2004.1.07号
Vol. 11 「アメリカのBSE発生について」

日本の飲食・食品業界では、年末に発生したアメリカのBSE(狂牛病)が大き
な問題になっている亊と思います。この2週間の状況を、ニューヨークからお
伝えいたします。

日本では2001年9月にBSEが発覚した時、正確な情報公開が遅れたことと共に、
その対策についての詳しい説明を出来なかったと記憶します。特に大臣など政
府側の発言は消費者の不安を煽ると共に、知識不足による不正確な発言が目立
ちました。これには大臣自身の保身があったと感じました。そしてアメリカで
は、2003年12月9日にワシントン州で屠殺し流通経路に乗った牛(肉)が同月
23日にアメリカ初のBSE感染(疑惑)と発表され、このニュースはアメリカ国
内は勿論世界中に短時間のうちに伝わりました。イギリスや日本はBSEを実際
に体験している国だけに、アメリカ人より反応が早いことは言うまでもありま
せん。筆者の以前のニュース・レポートでも、「BSEがアメリカで発生すれば
大事件であることは当然ですが、日本のようにはならないと思う」と書いたも
のでした。

アメリカでは国民一人が年間平均約30キロの牛肉を消費します。近年ではチキ
ンや野菜などを好む食生活に変わって来たと言えども、牛肉の消費を生活から
切り離すことは出来ません。牛肉の価格も比較的安く、流通量も多く充分な在
庫があることと、一部のエスニック系や特種な料理等を除いては、ステーキ肉、
ロースト肉、ひき肉等の通常の肉(筋肉)部分を多く食用にし、BSEで危険と
される脳や目、延髄等を食べることは非常に少ないと言えます。

また、U.S.D.A.(アメリカ農務省)の規格では牛肉を8グレードに分けてあり、
上位4グレードは上級から「Prime」「Choice」「Select」「Standard」という
順で、我々が主に食品店などで目にするものです。それ以下は「Commercial」
「Utility」「Cutter」、最下位は「Canner」の4グレードで、その中の
「Standard」「Commercial」はしばしばPB商品やハンバーガーに使われたり
し、それ以下の3グレードは通常我々の目に直接触れませんが、やはりハンバ
ーガー、ソーセージ、缶詰類、スープストック(肉出汁)等に使われます。ア
メリカの消費者にとっては、素人でもそれらを大まかに判断出来るような仕組
みになっており、店頭の肉の美味しさ・柔らかさ(グレード)に目星を付け、
そして価格を確認して買うことが出来るわけです。今回のBSEのニュース報道
では、感染した牛は骨を抜いた状態で食肉加工センターへ出荷された現状を農
務長官自らが解説し、肉自体は全く安全であり、この肉を実際に食べたとして
も人間に対しての発病率はほとんどゼロとされ、我々の不安は非常に低い物に
なっています。

それに加えて、性格の大らかなアメリカ人達は、BSEの恐怖を大きなものと考
えていないようです。特にニューヨークは、今回の発生地である西海岸から遠
く離れた反対側であり、消費者は、商品・小売も東と西の物は一緒でないとい
う現実を体感していて、そもそもBSEに対する知識も低いのが現状です。言い
替えると、発生地に近い西海岸側の反応はこちらとは違うと考えられます。発
生直後にアメリカ政府がとった対策と処理は、まず感染した牛の誕生(未確認
の状態)から輸入、屠殺・流通までの正確な動きの把握と、一緒に産まれたと
思われる81頭の牛の現在地確認です。それと同時に、同じ日に処理され大小の
小売店等へ商品として流通に回った牛20頭分の食肉約5トンのリコール回収で
した。それらの肉は、80%が地元ワシントン、オレゴン州に出荷されましたが、
一部はカリフォルニア、ネバダ州を含む米国内8つの州と地域に流通している
と発表されました。このリコールはあくまでも絶対的な安心を確保するためで
あり、食肉の安全性は確実に確保されていることを強調しています。これに対
し、消費者団体等の一部からアメリカ政府は今回の状況に対し楽天的過ぎると
いう意見も出ています。

この感染牛の出生はカナダだとアメリカ側では発表しましたが、カナダ側はこ
れはDNAの鑑定などの確証をもってするべきとアメリカ側を批判していました。
カナダ産の確率は非常に高い様ですが、それは威信をかける重要な問題であり
当然の批判と考えます。アメリカは他の色々な亊でも責任転嫁をする国柄では
ありますから。調査の結果、感染牛は1997年に法律化した肉骨粉等の飼料とし
ての使用禁止条例の施行直前に生まれたもので、従って短期間であれ肉骨粉を
食べている可能性があると言われています。アメリカ農務省では、調査の状況
などをホームページを使って我々消費者がいつでも把握や検索が出来る様な状
況にし、ベネマン農務長官、主任獣医師であるデイヘブン氏が頻繁に記者会見
を行いました。農務省のHPには2003年12月9日の屠殺から最近までの動きを
表にしてあり、それらを読むと問題の牛は「ダウナー牛」と呼ばれる怪我か病
気で歩行困難な状態であり、それでも合法的に屠殺され、危険部位である頭と
骨などを外した状態で出荷されたとことが、我々にも一目瞭然になっています。
http://www.usda.gov/news/releases/2003/12/bsechronology.htm

12月31日にはBSEに関する新対策を発表し、今回のようなダウナー牛の食肉と
しての使用を全面禁止、年齢30ヶ月以上の牛では危険部位に当たる脳や延髄の
食用禁止等を発表しました。調査では、健康な牛1頭の価格(農家の売値)は
約1,000ドル。それに対し、ダウナー牛は約300ドル、更に酷い場合は100ドル
程が相場で、それでも一部は食用に廻されていたのだそうです。それまでのダ
ウナー牛の年間消費量は15〜20万頭との発表がありました。この広大な国で大
量の牛を扱う現状で、ダウナー牛として扱う基準が守れるか等の課題は大きい
と思います。アメリカの牛肉市場ではその約10%が輸出になっており、日本を
初めとする多くの国から輸入規制や禁止を布かれていることの影響は大きく、
一刻も早い輸入再開の為のリフォームが必要と言えます。

○日本は過剰反応

また我々から見ると、日本の過剰反応と過剰要求にも批判されるべきものがあ
ると考えられます。日本からは全頭検査などの要求がありますが、総数で約1
億頭の牛を持ち、毎年3,000万頭以上の牛を屠殺し、商品化するアメリカ(又
は他の牛肉大量生産国のほとんど)の現状ではこれは不可能に近いものであり、
これに関わるコスト上昇を最終的に消費者が受け入れられるのか、他のベター
アイディアも交渉次第ではあるのではないかと考えます。アメリカ国内では、
過剰要求はデメリットであるとされ、全頭検査等の要求はほとんど無いと思え
ます。例えば日本では、客が八百屋に対して商品の微小な傷にも文句を言い、
それを店側が神経質に取り除いた場合の歩留まりと人件費に対するコスト上昇
にも文句を言う、そうした日本人特有の堂々巡りにも繋がるものがあります。
このニュース報道とほぼ同時に、日本では大手スーパーマーケット等がアメリ
カ産牛肉全てを販売中止にするなど、安全な部位までも不安があるように消費
者が感じる状態を人為的に作っていると考えます。消費者もそれが当り前とい
う風潮が出来上がっている様です。本来なら、ステーキやブロック、薄切り、
牛丼用やその他の肉の形が分るものは全て安全安心であり、一部のひき肉製品
やソーセージ等には不安はないものの、安心のために回収する等を積極的に日
本政府と小売業側が考え、賢い対策をとるべきです。

もう一つ当地でBSEが大きな問題にならない理由ですが、アメリカ人が今何に
対して恐怖を感じているかというと、むしろテロ予告が入っていること、イラ
ンの地震被害で死者が約3万人出ていることとその救援方法、イラク等の中東
情勢やインフルエンザの蔓延などがあります。実際に被害が出ているものが先
であり、架空の被害論争や対策は一般的に優先権が低く考えられています。テ
レビのニュースなどでもBSE関連はごく少ないということ実で証明され、面白
可笑しく報道する日本のワイドショーに近い当地の番組でもBSE関連はなく、
そのワイドショーではマイケル・ジャクソン等のゴシップ等を幸せそうに語り
合っています。

日本では真剣であるべきニュースも、タレントや芸人が扱い、無知な上に無責
任な発言をしていること、これは言語道断です。もっとも一部の担当大臣の発
言を聞いても、勉強不足で無責任と実感します。それに踊らされる消費者や小
売店、その反応に振り回され対策を講じる政府の役人等こそ平和ボケと言えま
す。今アメリカの話題では、先週発売禁止になったダイエットピル「エフェド
ラ」が実際に副作用で、有名スポーツ選手を含む約150人の死者が出ているわ
けで、そちらのニュースの方が大きい様です。

アメリカではクリスマスが1年で最大の祝日であり、新年までにかけても各家
庭に人が集まりご馳走も作ります。牛肉料理はどんな時でもご馳走の最たるも
のですから、このタイミングでBSE等のこと件が起これば状況によっては致命
的になるのではと考えられました。筆者は12月24日の午後の買い物ピークの日
から、祝日と週末開けの12月30日(火曜)までニューヨーク市内と郊外の食品
店と牛肉料理店(計30軒以上)を良く観察し、新年と直後の週末明けの1月5日
までの様子を見、通常に戻った初日の食肉卸売り市場(市内チェルシー地区)
でのインタビューをしてみました。消費者はBSEに対して、確かに多少の不安
もあるようで、食品店で牛肉を買う時に店員に問い合わせている場合もありま
した。しかし、店員は「我々の肉は安全で心配ない」ということを伝える以外
の対応をするはずはなく、実際に買い控える消費者はほとんどないとのことで
した。また現在まで牛肉の店頭小売価格にも、レストランのメニュー価格にも、
客の入客状況にも、ほとんど変化は見られていません。

店によっては「我々の扱う肉はワシントン州から来たものはありません」(上
記)等のお知らせは見られました。ステーキハウス、ハンバーガー店を確認し
たところ、ニューヨークNo.1のステーキハウス「ピーター・ルーガー」では特
別なキャンセルもなく予約で一杯の状態で、マンハッタン中心部の老舗ステー
キハウス「ギャラガーズ」も、市内の焼き肉店が集まる地域も全く通常通りの
賑わいでした。1月5日の市場卸し価格を調べたところ、ホリデー前の約10%落
ちであり、これはホリデーの需要が終わったこととBSEの影響が混ざっている
ものと考え、10%の数字自体は例年と大差はないそうです。業者によってはこ
の数週間の間に更に10%下がるとの予想をしていました。しかし「需要が特別
に落ちている状況は見られないし、ニューヨークっ子は美味い物を長くは押え
きれないので心配ない」と言っていました。先物市場では既に大きく値下がり
しており、酪農農家では対抗策として出荷を遅らせる等で値下がりを抑えるこ
とになるでしょう。

筆者が付近の食品店の食肉売場で牛、豚、鳥肉を買っている消費者15人程に聞
き取り調査をしたところ、BSEの脅威で牛肉を買わないという人は一人もいませ
んでした。これは農務省の発表通り、問題の牛肉がこちらへ来ていないという
現実も大きいと思いますが、数人の牛肉買い控えはホリデーで食べ過ぎた為の
ダイエットの理由と、まもなく小売価格が下がるだろうからその時にまとめ買
いをするという消費者もおり、現実の脅威や抵抗は当地では少ないことを実感
しました。

アメリカの考え方では、非常に被害の可能性が低い物に対する責任問題は小さ
な問題であり、実際に被害が出ている物に対して対策をとらない責任問題の方
が重要との認識です。しかし、このBSE発覚からまだ2週間ほどの上、一年で一
番大きなホリデーの直後のことですから、今後の進展状況には目が離せません。
当地から離れたアメリカ各地の中でも、私の主な情報収集範囲であるアメリカ
東海岸からシカゴ・テキサス等を含む地域と、発生地に近い西海岸の状況は違
うかも知れません。

日本政府と監督官庁は、食中毒やフグなどで、現実に死者が出ているものには
もっと真剣に取り組むべきで、ほとんど意味がないと言えるブロック肉の輸入
禁止等で、消費者の利益を奪わない対応をすべきでしょう。例えば安全な部位、
パッケージ方法、産地等を考慮した制限等を設けて、輸入禁止を解除していか
ないと、最終的な影響と損害は消費者が被ることになると言うことです。

ニューヨークを含むアメリカのほとんどの地域で、いま日本食や健康食のブー
ムが起きており、特にニューヨークではその傾向が顕著に出ています。こうい
う環境の中では、日本食の健康性などを強くアピールできる可能性も多くあり、
最近も多くのお問い合わせをこちらにいただくなど、豆腐、野菜、寿司チェー
ン、麺類店等、健康食品販売等で大きなチャンスがあると考えます。この問題
も早い時期に解決し、良い年になるよう願っています。

○読者の皆さまへ。
アメリカでは、年末の最後の週にBSE発生という大きなニュースが出て2003年
を終え、テロ予告のために厳戒態勢の中、タイムズスクエアーのカウントダウ
ンと共に、2004年を迎えました。昨年はイラクの戦争があり、それが終結に向
かう等、激動の1年でしたが、私達には強いアメリカという実感が戻ってきて
おり、大きな期待を持った新年と言えます。今年もニューヨークでは1月1日か
らビジネスが始まっていますが、ニューヨークの飲食・食品関係では今までに
無い新しい動きを見せており、そのエキサイティングな状況をタイムリーにお
伝えしていきたいと思います。本年もよろしくお願い致します。

Vol. 12