安澤会長様のご冥福を心よりお祈り申し上げます。
昨年「農業経営者」という私が執筆する雑誌の「編集長対談」に出ていただきました。オリジン東秀は、海外での食材の開発輸入を積極的にされていますが、安澤会長ご自身は、日本の農業に深い理解と思い入れを持っていらっしゃいました。
当時の記事を、「農業経営者」のご協力をいただき、そのまま転載させていただきました。
●農業経営者2001年5月号「編集長対談」より
「オリジン弁当を国民のための基本食に」
(リード)
いま、「中食」といわれる持ち帰りの惣菜、弁当ビジネスが元気だ。外食より安上がりで、家庭の主婦も抵抗なく利用するようになり、マーケットは成長市場といわれている。「家庭の台所に代わって、家族の健康を考えたメニューを提供する」
平成6年、持ち帰り弁当専門店としてオープンした「オリジン弁当」は、それまでの量や品数を売る弁当店とは一線を画していた。防腐剤など添加物は一切使用せず、原料の成分分析にまでこだわり、客の健康を第一に考えたメニューを提供した。
消費者の健康志向の波は、今後は中食というもっとも家庭の食事に近いところに及んでくる。その時流を読んだオリジン弁当は、その後急成長し、平成9年には株式公開も果たしている。もとは中華チェーンだった同社が、弁当専門店に転換するきっかけは何だったのか。そこには「お客の視点」に立ち、自らを信じて変革を起こした、創業者・安澤英雄会長の強い信念がある。
加工食品を販売することも、生鮮品を生産することも、「食べる人のために」という視点を外さなければ、そこに必ず需要がある。原料の開発から手がける同社にとって、農業は原点であり、生産者は役割を分担するパートナーだ。安澤会長に同社の理念と農業との結びつきについて、本誌編集長・昆がインタビューした。
「日本の土は疲弊している。失われた栄養分」
◇昆吉則(「農業経営者」編集長)
安澤会長は、オリジン弁当を「国民のための基準食」にしたいというコンセプトをお持ちになっていますが、その根底には、現代の食生活や食料問題に対しての強い危機感があるのだと感じております。まず、オリジン弁当の原点についてお話し下さい。
◇安澤英雄(オリジン東秀株式会社会長)
私は年10回以上海外に出かけていますが、必ず調理場付きのホテルに泊まり、その土地の野菜を買って食べています。そこで感じることは、野菜に香りやパワーがあるということ。日本のニンジンなどの根菜は、調理すると溶けて香りもなくなってしまいます。これは土の問題が大きいのだと思います。
戦後、日本は大量生産・大量消費の時代に入って、小さい耕地に化学肥料を使い、連作を続けてきたので、土が疲弊している。もともと高温多湿で野菜の栄養分が少ないにもかかわらず、ますます野菜の香りや力がなくなっています。米国や中国、オーストラリアでは連作はせず、休耕させて地力を養っています。また、自然のままの土の能力や機能をそのまま生かすことを、国民や生産者自身が要望しているのです。
いま弊社では、国内の農家とともに身体に良い、本来の機能も持った野菜の生産に取り組みはじめていますが、日本の土の問題は、回復するまで少なくとも7、8年はかかるでしょう。それまでは契約栽培のできる海外に行き、間に合わせざるを得ないという考えです。
また、戦後55年たって、当時の本物のうまさが忘れられようとしています。新しい風味や味を体験してしまうと、「これが本物のうまさだ」と主張し続けることは難しい。けれども40代以上のお客さんは、「他の店の味付けが濃いので、オリジンで食べて初めて素材のうまさが分かった」と言ってくれます。
私も新潟の実家でうまい米を食べていたので、上京して初めて、自分の家の米がおいしかったことが分かりました。20代の若者には味の違いは分からないでしょう。でも今のコンビニ弁当のような食生活はだめだということを、粘り強く主張して、コンビニのそばに店を出し続けているのです。
米国は、生活習慣病や高齢者問題を深刻にとらえ、2000年までにヘルシーピープルという健康・栄養政策を推進してきました。しかし、残念ながら日本の政治家や官僚には、米国のような政策は期待できない。民間の我々が「国民の基準食」を作り上げていくしかないという使命感を持っています。
「創造的破壊がなければ、業界は変わらぬもの」
◇昆
さきほど日本の耕地が疲弊しているというご指摘がございましたが、日本の土壌は人間で言えば糖尿病と同じ状態にあるのです。とかく化学肥料か有機かと言われますが、有機も無機も無く習慣化された過剰施肥が富栄養な農地を作ってしまった。その合併症に悩んで、しかも、その対象療法の薬を飲みすぎて、またその副作用に悩んでいるというのが今の農業の現状です。
その問題の根源が考えられないまま、現実にはほとんど存在していない有機農産物だけが特別に話題とされ、それが商売の『差別化』のために、農家が食ビジネスに要求されている現状を我々は、フードビジネスの無知とご都合主義だと考えています。
また、農業は作物生産業の側面だけが捉えられがちですが、本来は物質循環業だと言うべきなのです。ヒトは作物を通して風土を食べて、それを排出している。だから土、作物、ヒトの栄養とその管理は一つのものとしてつながっている。その本来の姿を、いま持っている技術や科学を活かしてとり戻していかなければなりません。
しかし、有機ばかりがクローズアップされ、本質ではないことが一人歩きし、しかも、それに改めてお上の認可をもとめようとしている。役人に管理されるのではなく、健康は消費者が自分の責任で守っていかなければならない。その窓口としてのフードビジネスがそのことに取り組まなければならない。安澤会長は食の分野でそれに挑戦されているわけですね。
◇安澤
その通りです。日本では有機栽培ばかりが騒がれていますが、マーケットで0.1%もないものは、日常の食材には使えません。大事なのは先ほど話した、自然のままの土の能力や機能を取り戻すことです。そのためには、ものごとを創造してかつ破壊していくことが必要になります。それは古い産業や大きくなった企業ほど難しいことです。
農業がなかなか変わらないというのは自業自得。古い産業や業種は、昔はいい思いをしてきたのです。士農工商の時代から、武士は没落したが農業界は残った。戦後は大量生産・大量販売とメーカー主導の社会に変わった。21世紀になってやっと、消費者=生活者と私どもでは言いますが、消費者の「こういうものが欲しい、こうしたい」という声が主導の社会となってきた。ただ、それに応える商品や農産物がないというのが実態です。
私は日本の農業について批判しているのではありません。ただ、海外の農産物を食べてうまいと感じた。お客さんの立場に立って考えるだけです。より良いものをお客さんに届けることが使命だからです。そのために、中間流通を省こうと、原料から開発していくバーティカルマーチャンダイジングを掲げ、いま弊社の開発部隊は毎日海外に飛んでいる。それくらいやらないと、業界の慣習はやぶれないと思っています。
「国民の健康を守ることが使命、家庭の台所代わりを目指す」
◇昆
安澤会長は、儲かるからこの仕事をはじめたのではなく、まずやりたい、やるべきだという思いがあり、結果として成功があったとおっしゃっていますが、その思いを持ってオリジン弁当をオープンされたときの体験をお聞かせ下さい。
◇安澤 なぜオリジンを始めたかというと、実はそれまで運営していた中華料理店が売れなくなったからです。コンビニだけが伸びて、イートインもテイクアウトビジネスも外食全体が低迷しました。平成4年から5年にかけてのことです。吉野家が100円引きをしたり、マクドナルドがバリューセットを出したりと、一時的な価格破壊が起きた。そしてその時、外食がなぜ売れなくなったか気がつきました。
昭和46年にマクドナルドが日本にでき、外食文化がはじまりました。フードビジネスの歴史はわずか30年です。「食生活を外食に」と洋風文化を教授してきた団塊の世代は、当時20歳代でした。いま彼らは50歳を過ぎ、彼らの食生活やライフスタイルも変化してきています。
まず体型が肥満になり、生活習慣病が増え、体の機能が衰えているにも関わらず、ますますグルメを追及し、高塩分、高脂肪分のものを食べています。しかし私はこうしたものは食べたくないと思ったのがオリジンのヒントとなりました。家庭の食事だったら家族の体調や年齢に合わせて作り、もちろんそこには添加物や防腐剤は入っていない。これから我々は、家庭の台所の代わりをするような外食に変えていかないといけないと思ったのです。
ですからオリジン弁当は、40代以降の人たちを対象に考えました。その人たちは、10歳までに本物の味を体験しているので必ず味が分かる。減化学肥料の原料をできるだけ使おうとも考えましたが、それより添加物や塩分、糖分、脂肪分を抑えて、高齢者でも食べやすいようなメニューを提供することにしました。
最初はこんなものは食べられないと文句がきた。でも繰り返し食べていれば良さが分かって くるはずと、ずっと続けました。家庭の台所に代わって、50品目を揃え栄養バランスの良い惣菜を作れば売れるはずだと考えました。平成6年に1号店が開店した時は、お客さんはびっくりし、とくに女性は「こういう店がほしかった」と来てくれました。
◇昆 防腐剤や添加物を使わないことは食品産業の慣習から転換することですから、大変勇気のいることだったと思います。そのために余分にコストや手間がかかることに迷いはありませんでしたか。
◇安澤 不況で売れず、背水の陣を敷いたというのが正直なところです。いまは勝ち組と言われているので、理念的なことをいろいろ言えますが、これでダメだったらラーメン屋だけやろうと考え、損得抜きで勝負をかけました。これがお客さんのための店になると思っていましたが、支持されるかどうかは分からなかった。最初の1.2年は赤字でしたが、お客さんの表情を見て、これは拡大してみようと思ったのです。
「自分の身体をリトマス紙にして、メニュー開発しています」
◇昆
赤字ではあったが、お客さんの表情はこの店がお客さんのためになっていることを伝えていた。それを安澤会長は感じとられたということですね。
◇安澤
そうです。外食ビジネスに携わって30年になりますが、オリジンは私に、本当にお客さんの側に立ったものとは何かを見せてくれました。オリジンは神様が私に最後に与えてくれた宝と思っています。私は3年前、店頭公開してすぐにがんを患い、胃や脾臓、すい臓も一部切除しまして、65キロあった体重は45キロにまで減りました。
体の機能が衰えたことで、体がすごく反応するようになり、悪いものを食べると体が痛くなる。でも自然のものを食べると絶対痛くならないのです。だから私は自分をリトマス試験紙にして、これはだめ、これはいいという判断をし、メニューを開発してきました。いまは、添加物や防腐剤を使ったものや味が濃いものには、すぐ体が反応するぐらい体の透明度が高くなっています。自分が命をもらったのはこのためだと思っています。
◇昆
オリジン弁当は急成長を遂げましたが、逆に組織が大きくなる中でそれに対する戒めといったものを安澤会長ご自身感じておられることと思いますが、それをお聞かせ願えれば。
◇安澤 私は明治大学に入学後、全学連で学生運動をやって、政治家や財界人から権力を奪して社会を変えようと思っていました。ですから政治家や財界人ではなく、「お客さん」にこそ喜んでいただく、それが社会の中で自分の理念を実現できる会社であると考えています。それが創業の原点でもあり、今でもそれは変わりません。
政府も官僚も企業も、個人を犠牲にして成り立っているのが日本の社会の構図です。666兆円の赤字国債発行は、個人の犠牲のもとに借金を棒引きしたいという意図が丸見えでしょう。ゼネコンも農業の保護も同様です。しかし、一番の基本はお客さんにほかなりません。生活者の視点でものを提供し、その中で思想の進化を続けていけば、ダイエーにはなるまいと思っています。
組織が大きくなることは悪いことではありません。もともと一から始まった細胞の思想が大きくなり、やがて分業化していく。そこがおかしくなると退化してしまう。私はそうならないように、次の社長をスカウトし、組織を10歳若返えらせました。ビジョンと行くべき方向さえ間違わなければ、方法や手段は次々と進化してくるのが当たり前で、それが創造的破壊です。
しかし経営は、哲学と技術だけでは成り立たない部分もあります。資本主義社会ではお金と人材は不可欠です。一部の人たちは、心意気や志でできますが、やはり社員のやりがいは報酬体系をよくしないと続かない。多くの人たちを率いるリーダーは、そういうことにも配慮しないと、自分達の精神的な喜びだけで満足していては、人は育たないのです。
「経済社会では皆が対等、農業はこれからビジネスチャンス」
◇昆
さきほど古い産業は変わることが難しいというご指摘がございました。まだほんの一部ではあるのですが、わが国の農業においても地域や業種を越えてネットワークを作り、後継者を育てるという動きが起きています。そういった新たな志を持った農業経営者たちに対して安澤会長から一言いただければ。
◇安澤 日本の農業は復活していかないと必ず食糧不足が生じるでしょう。2005年には世界の人口が60億から80億になり、海外から輸入ができなくなる。私は国内の農業経営者の方々が株式公開をし、将来上場するといった夢を持っていただきたいと考えています。そしてそういう方々には是非お手伝いしたい。
経済社会ではみなが対等で、生産も流通も小売もそれぞれが役割分担をしているわけです。産地で一番おいしい物を食べてる農家が一番うまいと思ったものを出し、そこからインフラをどうするかを考えればいい。いま日本の小売は127万店で市場規模は100兆円、外食は47万店で27兆円ぐらいです。対して農家は販売農家だけで247万戸もある。その人たちが自己変革していけば、すぐには無理でも10年かければ、なんとか新しい仕組みを作れるはず。お客さんは明らかに待っていますよ。
食料は、輸入も含めて70兆円のマーケットがあり、これは国家の82兆6千億円の予算に匹敵するビジネス。一世帯あたりの家計費429万円の25%が食料消費です。これから日本の法律も変わって、農家の株式会社化が進み、土地ももっと活用できる時代に入ってくると思います。それを見据えていけば、農業は面白いビジネスになります。早くて10年で転換はできる。いまがまさにその時期です。
◇昆
どうもありがとうございました。
●雑誌「農業経営者」
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――オリジン東秀の益々のご発展と、安澤会長様の理念が永久に受け継がれますことを心よりお祈り申し上げます。(加藤幸子)
(つづく)
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