
当し、全国のマネージャーは本社のハンバーガー大学で受講する。このコース
では店長になるための全ての知識と手法を学ぶ。更に、広告宣伝、人事管理、
目標管理、人事管理、機器メインテナンス、利益管理、等を具体的に学ぶ。

 米国のハンバーガー大学のAOCを受講すると大学の単位にもなる位の、レ
ベルの高い内容である。

 これを終了後新店舗の開店に伴い、ストアーマネージャー(店長)に昇進す
る。店長昇進で勉強は終了ではない。これから更にMDP#4をもらい、新人
店長の勉強を開始する。内容は具体的な業務と同時に、店舗のマネージメント
をどうやって行うかという物になる。

 MDP#4の途中でS・M・C#1(ストアー・マネージメント・コース、
新人店長トレーニングコース)を受講する。ここでは店舗のQSCの維持と売
上と利益の管理と更に店舗におけるリーダーシップの取り方を学び、多くの人
の前で話すプレゼンテーションスキル等を修得する。

 米国的ではマネージメントの長となると必ず人前で話したり、説得する必要
が生じる。日本では各人が自分でプレゼンテーションスキルを学ぶのだが、米
国では必要な職位になると必ずプレゼンテーションスキルの受講をさせる。米
国マクドナルド社では色々なコースがあるが、各国のハンバーガー大学や地区
本部のトレーニング担当者へのプレゼンテーションスキルのクラスがある。こ
こでは参加者の理解する言語は異なるにもかかわらず、全て自国語で行う。面
白いことに、お互いに相手の言語を理解しなくてもコース終了時には相手の言
い分の80%位は理解できるようになる。プレゼンテーションの80%はボデ
ィーランゲエージ(身ぶり手振り)と表情だからなのだ。例えば、聴衆の目を
見るトレーニングでは、生徒に目を書いた紙を渡し頭の上に掲げさせる。プレ
ゼンテーション実習を行っている生徒が、自分の目を十分見たと判断したらそ
の紙をおろすのだ。これにより、プレゼンテーションをしている生徒は全員を
まんべんなく見る習慣を身に付ける。このように大変具体的なのが米国式のト
レーニング方法だ。米国式トレーニングは具体的で、参加者に自信を持たせる
ポジティブな研修方法である。

 日本の幹部社員トレーニングというと地獄の研修などといって、参加者を肉
体的、精神的に苦しめるタイプが多い。日本ではチームワークを重んじ、幹部
研修会では殆ど反省会と協調性を養うことに重点を置く。大抵の研修会では最
初に参加者の自信を打ち砕き、それから講師の言うことを素直に聞かせる姿勢
を作る。この段階で反抗しようものなら、会社に報告するなどとまるで脅迫
だ。脅迫と自信をなくさせることにより、反省させ素直にさせる。研修会を終
了した人に聞くと大変参考になったという。しかし、実際の成果には殆ど反映
しない。それは研修会では具体的な業務の進め方、改善方法などのマネージメ
ント手法を何も教えないからだ。さらに従来の自分のマネージメント方法にも
自信を失いこれから何をして良いのか茫然自失とさせるからだ。

 米国式の教育の優れているのは、参加者そのものをまず肯定することから始
める。そして、参加者が会社で成功するにはどうすればよいのか、現状の問題
点は何なのかを見つけだせるようにする。本人のマネージメントスタイルに問
題があれば、何が問題なのか論理的に説明する。対人関係でも単に素直に相手
の言うことを聞くと言うのではなく、精神分析の手法に従い、こちらの態度が
どのように相手に反応するかを分析説明する。現場に戻ってから、色々なタイ
プの人間にも対応できるように、分析手法、対応方法を具体的に分かり易く体
系立てて学習させる。つまりどんな事柄でも具体的に分かり易く教えるのであ
る。米国マクドナルド社のトレーニングシステムが優れているのはこの人間関
係の手法をしっかりとトレーニングするシステムを作り上げたからではないか
と思われる。

 米国ではトレーニングシステムを開発する専門の教育機関があり、そこでそ
れぞれの会社の業務にあわせたシステムを開発している。各企業は数年毎に最
新の理論に基ずくトレーニングシステムを再構築し常にベストになるようにし
ている。最近日本でも行われ出したリエンジニアリングなどもいち早くトレー
ニングコースに取り入れるなど、社員の教育特にマネージメントの教育に力を
入れているのが米国企業の特徴だろう。
 SMC#1を終了すると更にMDP#4を継続して学びそれを終了すると、
シニアストアーマネージャー(上級店長)に昇進する。数年の上級店長経験を
経た後にSMC#2を受講し、次に職位であるスーパーバイザーを目指すので
ある。
                                
(3)本社の組織
 会社としての組織は基本的に店舗中心の組織であり、本社は店舗の運営がス
ムーズに行くための裏方の組織にすぎない。本部組織での基本作業は4つに分
類される。経営責任者つまり社長。それとマネージメントの3つの原則、人、
物、金の管理だ。以下にその分野別の仕事内容を述べる。仕事が分かれるから
といってそれだけの数のポジションと人間が必要なのではない。年中その業務
の必要性があるのではない。必要に応じて兼任でプロジェクトチームを作り作
業をさせる。例えば人事部の大事な仕事は新卒の採用だ。新卒の採用で最も忙
しいのは会社説明会、採用試験、面接試験などだ。その必要なときだけ現場の
SVに仕事をさせる。現場の状況を知っているから、面接でも適性の判断が容
易だし、入社してからのフォローアップも簡単で、新卒の定着率も良くなる。

<人 店舗運営ライン>

<スーパーバイザー>
 店長7ー8名を管理するスーパーバイザー(以下SV)が必要になる。スー
パーバイザーとは監督だけでなく部下への教育も業務である。
 スーパーバイザーの業務で最も重要なのは、店舗がQSCを最大限に維持し
ているかをチェックするポリスマンの役割である。定期的に店舗のQSCをチ
ェックリストに基づきチェックする。もし、店舗のQSCが基準に達しなけれ
ば作業の改善を命令し、それでも改善できなければ、店長を降格させたり、閉
店を命ずることもある。大変な権限を持っている。QSCだけでなく、店舗の
売り上げ、利益額の管理もしなければならない。売り上げが低ければ具体的な
販売促進策を店長とともに作成する。

 店舗のチェックだけではなく、店長のラインの上司としても機能する。SV
は単なる監督ではない。もし店舗に問題があればそれを解決しなければならな
い。店長の知識が不足しているのであれば、店長への教育が必要であり、その
最終責任者はSVなのだ。

 SVの業務はQSC、人物金の管理と、教育、売り上げ利益QSC増進に関
する企画の立案、等の他にさらに重要な任務がある。それは店舗のオペレーシ
ョンシステムの改善である。SVの業務は会社の方針を店舗に伝えるだけでな
く、店舗のシステム的な問題点や改善方法を本社へ提案しなければならない。
店舗の現状をもっとも把握しているのはSVなのであるから、その改善方法の
フィードバックすることにより会社全体のシステムの改善が可能になる。幾ら
本社に優秀な人材が座っていても、店舗の現状を知らなくては何もできない。
かりに何かをしようとしても店舗の現状を把握しないまま行っても全く効果が
ないばかりか、逆効果で店舗の意欲を失う基なのだ。

 SVの役割というのは店舗運営を考える上で最も重要であり、そのためには
SV用の優れた教育コースが必要なのだ。SV教育では具体的なQSCの向上
手法と同時に、会社運営への参加意識の植え付けを行う。SVは企業経営の要
であるという認識を持たせ、いかに会社にとって重要なのか、大切に思ってい
るかを認識させる。

<統括スーパーバイザー>
 米国のMTPの基本は管理可能な部下は7人~8人であるという事だ。だか
ら、SVが7人~8人以上になればそれを管理する統括スーパーバイザーが必
要になる。統括スーパーバイザーは7ー8人のSVと30ー40店舗の売り上
げと利益の管理をする。この統括SVのエリアをプロフィットセンターとよ
び、この単位で売り上げと利益を管理させる。全社で利益や売り上げが低いと
言って騒いでも具体的なコントロールは不可能だ。この統括のエリアで目標売
り上げと利益を確保するようにすれば、全社的な利益の確保が可能になるの
だ。米国ではこの単位の管理を大変重視し、もし2カ月でも目標利益が達成で
きなければ、降格されてしまう。

 <フランチャイズチェーンの管理>
 直営店舗とフランチャイズ店舗では管理手法が異なる。直営の場合のSVは
監督と同時に直接の上司であり、きめの細かい管理と教育を行う。直営の場合
には店舗数の増加とともに常に新入社員が増加するので、きめの細かい管理が
必要になる。しかし、フランチャイズ店舗の場合にはフランチャイズオーナー
が直接の運営に当たり、長い経験を持つようになる。その為、直営店舗のよう
にきめの細かい教育が必要ない。しかしながら、フランチャイズ店舗は独立法
人であり、売上や利益の管理が悪いと倒産したりする。その為、直営店舗とは
異なる財務上のコンサルティングが必要になる。直営のSVは損益計算書まで
の知識でよいが、フランチャイズの管理には財務諸表、特にBSや資金繰りの
チェックが必要であり、経営者としての高度な知識が必要になる。フランチャ
イズオーナーは独立した経営者であり、直営の社員のように命令することはで
きない。理詰めの説得が必要であり、洗練されたコミュニケーション技術が要
求される。そこで直営の管理とは別に、フランチャイズ店舗の管理の責任者を
設ける必要が出てくる。その職種をフィールドコンサルタントと呼ぶ。SVの
担当店舗は7~8店舗までだが、FCの場合社員の教育の必要がないために2
0店舗以上の店舗を担当する。

<運営部長、フランチャイズ担当部長、運営本部長>
 統括SVやFCの数が多くなると、当然それを管理する運営部長やフランチ
ャイズ担当部長が必要になる。さらに店舗数の総数が増加し、広い地域にまた
がるようになると、直接本社から管理することは効率が悪くなる。店舗数20
0ー300店舗ごとに地区本部を設け、各地域に密着した管理をするようにな
る。地区本部長とはその地区の社長のように全ての管理をおこなうのだ。

続く

王利彰(おう・としあき)

王利彰(おう・としあき)

昭和22年東京都生まれ。立教大学法学部卒業後、(株)レストラン西武(現・西洋フードシステム)を経て、日本マクドナルド入社。SV、米国駐在、機器開発、海外運営、事業開発の各統括責任者を経て独立。外食チェーン企業の指導のかたわら立教大学、女子栄養大学の非常勤講師も務めた。 有限会社 清晃(せいこう) 代表取締役

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