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食の仕掛け人たち

渡辺 彰 料理長 箱根プリンスホテル

渡辺 彰 料理長 わずか5人の厨房スタッフで、約400食の宴会メニューをこなす新調理システム

1943年新潟県生まれ。'62年西武鉄道(株)横浜プリンスホテルに入社。'70年スイス・ホテルプラザ、フランス・レストラン・ルドワイヨン、ホテル・ル・ソールノルマンの海外勤務を経て、'73年東京プリンスホテルに勤務。'75年に日光プリンスホテルの料理長に就任。フランス・ワイン農地研修、クックチル・真空低温調理法ヨーロッパ研修を経て、'93年箱根プリンスホテル料理長となり現在に至る。

労働基準法の改訂により、ホテルやレストランでも週40時間労働、週休2日制が基準となり、料飲業界でも近年ますます厨房作業の効率化が求められている。また、昨年夏に猛威をふるった病原大腸菌O-157の影響により、衛生管理の基準もより厳しくなり、いかに効率よく清潔に厨房作業ができるかが経営の課題であり、将来のシステムの見直しが必要とされている。

そんな市場状況の中、「新調理システム」という新しい厨房システムが注目を浴びている。 その「新調理」を早期に取り入れ、成果を上げている箱根プリンスホテルの料理長で、新調理システム推進協会会長も務めている渡辺彰料理長にお話を伺った。

「新調理システムとは」

Food Press

まず、話題の新調理システムとはどんなシステムなのですか。

渡辺氏

そもそも私が導入を考えたのは、およそ10年前のバブル全盛期の頃です。レストランでは、厨房スタッフの確保がなかなか難しく、また新人を入れたところですぐには戦力とはなり得ません。逆に市場はグルメブームで、お客様のメニューの楽しみ方もより高度になり、ご満足いただける高級なフランス料理を少人数のスタッフでいかに提供するかということに頭を悩ませていました。

そんな時、欧米で生まれた急速冷却装置の開発によりクックフローズンの3分の1のコストでできる「クックチル調理」が生まれ、また、以前からフランスの「真空低温調理法」を世界に広められていたジョエル・ロビュション氏により真空調理講習会が行われました。どちらも厨房での仕込作業のシステム化を実現することで料理人が足りなくてもマニュアルによりおいしいメニューが作れ、人件費の削減することができる新調理法で、海外ではかなり前から研究されていたことでした。

Food Press

まさにシェフの悩みを解消する調理システムだったわけですね。導入していかがでしたか。

渡辺氏

ええ。早速ヨーロッパへ研修に行き、クックチル、真空低温調理法を学んできました。ですが、日本ではまだ昔からの職人気質が強く、新鮮な素材をその場で使い、仕込から盛りつけまでを料理人の経験と勘で行うのが当たり前でしたので、なかなかこのシステムは広まりませんでした。年輩のシェフには「パックで保存したメニューなんかまずくてお客に出せるか」という方々が多かったですね。

Food Press

たしかに、和食に限らず料理人というのは伝統と技を受け継いでいくという風潮がありますね。

渡辺氏

もちろん、今までの調理システムを否定するつもりはありません。私もそういう環境で修行してきましたから。それにこの新調理システムもきちんと基礎をおさえていないとおいしいメニューは作れませんからね。

Food Press

いくらハードが充実してもそれを有効に活用するソフトのシステムが伴うということですね。

渡辺氏

はい。ただ加熱するのではなく何度Cで何分というマニュアルがなければこのシステムは成り立ちませんからね。逆にそのマニュアルの設定の部分がこれから各レストランの個性になっていくのではないかと思います。それにミシュラン編集長の言葉にもありましたが、「 フランス料理は変化が止まれば、もはやフランス料理ではない」というのは私もすごく共感しています。日本でもっともっと新しい技術を受け入れて、より向上していかなくてはならないと思います。いつまでも自分の習得した技術にしがみつくのではなく、各自それぞれの技術やアイデアを共有しあい、組織での味作り、そして食文化自体のレベルアップをしていければよいと思います。

「およそ400食分のメニューをわずか5人の厨房スタッフでこなす」

Food Press

導入していかがでしたか。

渡辺氏

システムがうまく機能するまでにさまざまな試行錯誤を繰り返しました。先ほどの話と重複しますが、論理は分かっていてもそれをうちで取り入れて実行するには、うちなりのマニュアルが必要なわけです。また、スタッフの教育も必要でしたから。

Food Press

システム導入に対してどんなことに注意をされたのですか。

渡辺氏

新調理を導入するには、レシピの改良をはじめ、食材の仕入から仕込み、保存条件の設定、そして温めまで作業全てに対してマニュアル化することが必要となります。新調理システムとは味、品質を維持しながらいかに計画生産をし、ロスをなくすかということが目的ですから、いつ何食分入るということをなるべく早いタイミングでつかむという営業的なところから始まります。また保存や温めに関していえば何度Cで何時間という細かいデータを各担当者に伝えておかなければなりません。

Food Press

作業分担とマニュアルが大切なのですね。

渡辺氏

そうですね。毎日の調理業務の中で円滑な営業活動を行いながら新技術を取り入れていくことが大切なのです。

Food Press

具体的にはどのようにしているのですか。

渡辺氏

メニューによって違いはありますが、例としてあげれば、まず仕込は4日前にやっておきます。この時肝心なのがメイン素材と付け合わせやソースなどそれぞれパーツごとに作り置き保存することです。当日はそのパーツをその日のメニューに合わせて加熱もしくは再加熱して盛り付けるだけの作業になります。こうしておけばメニューグレードの違いやメニュー数も調製できムダがでません。またうちでは厨房を二つに分け、一方は温かい料理の調理に、そしてもう一方は冷たい料理用と分けることで作業のシステム化と温度のロスや室内温度の食品への影響をなるべくなくすように工夫しています。このように材料から人件費、光熱費までをトータルに計画立てて考えることがこのシステムを適用していく上で大切です。

「新調理システムと衛生管理の重要性」

Food Press

新調理システムは衛生管理にも大変効果的だということですが、そのへんについてはいかがでしょうか。

渡辺氏

はい。まず第一に新調理システムを導入するには調理したものを保存するといった性質上、衛生管理を第一に考えなくてはなりません。次にそれに対応した設備が必要です。急速冷却機やスチームコンベクションオーブンなどの設備が不可欠です。その機械・器具の導入によるハード面の向上と加熱の際の芯温計によるチェック、衛生管理の徹底をマニュアル化するなど、システムの作業行程自体によるソフト面での二つの衛生管理技術の向上により、衛生的な厨房作業が可能となります。

Food Press

ではO-157対策にもいいですね。

渡辺氏

そうですね。レストランにもちろん、大量調理を必要とする病院、事業所給食施設には最適なシステムといえるのではないでしょうか。

Food Press

渡辺料理長は現在、新調理システム推進協会の会長も務めていらっしゃいますが、具体的にはどのような活動をされているのでしょうか。

渡辺氏

年に4回公開調理セミナーを行っています。多くのシェフはもちろん、各厨房メーカーの方も数多く参加していただいています。また、近年は調理師専門学校でもカリキュラムに取り込まれていらっしゃるところもありますので、ますますこれからの調理法として発展していくのではないかと思っています。

Food Press

今後の課題としてはどのようなことをお考えでしょうか。

渡辺氏

やはり新調理システムはあくまでも方法ですから、そこから美味しさの追求をもっとしていき、さらなるメニュー開発が必要ですね。厨房の衛生対策に関してもウエットな厨房からドライな厨房に、換気、空調設備の改善と省エネルギーかがこれからのテーマとなるでしょう。

Food Press

ありがとうございました。これからも常によりよいホテルの料飲サービスを前向きに取り組まれる渡辺料理長のご活躍をお祈りしています。

最後に箱根プリンスホテルで実際に新調理システムで作っているメニューの紹介をいたします。

料理写真

シーフード・シンフォニー

白身魚のピカタ、ガスパチョソース

牛ひれ肉のポワレ


シーフード・シンフォニー
材料
A
磯魚(カサゴ・アイナメ・的鯛)…各30 g
車えび…30〜40g
ほたて貝(Lサイズ)
スープ・ド・ポワソン(味付け済み)…1.2リットル
フォセーヌ…20g
アングレーズポテト(ボイル済み)…200 g
ソース アイヨリ(別添え)…180 cc
デコレーション
オレンジの皮細切り
サリエット又はベルベレーヌ…180 cc
作り方
  1. Aの材料に軽く塩・胡椒をし、ホテルパンにセットする。低温スチーム80度Cで2〜3分間スチーミングする。ラップをかけ芯温0〜3度C90分以内に急速冷却する。
  2. 1に味付けし冷却したスープ・ド・ポワソンを注ぎ、フォセーヌ、ポテトをセットしカバーをしてホテルパンのまま氷温貯蔵しておく。
    (0〜3度Cで4日間保存)
提供時
2 をコンビオーブンに入れ、魚の芯温が70度Cになるようにセットして2〜3分加熱する。 盛り付けまで仕上げ、後は再加熱するだけの状態にしておく(カフェテリア用)。左奥の各パックは1人分を各パーツに分けて保存したものを直前に再加熱し盛り付ける(レストラン用)。左手前は一皿ずつ器に盛り付けた状態にし、スープと別立てで保存(ビュッフェ用)。こうしておくとコースメニューのグレードや人数の調整によるムダが少なくなる。


白身魚のピカタ、ガスパチョソース
材料
白身魚…80 g
小麦粉、とき卵(卵2ヶ、粉チーズ、白ワイン、ハーブオイル、フィーヌゼルブ)、塩、胡椒
ハーブオイル…50 g
A
プルノワンギューム…300 g
リゾットサフラン風味…300 g
ガスパチョソース…300 cc
デコレーション
ジュリエーヌレギューム(チコレ、ニンジン、ポワロー、ラディ)、セルフィーユ
作り方
  1. 白身魚に塩、胡椒をし、小麦粉をまぶし、とき卵をつけハーブオイルで焼く。150度C(芯温70度C)でカリッと焼き色をつけて、芯温0〜3度Cに90分以内に急速冷却する。
  2. Aの材料をそれぞれ個別に真空包装する。
    (1とともに0〜3度Cで6日間保存)
提供時
1をコンビオーブンに入れて150度C(魚の芯温は70度Cに設定)で2〜3分再加熱し、皿にリゾットを敷いた上に乗せて盛り付け、ソースをかけデコレーションを飾る。
白身魚カリッと焼き色をつけて急速冷却する。リゾット、ソース、ガルニ、デコレーションはそれぞれパーツ分けして真空包装して保存。

牛肉フィレのポワレ
材料
牛フィレ(USプライム・チルド)成形して1kg
味付け
  1. ミールポワメーグル(赤ワイン)
  2. マテイニヨン
  3. 調味液(オレンジチラー)
  4. ビーフコンソメ
作り方
  1. 80度Cの低温スチームで10分間一次加熱をし、その後、塩・胡椒し、ハーブオイルで表面に焼き色をつける。
  2. ブラストチラーで急速冷却して下処理完了。
  3. 1〜4の中から味のベースを選び、2のフィレ肉と共に真空包装し、ストックしておく。
    (0〜3度Cで4日間保存)
提供時
スチームモード80度Cで再加熱し(芯温60度Cで2分間キープ)、適量にカットし、付け合わせと共に盛り付ける。
低温スチームで一次加熱し焼き色をつて下処理をする(中央)。味付けをしてから真空包装にする(右)。これを急速冷却にかけ保存する。

箱根プリンスホテル
神奈川県足柄下郡箱根町元箱根144
TEL.0460-3-1111

富士山の大自然が広がる箱根の中、四季折々の美しい表情が楽しめる芦ノ湖湖畔に箱根プリンスホテルはあります。湖の美しさに調和する円形の外観を持つ本館をはじめ、384名収容可能なバンケットルーム武蔵の他、大小4つの宴会場がある新館、又ホテルの敷地内に76棟のコテージもあり、温泉露天風呂、ショッピングモールも備えている箱根のリゾートライフを満喫できるホテルです。

           
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