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食の仕掛け人たち

テレビ番組「料理の鉄人」プロデューサー 松尾利彦氏(日本テレワーク株式会社制作本部)

松尾 俊彦氏

フジテレビ系列にて全国ネットで放送されている「料理の鉄人」は、1993年10月にスタートして以来満3年を経過して4年目を迎えたが、いまだにその人気は衰えていない。

“鉄人現象”といわれるように「鉄人」というフレーズがさまざまな場面で用いられるようになったことは勿論であるが、これまであまり表向きにはならなかったプロの料理人のさまざまな技法、いわゆる「秘技」がテレビというマスメディアを通して一般家庭にまで浸透したことは、料理業界においても少なからず影響を与えたことと思われる。

今回は、この番組づくりを手掛ける日本テレワーク(株)制作本部プロデューサー・松尾利彦氏にお話を伺ってみた。

FOOD PRESS

まず始めに伺いたいのですが、この番組が視聴者に訴える最大のポイントとは、何なのでしょうか?

松尾 氏

この番組の企画当初からの基本的な考え方は、従来からある料理番組のように「何を作るか決まっている」「段取りが決まっている」という常識を打ち砕く全く新しい手法を用いてこの番組を成立させたかったということです。

ご存知の通り、使用するテーマ素材は一部スタッフを除き、番組関係者にも秘密にされ、対決する二人の料理人たちは本番で始めて知らされて、メニューを考え、作り始めます。

しかも制限時間はきちんと1時間で勝負します。番組的にエンターテイメント的な要素は主宰のキャラクターやセットを含め、番組を一層魅力的なものにするために盛り込んでいく必要はありますが、二人の料理人が対決している1時間の間、真剣に料理に打ち込んでいる姿が真実の姿であり、余計な演出は一切必要ありません。

この時の私達の仕事は、その現場の空気をいかにリアルに伝えることができるかにかかっていると思います。逆にその姿が斬新であり、今までのありきたりの料理番組では得られなかった新たな感動をお茶の間に与えたのではないかと思います。

FOOD PRESS

料理対決の場である重厚な雰囲気の「キッチンスタジアム」、そしてあの独特の雰囲気を盛り上げる「主宰」など、番組のストーリーとしての味付けについてお聞かせ願えますか?

松尾 氏松尾氏

そもそも「料理の鉄人」のストリーは、近未来の世界に食道楽の贅を尽くしてきた“主宰”(番組では鹿賀丈史さんが扮している)が、とあるヨーロッパの古城の地下室に対決用の「キッチンスタジアム」と呼ばれる厨房リングを作らせ、世界中から集めた腕に自信のある一流の料理人に勝負させ、勝者にのみ自分のための料理を作らせるといった傲慢な物語がベースとなっています。

実際の番組上のストーリーでは、主宰が抱える和・フレンチ・中華とジャンルが異なる「鉄人」と呼ばれる超一流の料理人に挑戦者が戦いを挑むといった内容になっていますが、かつてローマ帝国のコロシアムで繰り広げられた「死ぬか生きるか」の戦いをする場のイメージとラップさせて表現したものです。

日本風に言えば「包丁勝負」、これの国際版とでもいうのでしょうか。

FOOD PRESS

先日、この取材に先立ちスタジオの収録を見学しました。番組の流れはきちんと組立されていましたが、いざ料理の対決が始まると、まるでスポーツ観戦をしているかのように、「何が起こるか分からない」といった緊張感が伝わってきました。リアリティとあの鹿賀さんの演ずる“主宰”を含めたエンターテイメントの融合が、ここまでの人気番組になったのではないかと思います。そして、この番組が世の中に与えた影響も多分にあったのではないかと思うのですが……。

松尾 氏

私を含め、制作スタッフは料理のプロではありませんし、知識も浅く、料理の世界に影響を与えたといったたいそうな考えは少しも持っていません。

また、料理関係者の方にも色々なご不満やご指摘もあるかもしれませんが、私達はテレビ番組を通じて視聴者を楽しませ、感動させることが仕事だと考えています。ただ、今までどちらかといえば表向きに登場する機会の少なかったプロの料理人の方々がテレビというメディアを通して一般の人が知らなかった専門の技術や仕事の内容を紹介することができたのではないかと思っています。

そのことで、料理人の仕事が今まで以上にイメージアップにつながり、この道を志す人が増えるといったことにもつながるのであれば、こんな光栄なことはありません。

FOOD PRESS

では、この番組の中で松尾氏がプロデューサーとして果たす役割、仕事の内容は何なのでしょうか?

松尾 氏

簡単に説明すると、テレビの番組は、プロデューサーとディレクターが軸となり、さまざまなスタッフを動かして作り上げていきます。この番組ではディレクターの田中経一とパートナーを組んで仕事をしています。ディレクターはソフト的な部分で番組を内側から深く構成し、プロデューサーはハードの部分から固めていくというように、いわば二人三脚的に仕事をしています。レストランでいえばプロデューサーが支配人で、ディレクターがシェフとでもいうのでしょうか。

FOOD PRESS

さて、番組の最後の山場としてその日の勝負に対するジャッジが下されますが、ここも視聴者を最後まで釘付けにする大きな要素ではないでしょうか?

松尾 氏

キッチンスタジアム機器
例えば、審査の部分でよくご指摘を受けますが、若いタレントさんなどに何がわかるのかと言われることがあります。確かに料理の審査で勝敗が決まるわけですから、重要なファクターであることは間違いありません。でも全ての審査員が料理界の重鎮であったとすれば、多分、視聴者も面白くないわけです。それよりも私達は視聴者に近いスタンスで審査する方も加えるようにしています。それは「おいしいものは誰が食べてもおいしい」と思うからです。

放送では 5 分くらいの場面に編集していますが、試食審査は実際には一人の料理人に約 30 〜 40 分程度かけ、料理人と審査員がコミュニケーションされる中で行われます。しかし、現実にはいずれかの勝敗が決まるのです。この白黒はっきりつける部分も番組の最後まで緊張感を持続させる要素であったと思います。

FOOD PRESS

では、番組づくりをしていく上でのご苦労はどのようなものでしょうか。

挑戦者に対する出場依頼、また対戦の結果によっては後日にわたりフォローを行う必要もあり、非常に気を遣います。さらに、番組を構成する上で食材や器、什器備品等からスタッフについても従来の料理番組の域を越えた大所帯となってしまいました。

出演者やフードコーディネーター、その他に実に多くのスタッフが必要です。この番組を成立させていく上で目立たないけども必要な要素であり、番組を毎回成立させていく上でのプレッシャーは大きなものがあります。

また、プロ料理人同士の勝負の環境として十分な火力や大きさを持った本格的なキッチンシステムの構成が当初から要求されました。それに対して、本格的な業務用のキッチンシステムがテレビ局のスタジオにセットできたことも今までの料理番組の常識では考えられなかったことであり、すごいことだと思います。

FOOD PRESS

松尾氏ご自身は、食に対するこだわりはお持ちですか?

松尾 氏

自分で料理を作ることはありませんし、あまりこだわらない方なのかもしれません。好物は温かいご飯と塩昆布、そして明太子があれば満足な男ですから(笑)…。ただ、それが番組の制作となると話はかわります。私のブレーンがそれぞれのポジションでこだわりを持って取り組んでいる“仕事”を管理し、プロの料理人の皆様に納得して頂けるような努力は惜しみません。

FOOD PRESS

話はかわりますが、過去の番組の歴史の中で一番印象に残ったことは何ですか?

松尾 氏

キッチンスタジアム機器 一番の感動は、初代・和の鉄人(現・名誉鉄人)の道場六三郎氏の作る料理ですね。番組開始当初から、西洋の素材を和食の中にぶち込んでいくという斬新な技法に凄まじさを感じました。また、それが料理が完成した時点で和の感覚に実にマッチしており、理にかなっている。これは凄い人が出てきたな、と素人目にも感じました。そしてこの人はひょっとしたらこの番組を通じて相当な注目を浴びるのではないかという予感がしました。

FOOD PRESS

それでは最後に「料理の鉄人」の今後の豊富などを含めてお話頂けますか。

松尾 氏

私自身、登場して頂きたいと思う料理人の方はまだまだたくさんおられます。今、私達自身が感動しながらこの番組を作っている最高の状態であり、視聴者にもそれがうまく伝えられているうちは番組を続けていきたいと考えてます。

いわゆる「鉄人現象」は確かにあり、テレビの影響力の凄さを改めて感じています。この「料理の鉄人」に限らず、新しいものを作る時は、最初は「そんな無茶な」というところから立ち上がって、そのあときっちり計算されて構成されてきます。ブラウン管を通して見ても見えないところに多くの方々の協力や苦労によって作り上げられていきます。これからも番組は続きますが、この紙面をお借りして今まで登場された多数の料理人の皆様、そして番組制作に協力下さった全ての皆様にお礼を申し上げます。

FOOD PRESS

これからも「料理の鉄人」をはじめ、家庭に楽しい番組を提供されることを期待しています。松尾さんの今後益々のご活躍をお祈りします。

本日はお忙しい中、ありがとうございました。

そして取材を終えた数日後、料理の鉄人は年末年始のフジテレビの顔として前代未聞・ 100 人分のおせち対決として生放送でお茶の間に登場した。結果は現役の和の鉄人である中村孝明氏の勝利に終わったが、二人の料理人とそのスタッフが繰り広げる戦いが日本全国を賑わせた。いずれにしろ、 1997 年は「料理」そして「料理人」が主役となり幕を開けた。
           
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